有人の攻撃ヘリに未来ナシ? 開発“ドタキャン”のアメリカ軍 でもよくあること…?

アメリカ陸軍のAFCが、新型となる有人攻撃偵察ヘリコプターの開発を急きょ中止する模様です。装備の近代化を目指し注力されてきた分野だけに、産業界は驚きをもって受け止めています。ただ実情は、開発中止は察知されていたともされます。
アメリカ陸軍の将来コマンド(United States Army Futures Command:AFC)が2024年2月8日、将来型攻撃偵察機(Future Attack Reconnaissance Aircraft:FARA)プログラムのキャンセルを発表しました。FARAはベルOH-58「カイオワ」偵察ヘリコプターの後継機ということで、アメリカ陸軍は新型の有人攻撃偵察ヘリコプターの開発を目指していました。
有人の攻撃ヘリに未来ナシ? 開発“ドタキャン”のアメリカ軍 …の画像はこちら >>複合同軸ローターとプッシャープロペラという野心的なデザインの「シコルスキー・レイダーX」。最高速度は460km/h以上とされた(画像:シコルスキー)。
AFCは2018(平成30)年、アメリカ陸軍の近代化のために立ち上げられたミッションで、その中でもFARAプログラムは最優先項目とされていました。そのため、このたびの発表が軍や産業界に与える影響は小さくないはずです。この5年で有人攻撃ヘリコプターを取り巻く環境に、何が起こったのでしょうか。
FARAは、半年前までは進捗しているように見えました。2020年3月、1次コンペに応募した5社からシコルスキー社とベル・テキストロン社に絞り込まれると、2社はそれぞれ対照的な機体を発表したのです。
シコルスキー社は複合同軸ローターとプッシャープロペラという野心的なデザインで、最高速度が回転翼機の限界といわれる400km/hを超える460km/hという「シコルスキー・レイダーX」を発表。一方のベル・テキストロン社は、比較的オーソドックスなシングルローターとダクテッドテールローターを備えた有翼の「ベル360インビクタス」を発表しました。いったいどちらが選定されるのか、注目されていました。
当初の予定では2023年秋に飛行試験評価、2028年に最終選定がなされることになっていましたが、陸軍が要求仕様に盛り込んでいた、プロトタイプに装備するジェネラルエレクトリック社製T901エンジンの開発が遅延して、飛行試験は2024会計年度(2023年10月から)に延期となります。
このT901エンジンは2023年10月20日にシコルスキーとベルへ引き渡され、両社はプロトタイプをほぼ完成させてエンジンを待っている状態でしたので、2024年後半には飛行試験に入れる見込みでした。
そのような中での開発キャンセル。産業界にはショックが広がったと思われそうですが、意外にもキャンセルのニュース自体は冷静に受け止められています。ショックなのはキャンセルされたことではなく、タイミングが2025会計年度予算の発表される数週間前だったということ。開発に携わる各社は、2025会計年度もプログラムが進行すると見越して経営計画を立てていたからです。
キャンセルの理由として、ロシア・ウクライナ戦争などでドローンが急速に発達し、有人ヘリコプターの有用性が疑われたことが挙げられています。しかしロシア・ウクライナ戦争の前からFARAプログラムの将来性については懸念がもたれており、いつキャンセルが決断されるかということが密に話題となっていました。
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ウクライナ軍の水上自爆ドローンに襲われ大爆発を起こすロシア海軍の大型揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」(画像:ウクライナ国防省)。
日本では、防衛省が2022年12月に出したいわゆる「安保3文書」の防衛力整備計画の中で、攻撃ヘリコプターと偵察ヘリコプターの全廃を打ち出して波紋を広げていましたが、有人の攻撃・偵察ヘリコプターの将来は明るくないというのは、世界的にも共通した認識だったようです。
FARAプログラムが立ち上げられて以降のドローンの急発達ぶりは、軍や産業界の予想をも超えていたようです。有人ヘリコプターは今後も輸送などでは使われ続けるでしょうが、一世を風靡した攻撃・偵察ヘリコプターというコンセプトがドローンに駆逐されるのは、時間の問題になってきたといえそうです。
産業界にとって数十億ドル規模のプログラムがキャンセルされるというのは問題で、シコルスキー本社があるコネチカット州の議会代表団はすぐに懸念の声明を発表し、国防総省に説明を求めています。ベル・テキストロン社もまた、採用を目指して設備投資を行っていたので、経営への影響が懸念されます。
しかしアメリカでは、こうしたプログラムが進捗途中でキャンセルされるのは珍しいことではありません。あるビジネスコンサルタントは「プログラムの完全な安定性や予測可能性を期待するのは非現実的だ。民需部門では技術や消費者ニーズ、嗜好の変化はあるもので、軍需部門であっても指弾されることではない」と述べています。つまり産業界もある程度は織り込み済みで、軍も別事業などで補填します。
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オーソドックスなデザインのベル360「インビクタス」(画像:ベル・テキストロン)。
今回のFARAのキャンセルについては、比較的早い時期の決定であり、軍と産業界との関係に大きなダメージを与えることはないとされています。無人航空機のアップグレードやUH-60「ブラックホーク」の近代化改修、CH-47F「ブロックII」輸送ヘリコプターの購入計画で、産業界へ仕事を発注しているからです。
大規模プログラムの立ち上げから完成、またはキャンセルに至るまで経緯を公開し、議会もそれに反応するアメリカの軍と産業界、政府の関係性は、日本も参考にすべきところがあります。

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