水原一平氏から大谷選手「26億円」の被害額を回収するのは難しい? 裁判で言い渡された“現実的”な返済計画とは【米国弁護士解説】

大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の口座から不正な送金を行ったとして、元通訳の水原一平氏がアメリカで銀行詐欺などの罪に問われていた裁判で、2月6日、米連邦裁判所は水原氏に対し〈4年9か月の拘禁刑〉〈大谷選手への賠償金およそ1700万ドルの支払い〉〈内国歳入庁(IRS)に対する115万ドルの未払い税金の支払い〉などを言い渡した。
大谷選手への賠償となる1700万ドルは、水原氏が不正送金したとされる額とほぼ同等で、日本円にしておよそ26億円に及ぶ。また、日本の国税局に当たるIRSへの税金支払いも、2億円近い額となっている。これから「拘禁」される水原氏にとって、いずれも現実的に支払いが可能な金額とは思えないが、判決の“真意”は何か。また支払えない場合はどうなるのか。
水原氏の今後について、アメリカの法律に詳しいタイタノ誠弁護士に聞いた。
水原氏に科せられた“返済計画”まずタイタノ弁護士は、今回水原氏に言い渡された判決について詳述する。
「26億円という賠償金の総額が注目されていますが、実際の判決では“現実的”な支払い計画が言い渡されています。
たとえば、刑務所に入っている間は、四半期ごとに25ドル(約4000円)支払えというものです。収監中の報奨金は時給20セントほど(約30円)である場合が多いので、支払うことができる金額でしょう。
そして出所後は、週30時間以上働けるように求職活動し、月々の収入の10%、もしくは最低200ドル(約3万円)を毎月支払うよう命じています」
とは言え、出所後の再就職が難しいのはどこの国も同じだろう。タイタノ弁護士はこう続ける。
「収入がなければ、ない袖は振れません。保護観察官などに相談し、働くことができないことを証明できれば、支払い計画から逸脱したとしても、直ちに罰則が下ることはないでしょう。
ただし、そこで『求職活動を行っていなかったこと』など何らかの違反が判明すれば、追加の罰金を科されたり、保護観察期間が延長されたり、再度収監される可能性もあります」
実際に賠償命令を執行する米国司法省の金融訴訟部(Financial Litigation Unit)は、出所者らの隠し資産や労働状況を調査し、資産・給与の差し押さえなども行っているといい、賠償金の支払い命令には日本よりも強制力があるようだ。
日本への「強制送還」で賠償金支払いはどうなる?しかし、水原氏は出所後、日本に送還されると言われている。
タイタノ弁護士も「断言はできないものの、犯した罪が重大なので日本への強制送還とアメリカの永住権剥奪はほぼ確実だと思う」と話す。
いくら強制力がある命令と言っても、国外に出た人に対して、アメリカが刑を執行することはできない。
「アメリカと送還先の国(水原氏の場合、日本)が協力している国同士であれば、司法や警察といった当局が連携して、資産の差し押さえができるかもしれません。ただ、現実にそこまでやるのかはわかりません」(タイタノ弁護士)
そもそもアメリカの裁判所も「水原氏が賠償金を全額支払えるとは思っていないのでは」とタイタノ弁護士は指摘する。
「さすがに賠償金は被害額と同等ですから免除というわけにはいきませんが、今回は本来科されるはずの利息や罰金が『水原氏にはそれを支払う資力がない』として請求されませんでした。
判決の意図は、少額でも毎月賠償金を支払うことは絶対条件として、『今後、もし資産を得ることがあれば26億円を返すように』ということだと思います。ちなみに今回の判決では、水原氏が誰かから相続を受けた際も、その資産を差し押さえできることになっています。
とはいえ、刑事事件での賠償命令の有効期間は判決日から20年プラス収監期間ですので、約25年ほどになる見込みですから、水原氏が何らかの手段で莫大な資産を得ることがなければ、大谷選手が被害額を全額回収するのは難しいというのが実情です」(タイタノ弁護士)
「アメリカンドリーム」あるとすれば…ウーバーイーツの配達員もクビになったと報道された水原氏。今後、強制送還されるまでの間に「アメリカンドリーム」で大金を手にし、全額は難しいとしても大谷選手への賠償金の一部を賄う方法はないのだろうか。
タイタノ弁護士は「あるとすれば…」として、アメリカならではの方法を挙げた。
「被告人や受刑者が本を書いたり、ドキュメンタリーに出たりして、多額のロイヤリティを受け取るというのは、アメリカでは比較的聞く話です。水原氏もこれだけ話題になっているので、そういったオファーが来るのではないでしょうか。もしかしたら、水原氏がそうしたオファーを受け、得たロイヤリティから賠償金を支払うことはあり得るかもしれません」

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