今年5月、厚生労働省は2023年度の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」を公表した。
企業を対象にしたアンケート結果では、過去3年間で、職場内でのセクハラの相談事例や、該当事例について「件数は減少している」と回答した割合が「件数が増加している」の割合を上回る結果となっている。
さすがに減少傾向にあると思われる一方で、39.5%の企業が過去3年間でセクハラについて相談を受けたと回答。2020年度の調査からは9.7%増加している。
職場でのセクハラが依然として問題となる中で、週刊文春電子版は10月9日、ベンチャーキャピタル大手のジャフコで働いていた契約社員女性が受けたセクハラ被害の告発を報じた。
10月11日、女性の代理人弁護士が都内で会見した。
社員2人がマフラーで首絞め襲う女性が勤務していたジャフコは累計で1000社以上の上場企業に投資を行っている老舗ベンチャーキャピタル企業。会見では、名の通った企業で起こった卑劣なセクハラ被害が詳細に明かされた。
被害に遭った女性にセクハラが始まったのは、入社一年もしないころから。同じプロジェクトで働く男性社員2人から、夜中に何度も電話をかけられたり、「好きでしょ?こいつにやらせてやって」とセクハラ発言をうけたりするなどの被害に遭ったという。
会社の忘年会に参加した際には、AとBの2人から襲い掛かられ、マフラーで首を絞められたうえに胸を触られたという。
こうしたセクハラ被害を女性が申告したところ、会社はAとBを出勤停止と減給の処分を下した。
しかし、女性への被害はこれで収まることはなかったという。
社内では処分を受けたAが社員集会で謝罪することが検討され、これに対し女性は「(女性社員が少なく)セクハラ被害を受けたのが自分であることが広まってしまう」として、辞めるよう社長に懇願。
役員だけが出席する会議で謝罪をする、という内容で最終的には合意したものの、結果として社内の多くの人に話が伝わったという。
さらに、その後は加害者2人がプロジェクトを去ったこともあり、女性は過重労働が続き、挙句には、執行役員からの退職勧奨を受けた。
その際、執行役員は女性に対し、人格を否定するような発言を繰り返し、「同じ契約の条件は出せない」として、それまでの半分の賃金での契約を提示。女性は職場に働きがいを感じていたこともあり、最終的に契約内容を受け入れたものの、急性ストレス性胃炎を発症し、路上で倒れ休職。職場復帰することなく、そのまま契約は終了となり、雇い止めにあったという。
女性から相談を受けた代理人は、A、Bに民事調停を申し立て、会社に対しても安全配慮義務違反に基づく損害賠償や地位確認を求め交渉を実施。
A、Bはセクハラ行為を認め謝罪し、賠償金の支払いにも応じた一方、会社側は代理人弁護士を通じ、法的責任を否定。契約を終了したこととセクハラは関係がなく、雇い止めではないとし、謝罪もしなかったという。
女性起業家の約52%、投資家らからセクハラ被害にこうした一連の対応について、代理人の指宿昭一弁護士はジャフコ側の姿勢に問題があるのではないかと指摘する。
実はジャフコが君臨するベンチャーキャピタル業界は、セクハラに対し、”緩い”といわれている。
今年7月にアイリーニ・マネジメント・スクールが実施した調査によると、女性起業家の約52%が過去1年間にセクハラ被害を受けたと回答。セクハラの加害者として最も多くあげられたのが、投資家やベンチャーキャピタリストだった。
「ジャフコは老舗ベンチャーキャピタルであり、上記のような社会問題が明らかになった今、セクハラ行為によって労働者や投資家に対する人権侵害を引き起こさないよう防止する責任があるはずです。
にも関わらず、本件の法的責任を否定し、謝罪や賠償を拒否する姿勢には重大な問題があります。
また、相手側の弁護士も、社会的に問題になっている事件で、責任を全面的に否定するという姿勢はどうなのかと思います」と指宿弁護士は憤りを隠さない。
ベンチャーキャピタル業界の構造上の問題にも指宿弁護士は言及する。
「被害者からの話を聞く限り、女性起業家へのセクハラはベンチャーキャピタル業界内では前から言われていたことのようです。
ベンチャーキャピタルの社員で、普段からセクハラ行為に及んでいる人が自社内の女性社員に対しては、尊重して丁寧に対応するかというと、そうではないのだろうと推測されます。
時代錯誤ですが、やはり普通の会社員とは違い、何億ものお金を投資する担当者ですから、『自分にはこんなに力があるから少しぐらい…』というような感覚を持ってしまっているのでしょう」
「背景に業界全体の問題があると確信」指宿弁護士は今後のジャフコとの交渉について「われわれとしては交渉で会社と話し合いで解決するのがベストだと考えている」としつつ、次のように展望を語った。
「裁判になると時間もかかるし費用もかかります。なによりも被害者の心身的な負担が大きいです。
ですが、会社が全く対応しない場合は仕方がないので、提訴せざるを得ないと考えています。
また、われわれ弁護士としては、被害者の救済が第一ですので、そこに向けて交渉など進めていきたいと思いますが、本件の背景には業界全体の問題があると確信しています。
この事件を通して、被害者の回復だけでなく、会社・業界が変わるきっかけになればと思います。被害者もそれを望んでいます」
令和の時代でも問題となるセクハラ。特定の業界で根深く、より悪質なのだとすれば、早急な対策が強く求められる。