65歳以上の100人に1人が発症するとされているパーキンソン病。この指定難病の治療においては、薬やリハビリのほかに手術という選択肢がある。一定数あるパーキンソン病の手術は危険だという声に対して、パーキンソン病の手術が担う役割の重要性を唱えるのが湘南藤沢徳洲会病院の山本一徹氏だ。山本氏は日本に機能神経外科を志す医師がほとんどいないなか、トロントに留学して先端の治療技術を学び、自らのスタイルを確立してきた。完治する方法が見つかっていないパーキンソン病治療において手術がもたらす価値とは……。
―― 現在、機能神経外科医としてご活躍されている先生が、医師を目指すきっかけについて教えてください。
山本 高校3年生のとき、パーキンソン病の手術の動画を見て衝撃を受けたことがきっかけです。
当時、私の父はデアゴスティーニの「インサイド・ヒューマン・ボディ」というシリーズを定期的に買ってくれていました。このシリーズは、非医療者向けに分かりやすく作られたビジュアル医療マガジンで、絵や写真を使って人体の仕組みなどを解説している雑誌でした。
図鑑を見ているだけで楽しかったのですが、17歳のある日、父がオプションで購入できる手術シーンのビデオを買って見せてくれまして。
そのビデオは乳房再建手術・消化管の手術・パーキンソン病の手術の3本でした。そのなかのひとつ、パーキンソン病の手術のビデオを見たとき、衝撃が走ったんです。
―― どのような点に衝撃を受けたのですか?
山本 パーキンソン病のことは知っていたのですが、手術ができる病気だとは思っていませんでした。ですので、パーキンソン病の患者さんに脳の手術ができることに、まず衝撃を受けました。
それから、劇的に症状が改善している様子に、大変驚きましたね。
ビデオに取り上げられていたのは、震えによってコップでお薬を飲むのも大変で、自分で歩くのもままならない状況だった方でした。それなのに、手術のあとは、孫と一緒に走り回ったり、フリスビーをしていて。
手術によって、こんなに症状が良くなるものなのか、脳ってすごいなと思いましたね。脳に対する強烈な興味が湧いてきたのと同時に、そのときに初めて機能神経外科という領域があることを知りました。
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―― そのときから、将来は医師になることを決めたのですか?
山本 そうです。このビデオを見たとき、自分もこの治療ができるようになりたいと思ったんです。
機能神経外科医になるためには脳外科医になることが必要があり、脳外科医になるためには医師にならなければいけない。そのためには医学部に入らなくては、という具合に目標から逆算して人生設計をしていきました。
―― 1本の動画でその先の人生が決まったのですね。
山本 そうですね。父のおかげだと思っています。父は常々、「買いたい本があったらいくらでも買ってやるし、勉強したいことがあったら、いくらでもさせてやる」と言っていました。今考えると、父自身も医療に興味を持っていたのではと思うんです。
―― お父さまは、医療関係の仕事ではなかったのですか?
山本 父親は元警察官で、のちに資格を取って行政書士になりました。 母は父の仕事を手伝っていたのですが、二人とも教育熱心でしたね。
二人とも朝から晩まで働いていましたが、そのようななかでも父は毎晩遅くまで勉強していたんです。
一度決めたら、まっすぐ目標に向かっていく私の生き方は、父から譲り受けたものだと思っています。まぁ、私の場合「名前の通り、頑固一徹ですね」と言われたりもしますが(笑)。
北海道の大学を卒業後は、日本で一番忙しいといわれている「湘南鎌倉総合病院」で研修を受けることにしました。忙しいということは患者さんの数が多いということですし、症例数が多いということは、医師としての力を付けられると思ったのです。
―― 先生が現在、専門としている治療について教えてください。
山本 おもに、手の震えや歩行障がいなどの症状が出る「パーキンソン病」、筋肉が自分の意思とは関係なく、こわばったりねじれたりする「ジストニア」、原因がないのに体の一部が震える「本態性振戦」といった難病の方の治療をしています。
おもに脳に対する手術によって、これらの病気の症状緩和にアプローチしています。
―― 月にどのくらいの手術をしているのですか?
山本 現在は、月に15~20件ほどですね。基本は「週2日外来、週3日手術」というスタイルです。
―― 過去の取材記事には、「機能的神経疾患センターの立ち上げ当初、患者さんが来なくて閑古鳥が鳴いていた」と答えていました。どのようにして患者さんが増えていったのでしょうか。
山本 地道な啓発活動の効果が大きかったです。周辺の医療施設や開業医向けの講演会を行ったり、医師向けの講演会に呼んでいただいたりしてパーキンソン病患者さんの治療に悩んでいた医師から多くの相談を受けるようになりました。さらに、オンラインなどで毎月開催している非医療者向け医療講演には、患者さんやご家族の方など、本当に困っている方が多くご参加になり、受信希望者が右肩上がりで増えていきました。
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―― 蓋を開けてみると、求めていた方がたくさんいたということなのですね。
山本 そうですね。パーキンソン病の症状が悪化して、この先どうしたらいいか分からないと感じていた方は多かったです。
それから、広報のために大きな力になったのがSNSです。最初のうちはフォロワーも少ないですし、何かをアップしても見てくれる人は、ほとんどいませんでした。
でも、次第に手術を受けた方やそのご友人、パーキンソン病を患っている方や、その方が所属するコミュニティの方などが見てくださるようになって、徐々にフォロワーも増えていったんです。
そして、ついに「インスタグラムを見て診察にきました」という方も出てくるようになりました。これは私たちの念願でもありましたね。
―― 加齢に伴って増えるとされるパーキンソン病とは、どのような症状があるのか改めてお聞きできますか?
山本 パーキンソン病の症状としては、手足や頭の震えがあるほか、動作緩慢、歩く際に足を踏み出せなくなるすくみ足などがあります。
さらに歩行障害を伴ってくると、前のめりの状態で歩行スピードが早くなり、壁などにぶつかってしまう突進現象が起こるケースもあります。歩行の観点で言えば、小さな歩幅でちょこちょこ歩く小刻み歩行という症状に悩まされる人もいます。
ほかにも、筋肉がこわばって関節が固くなる筋拘縮という症状や、バランスを崩しやすくなる姿勢反射障害という症状が出ることもあります。
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震えの症状がメインの場合は振戦優位型パーキンソン病と言い、振戦優位型パーキンソン病の方でも、多くの場合、ほかの症状も伴います。一方で、震えの症状が乏しいパーキンソン病の方もいます。
―― 症状は、どのように進行していくのでしょうか。
山本 パーキンソン病は、これらの症状が右半身・左半身で明確に差がある場合が多いです。初期の頃は大抵、片側の症状から始まります。
さらに進行すると、左右差がなくなってきますが、片側だけ震えたり、動きが遅かったりする症状があると、パーキンソン病を考える一つのきっかけになるでしょう。ただし、必ずしも左右差が明確にあらわれるわけではありませんので、専門家に診断してもらうことが大切です。
それから、パーキンソン病かどうかを診断する目安になるのがレボドパ製剤という治療薬の効果です。パーキンソン病の方は、レボドパ製剤がよく効くという特徴があります。すべての症状に効くのではなく、動作緩慢などの一部の症状にのみ効く場合もあります。
―― パーキンソン病を予防することは可能なのでしょうか。
山本 残念ながら、予防する方法はありません。そのため、正しい診断と正しい治療が何より大切です。お薬による治療・手術・リハビリテーションが治療の三本柱です。
―― 手術に適したタイミングについては、どのように考えたら良いでしょうか。
山本
どのタイミングで手術をしたらよいかは、いまだに議論のあるところですが、発症からの年数のみで区切ると、その間、投薬治療を受けてもなお症状がつらい方から改善の機会を奪いかねません。
パーキンソン病のお薬は、病が進行するにつれて効く時間が短くなったり、効きが悪くなったりする「ウェアリングオフ現象」が起こります。
お薬の効きが悪いからといって量を増やしすぎると、めまい・ふらつき・幻覚などの副作用が出やすくなります。
ですので、お薬を十分調整しているにもかかわらず症状で困っている場合や、副作用で十分な調整が行えないような場合には、手術することを視野に入れるべきだと考えています。
―― 手術の選択肢を提示することは、患者さんにとっても重要ですね。
山本 私が留学していたトロントでは、手術によって改善が期待できるか否かを予測する検査が、手術の決め手になっていました。
手術の対象となるか否かを、客観的指標を用いて判断することは重要です。しかし、日本で検査は一般的になっていないのです。
―― 手術をすればパーキンソン病は治すことができるのでしょうか。
山本 残念ながら手術を受けてもパーキンソン病は治りません。パーキンソン病を食い止める方法や治療方法は多々研究がなされていますが、完治する治療法はひとつもないのが現状です。ですので、パーキンソン病は進行していく病気であるという認識のもと、手術を行う必要があります。
―― 手術を受けるメリットは、症状を和らげることにあると考えたら良いでしょうか。
山本 手術によって症状が劇的に改善し、長年経っても症状の改善効果が維持されている方も多いです。
手術によって、症状が劇的に改善したある患者さんは、このように言われました。 「手術前に散々説明を受けたので、パーキンソン病が治らないのは分かっているんです。でも、長い間、悩んでいた症状がおさまったので、自分としては治ったような気分です」って。
ひと昔前は「手術後、5年も経過すれば病気に追いつかれてしまい、手術前と同じような状態になっちゃいますよ」と言っている医師もいました。しかし、これは誤りです。
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―― と、言いますと?
山本 進行を食い止めることはできませんが、手術を受けずに一定年数経過して進行した状態よりも、手術を受けて同じ期間経過した状態の方が、良好に保たれていることを期待して手術を行います。
その一例を示すこちらの動画をご覧ください。
これは、トロントで撮影した動画ですなのですが、この患者さんはパーキンソン病の手術を受けた84歳の女性です。59歳のときに手術を受けているので、この動画を撮っている時点で25年経っています。
体に埋め込んだ機械のバッテリー交換で病院に来ていただいたのですが、スイッチをオフにしたら、激しく震え始めるんです。しかし、スイッチをオンにすると、ピタッと止まります。
手術を行って25年経過した今も、手術の効果が持続しているということです。「手術を受けなければ、今まで穏やかな日々を過ごしてこられなかった」とおっしゃっていました。
病気は進行していますが、普段は車椅子で生活ができています。
―― 25年というと、かなり長いですね。
山本 手術の効果が持続している報告が、年月を経て得られるようになってきました。25年経っても30年経っても効果が持続している方々が増えています。
逆に申しますと、この方は手術を受けなければ、このスイッチを切った状態で過ごさざるを得なかったわけです。投薬治療やリハビリテーションに加えて、手術のもたらした効果の大きさは、今の動画をご覧いただくと想像に難くないでしょう。
―― パーキンソン病の手術には、どのような方法があるのでしょうか。
山本 パーキンソン病の脳の手術には、脳深部刺激療法(DBS)、高周波熱凝固術(RF)、集束超音波治療(FUS)の3通りの方法があります。
DBSは、脳の中に電極を埋め込んだあと、胸に神経刺激装置という機械を埋め込み、両方を延長ケーブルでつなぎます。すべてが皮膚の下に埋め込まれている状態です。神経刺激装置から発せられた刺激が、脳の電極を埋め込んだ領域を刺激するわけです。
パーキンソン病のほかにも、ジストニアという身体の一部、または全身がこわばってしまう病気や、本態性振戦が、手術の対象になる代表疾患です。
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―― 手術はどのように進めていくのですか?
山本 当センターでは、頭皮の切開やドリルで頭蓋骨に小さな穴を開けるといった工程は、全身麻酔で眠っていただいた状態で行います。電極を目標の部位まで挿入した段階で目を覚ましていただき、試験的に電気刺激を行います。症状の改善具合や副作用がないことを確認したら、電極を固定し、続けて胸に神経刺激装置を入れる流れです。
長所としては、脳の左右一度に治療ができることです。病気が進行すると体の両側に症状が出てくるので、左脳・右脳の両方とも一度に治療できるのは患者さんにとって大きなメリットになります。短所としては、体に機械を埋め込む必要があることです。
―― 続いて、RFについてもお聞きしたいです。
山本 RFは、脳の患部を電極で温めて凝固する手術ですが、流れはDBSに似ています。手術中に電気刺激を行って、問題がなかった場所の温度を上げ、数ミリの範囲で熱凝固を行って処置していきます。
RFも、当センターでは最初の辛いところが終わるまでは、全身麻酔で眠っていただきます。そして、その後は目を覚ましてもらって、症状が改善していることや副作用がないことを確認しながら手術を進めていきます。目覚めてから手術が終わるまで、特に苦痛はありません。
こちらの動画では、電極を通した試験刺激で振戦優位型パーキンソン病の震えが止まる瞬間が確認できます。
RFのメリットは、体に機械を埋め込む必要がないことです。さらに、ターゲットとして定めた患部の温度を確実に上昇できる特徴があります。
デメリットは、体の左右両方の治療が一度にできないことです。例えば、本態性振戦は基本的には両手とも震える病気です。そのため、RFを行うのであれば、両側治療を希望の場合、最初に片側手術を行ったあと、半年以上時間をあけてから、反対側の手術をすることになります。
―― 3つ目のFUSについてはいかがでしょうか。
山本 FUSは、MRI室のベッドのうえで行う手術です。約1000本の超音波を脳の一点に集めて、温度を上げて患部を凝固します。
脳の一部を凝固するという点では、先ほどのRFと似ていますが、FUSはメスを使わない手術ですので、頭蓋骨に穴を開ける必要はありません。手術は、MRIを見ながら行います。
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ただ、頭蓋骨の条件によっては頭蓋骨が超音波のほとんどを吸収し、ターゲットの温度が上がりにくい場合があることが分かっています。そうすると、吸収されたエネルギーが頭痛になって返ってきてしまう。
超音波照射が終われば頭痛は止みますが、頭痛が生じる一方で手術の効果は得られないようでは、患者さんも辛いです。それを避けるためにも、事前に頭蓋骨の条件を調べます。
超音波の照射ののち、すぐに副作用を確認するため、眠っている状態では手術ができません。治療の終盤には超音波の照射エネルギーが高くなり頭痛を生じる可能性が高まるので、鎮痛剤を予防的に投与して超音波照射を行います。
ちなみに、今申し上げた手術は、すべて保険が効く手術になります。
―― 手術の事例についてもお聞きしたいです。
山本 この方はFUSを行いましたが、温度がうまく上がりませんでした。手術前に温度が上がらない可能性が高いことは分かっていたのですが、それでもFUSを希望されたため、手術を行いました。FUSで効果を得られなかったため、その後RFの手術をしています。
RFを行ったところ、強かった震えが、かなり改善。手に持ったコップの水をバシャバシャこぼしていたのですが、右手だけで、こぼさずに水を注げるようになりました。
この方はジストニアを患っているピアニストです。ピアノを弾こうとすると左手の薬指と中指が曲がってしまって、ピアノの演奏に影響が出るようになりました。しかし、手術後は、症状がおさまり、伸びなかった指をしっかり使ってピアノが弾けるようになったんです。
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―― 手術中に演奏するのはなぜなのですか?
山本 手術の途中で演奏してもらうのは、手術の効果が出ているか確認するためです。このとき、治療の効果とともに、副作用がないかを確認します。
動作特異性ジストニアという病気は同じ動作を繰り返す音楽家やスポーツ選手などに症状が出やすい病気です。ギタリストであればギターを弾いているときだけ指が伸びなくなる。ピアニストであればピアノを弾いているときだけ指が曲がってしまうといった症状が出てきます。
そのうち、特定の行為をするとき以外にも症状が出る「動作特異性の破綻」が生じ、指が真っすぐ伸ばせなくなる人もいます。
―― 起きたまま手術を受けるのは、ちょっと怖い気持ちもあります。
山本 起きたままの手術を初めて知った方は、怖いと思われるかもしれません。しかし、当センターでは、頭皮の切開や頭蓋骨に穴を開けるタイミングは眠っていただき、患者さんの苦痛をできるだけ減らしています。
完全に眠ってしまわずに意識がぼーっとする程度のマイルドな鎮静で行う手術の方法もありますが、患者さんの苦痛をできる限り取り除くため、私は現在のスタイルにしました。
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―― どの手術を選ぶのかは、患者さんの希望や症状によって変わるのでしょうか。
山本 もちろんです。大前提として、保険適用かどうかは考えなければいけないことです。例えば、FUSは今のところ、本態性振戦とパーキンソン病にしか保険がききません。私の領域で多く治療しているジストニアに対しては、今のところ保険がきかないのです(2024年7月現在)。
保険がきくことを確認したうえで複数の選択肢があるとき、どの方法を選んでいただくかは、各治療法のメリット・デメリットを詳細に説明したうえで、患者さんやご家族の方の希望に則って決定します。
―― 機能神経外科の手術については、誤解も生まれているとお聞きしました。
山本 MRIもCTも出てきていない時代の古いデータを見て、手術に対し否定的な意見を持つ医師もいます。
例えば、かつては、脳内部の脳室という空間に造影剤を注入し、正面と側面のレントゲンを1枚ずつ撮り、そのレントゲン写真のうえに定規を乗せて線を引き、治療するべき場所を特定して手術が行われた時代がありました。
現代は、発展した医療技術により得られたはるかに多くの情報に基づいて手術を行います。
情報が限られ手術の精度が劣れば、合併症を避けることが難しくなります。
必ずしも正確ではないデータに基づき手術に対して難色を示す医師や、自身の知らない治療は勧められないと言って紹介を拒否する医師もいます。
私が担当している患者さんでも、手術を主治医に止められたというケースが少なくありません。
紹介状を書いてもらうように頼んだけれども書いてくれなかった、説明を聞きに来られていないご家族が手術に突然反対した、といった例もあります。
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―― 手術の安全性や効果が正しく理解されていないのですね。
山本 むやみに否定するのではなく、そのデータが正しいかどうかを見極める目や、自ら原著論文を読もうという意欲を持っていただければと思います。
―― 機能神経外科の状況は変わりつつあると思いますか?
山本 今、まさに着実に業界の風向きが変わって来ていると感じています。
2016年に本態性振戦に対するFUSのブレイクスルーとなる論文が発表され、FUSによる治療が一気に世の中に広まっていきました。一方、左右両側の凝固術は長らくタブー視されてきましたが、トロントにいたとき、FUSを用いた左右両側の凝固術の「前向き試験」を世界で初めて論文報告しました。その後、いくつかの研究を経て、FDA(アメリカ食品医薬品局)は両側のFUS治療を承認しました。
結果として、歴史上長らくタブー視されていた治療が正式に認められたわけです。古いデータに基づく通説を現代に即した手法で再検証することの重要性を示す良い例だと思います。
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―― 現代の医療技術に基づく結果が、過去の印象を書き換えることにつながったのですね。
山本 現代の医療技術を駆使して出したデータを正しく伝える。医療や研究に携わる人にとっては、当たり前のことかもしれませんが、それが業界を変えるきっかけになりました。
噂や思い込みでの判断の危うさを感じる例は、ほかにもあります。例えば、RFよりDBSの方が安全だと謳う代表的な論文をしっかり読むと、DBSの手術を受けた方に脳出血が起きたり、亡くなったりしている例が示されているわけです。
また、DBSが認知機能に与える影響を検証したもとの論文を読んで内容をしっかり理解している医師は多くないと感じます。
私の恩師である平孝臣先生がおっしゃる「世の中の風潮や意見に流されることなく、疑いの目を持たなければいけない」ということを例証しています。
―― 治療結果の違いは、医師の腕による違いもあるのでしょうか。
山本 そうですね。細かい手術を行う必要があるので、繊細な手術手技に加え、知識、経験、判断力、更には細かな作業をムラなく安定して遂行できる素質も重要だと思います。
―― ちなみに先生は、手術をするうえでどのような点を意識していますか?
山本 私は手術前の画像解析や手術計画にとても時間をかけ、より安全で効果的な手術を行うためにはどうしたらいいか、ものすごく考えて準備を行っています。
その過程が患者さんを助け、命を守ることにつながるという確信があります。実際、この準備によって治療成績の向上が得られていると実感しています。
―― パーキンソン病を患っている方やそのご家族は、どのようにしてパーキンソン病の治療に向き合うべきでしょうか。
山本 「65歳以上の100人に1人が罹患する」と言われるぐらい、パーキンソン病はありふれた病気です。
世界人口の高齢化が進むにつれて、パーキンソン病を患う患者さんが、増えると考えられます。一方、繰り返しになりますが、パーキンソン病の予防策があるわけではありません。
それならば、病気や治療法について知っておくことがとても大切です。最近、動作が遅くなってきたと感じたり、震えやこわばりを感じたりすれば、脳神経内科など適切な場所を受診することが必要になります。
パーキンソン病は、診断が難しい場合もあります。一回で診断されなかったからといって諦める必要はありません。同じ病院で定期的に診てもらったり、セカンドオピニオンとして、より専門性の高い病院で診てもらったりすることをおすすめします。
脳神経内科のなかでも、脳卒中が専門の医師がいれば、変性疾患という病気が専門の医師もいますから。
どの病気でも共通していえることではありますが、早期発見・早期治療がより良い治療を行うための大切な鍵になるでしょう。
それから、現実問題としてパーキンソン病が進行して歩けなくなり、介護が必要になってきたりすれば、社会福祉の力を借りることも考えていただきたいと思います。
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―― 最後に、今後力を入れて取り組んでいきたい課題について教えてください。
山本 課題はさまざまあるのですが、特に後進を増やしていきたいと考えています。 機能神経外科は、担い手が少ない状況です。これまで、機能神経外科を専門に選びたいと思う医師も少ない状況でした。
私が大学4年生のときに取ったアンケートでは、400名から返ってきた回答で脳神経外科志望者は8名のみ。同級生が100名いたなかで実際に脳神経外科医になったのは2名です。もちろん、大学による違いがあったり、希望者が多い年、少ない年というのがあったりしますが、ただでさえ多いとは言えない脳神経外科医の中で、機能神経外科を志す者はごく僅かです。
―― 今後、機能神経外科の手術ができる医師が増えることが望まれますね。
山本 そうですね。機能神経外科を志し、手術を行える医師が増えることはもちろん、知識や技術、判断力を磨いた総合力がある医師をもっと養成する必要があると思います。
私自身は、機能神経外科治療を行い、可能な限り多くの方を助けるのが使命だと考えています。けれども、一人でできる治療には限界があります。だからこそ、後世に技術を伝え残していかなければいけません。
65歳以上になるとパーキンソン病の有病率は約1%ですが、本態性振戦は統計により差があるものの概ね10%前後になります。ジストニアの有病率も決して低くないことが分かってきています。今、まさに手術の技術を磨いた医師が待たれている状況にあると思うのです。
嬉しいことに、現在は、国内外からうちに学びに来たいという声が複数上がっています。国外から学びに来るのももちろん良いことですが、彼らは自身の国に帰っていきます。国内の患者さんを救うためには、国内から学びに来る医師が増えてほしいですね。
そうすれば、日本にもっと機能神経外科の治療技術が広まるでしょうから。それによって、機能神経外科が、より世の中に広まって定着すること。そして、多くの方々が、長年に渡って安心して治療を受けられるようになることを期待しています。
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―― 確かな技術を持つ機能神経外科医が増えることは、高齢化が進む日本においては重要ですね。今後も、山本先生をはじめとした医師みなさんのご活躍によって、一人でも多くのパーキンソン病患者さんが救われることを祈っています。
取材/文:谷口友妃 撮影:熊坂勉