かかりつけ医機能報告制度とは?概要と医療機関・患者への影響をわかりやすく解説

かかりつけ医機能報告制度は、2025年4月から施行される新たな医療制度として導入されることが決定しています。この制度の主な目的は、地域の医療機関が日常的に提供しているかかりつけ医機能について、詳細な情報を都道府県に報告することを義務付けるものです。この取り組みにより、地域医療の実態をより正確に把握することが可能となります。
具体的には、特定機能病院と歯科医療機関を除く全ての医療機関(病院・診療所)が、自身が提供しているかかりつけ医機能に関する情報を定期的に都道府県に報告することが求められます。報告された情報は、各都道府県によって慎重に確認・評価された後、住民が閲覧できる形で広く公表されることになっています。
この制度の特徴として、単なる情報収集にとどまらず、収集したデータを活用して地域の医療提供体制の改善につなげることを目指している点が挙げられます。報告された具体的な情報をもとに、地域の関係者が協議を行い、それぞれの地域に必要とされる適切なかかりつけ医機能を確保するための効果的な方策を検討し、計画的に推進していくことが期待されています。
かかりつけ医機能報告制度が創設された背景には、日本の急速な高齢化と人口減少があります。
厚生労働省の推計によると、2040年には85歳以上の人口が約1,000万人に達し、全人口の約10%を占めるようになると予想されています。
こうした人口構造の変化に伴い、医療需要も大きく変化すると考えられています。具体的には、複数の慢性疾患を抱える高齢者の増加、医療と介護の複合ニーズを持つ患者の増加、在宅医療の需要の増加、地域による医療需要の格差の拡大などが予想されています。
一方で、医療提供側では、医療従事者の不足や偏在が課題となっています。特に、地方部では医師の高齢化や後継者不足が深刻化しており、地域医療の維持が困難になりつつあります。
このような状況の中で、かかりつけ医機能報告制度は、地域におけるかかりつけ医機能の「見える化」、患者がかかりつけ医を適切に選択するための情報提供、地域のかかりつけ医機能の充実に向けた協議の促進、効率的で質の高い医療提供体制の構築を目的として創設されました。
かかりつけ医機能報告制度の対象となる医療機関は、特定機能病院と歯科医療機関を除く全ての病院・診療所です。具体的には、一般病院、診療所(無床診療所を含む)、療養病床を有する病院、精神科病院が報告の対象となります。
特定機能病院が除外されているのは、これらの病院が主に高度な専門医療を提供する役割を担っており、日常的なかかりつけ医機能とは異なる機能を果たしているためです。
また、歯科医療機関が除外されているのは、歯科医療が口腔ケアという特殊な分野を扱っており、一般的なかかりつけ医機能とは異なる特性を持っているためです。
報告の対象となる医療機関は、自院が提供しているかかりつけ医機能について、定期的に都道府県に報告することが求められます。報告の内容には、日常的な診療の実施状況、時間外診療の体制、在宅医療の提供状況、介護サービスとの連携状況などが含まれます。
重要なのは、この制度が全ての医療機関に一律のかかりつけ医機能を求めているわけではないという点です。各医療機関の規模や特性、地域の実情に応じて、異なる形でかかりつけ医機能を発揮することが想定されています。
かかりつけ医機能報告制度では、医療機関に対して主に2つの機能に関する報告が求められます。これらは「1号機能」と「2号機能」と呼ばれています。
これらの機能について、医療機関は自院の状況を詳細に報告することが求められます。報告された情報は、都道府県によって確認され、地域のかかりつけ医機能の充実に向けた協議の基礎資料として活用されることになります。
かかりつけ医機能報告制度における報告は、年1回の定期報告として実施されます。2024年10月時点での具体的なスケジュールは以下の通りです。
報告の方法については、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を活用することが予定されています。G-MISは、新型コロナウイルス感染症対策で活用された実績のあるシステムで、医療機関と行政機関をオンラインで結ぶプラットフォームです。
G-MISを使用することで、医療機関はオンラインでの簡便な報告が可能になり、過去の報告内容の参照や修正が容易になるなど、事務負担の軽減が期待されます。
なお、現行の医療機能情報提供制度に基づく報告を紙で行っている医療機関は、郵送される調査票への記入となる見込みです。

報告のイメージ
医療機関から報告された情報は、各都道府県によって確認作業が行われます。この確認作業は単なる形式チェックではなく、報告内容の妥当性や整合性についても確認が行われます。
確認の主なポイントは、報告項目の記入漏れや明らかな誤りがないか、報告内容が医療機関の実態と整合しているか、2号機能に関する報告内容が実際の体制と一致しているかなどです。確認の結果、疑問点や不明点がある場合は、都道府県から医療機関に対して照会が行われます。
確認作業を経て、都道府県は各医療機関のかかりつけ医機能の内容、2号機能の体制確認結果、地域の協議の場での協議結果を公表することになります。公表の方法については、各都道府県のウェブサイトでの公開が想定されています。
この公表により、患者や地域住民は、自分の地域にどのようなかかりつけ医機能を持つ医療機関があるのかを容易に知ることができるようになります。
これは、適切なかかりつけ医の選択に役立つだけでなく、地域の医療提供体制の透明性向上にもつながることが期待できるでしょう。
かかりつけ医機能報告制度の導入は、医療機関に対してさまざまな影響を与えると予想されます。まず、直接的な影響として、報告業務に伴う事務負担の増加が挙げられます。特に小規模な診療所などでは、新たな業務への対応が課題となる可能性があるでしょう。
しかし、この制度は単なる負担増ではなく、医療機関にとって自院のかかりつけ医機能の可視化、地域における自院の位置づけの明確化、患者からの信頼向上、地域の医療ニーズの把握、連携先の拡大、診療報酬への反映の可能性などのメリットももたらすと期待されています。
一方で、この制度の導入によって医療機関には、かかりつけ医機能の強化、地域連携の強化、情報管理の徹底、患者とのコミュニケーション強化などの変化も求められます。
長期的には、この制度を通じて各医療機関がより適切な役割分担と連携を図ることで、地域全体の医療の質の向上につながることが期待されています。
かかりつけ医機能報告制度は、患者や地域住民にも大きな影響を与えると考えられます。特に、医療機関選択の判断材料が増加することで、適切な医療サービスの受診の促進につながるでしょう。そのほかにも継続的で一貫した医療が受診できたり、地域の医療提供体制の透明性向上も期待できます。
介護の面からみると、在宅医療・介護との連携強化や予防医療の促進などのメリットも期待されています。
高齢者の要介護認定率は年齢とともに上昇し、85~89歳では47.4%、90歳以上になると73.2%に達しており、医療と介護の複合ニーズを持つ高齢者が増加していることがわかります。
このように、かかりつけ医機能報告制度は、長期的には患者と医療機関の関係がより対等で協力的なものになり、地域全体の健康増進につながることが期待されています。
かかりつけ医機能報告制度は、個々の医療機関や患者への影響だけでなく、地域医療体制全体の強化にも大きく貢献すると期待されています。
まず、各医療機関のかかりつけ医機能が明確になることで、地域の医療資源の可視化が進みます。これにより、地域にどのような医療資源があるのか、また、どのような機能が不足しているのかが把握しやすくなります。結果として、地域の医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消しやすくなります。
また、効率的な医療提供体制の構築にも寄与します。地域の医療資源の状況が明確になることで、各医療機関の役割分担や連携体制をより効率的に構築することができます。
例えば、在宅医療の需要が高い地域では、在宅医療を提供できる医療機関を増やすといった対策を講じることができます。
さらに、地域包括ケアシステムの推進にも貢献します。かかりつけ医機能には、介護サービスとの連携も含まれています。この情報が共有されることで、医療と介護の連携がより円滑になり、地域包括ケアシステムの構築が促進されます。
さらに具体的に述べると、以下のような効果も期待されています。
このように、かかりつけ医機能報告制度は、地域医療体制の強化に多面的に貢献すると期待されています。ただし、これらの効果を最大限に引き出すためには、報告された情報を適切に分析し、実効性のある施策につなげていくことが重要です。また、制度の運用状況を定期的に評価し、必要に応じて改善を図っていくことも求められます。
最後に、この制度の成功には、医療機関、行政、そして患者・住民の協力が不可欠です。それぞれの立場で制度の目的を理解し、積極的に参加することが、地域医療の質の向上につながるでしょう。

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