航空自衛隊の「ブルーインパルス」が使用するT-4練習機は、旧式になりつつあるため後継機が必要になっています。同様に、チームの維持や後継機を選定問題に直面しているのがスイス。同国の動きは日本の参考になるかもしれません。
航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」は、その優れた飛行技術と精密な編隊飛行で知られています。かつてはF-86戦闘機やT-2練習機を駆使して空のアートを描いてきましたが、現在はT-4練習機によって曲技飛行のノウハウを絶やさないよう活動を継続しています。
ただ、そのT-4も試作機の初飛行からもうすぐ40年で、後継機の開発も始まる予定です。ということは、T-4の退役が明確になることで、近い将来、ブルーインパルスは3度目の機種更新を迎えることになるでしょう。
ブルーインパルスの末路か? スイス曲技飛行チーム存続に黄信号…の画像はこちら >>航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」。使用機種は国産のT-4練習機(画像:航空自衛隊)。
アクロバットチームの機種更新は、単なる機材の交換以上の複雑な課題を含んでいます。例えば、スイス空軍のアクロバットチーム「パトルイユ・スイス」は、その卓越した演技飛行でヨーロッパ中から称賛を集めていますが、2024年現在、存続の危機に直面しています。
彼らは通常6機で編隊を構成し曲技飛行を実施していますが、超音速ジェット戦闘機F-5E「タイガーII」を使用している点が、他国の空軍アクロバットチームと異なっています。なぜなら、一般的にはスピードよりも小回りの利きの良さや操縦安定性の高さがアクロ機では重視されること、また何よりも運用費が安価で済むため、T-4を始めとして練習機が用いられることが多く、戦闘機が使われることは稀だからです。
加えて、パトルイユ・スイスのパイロットは、アクロバット専門ではなく、実戦部隊の戦闘機パイロットが兼務しています。ただ、この「実働部隊の延長線上にある」というこだわりが、他のチームとは異なる独自の文化を形成しているのも事実です。しかし、この独特の文化が逆に「パトルイユ・スイス」の存続を脅かす要因となっています。
スイス空軍は、主力戦闘機F/A-18を防空任務に専念させるため、性能的には陳腐化しているものの、運用コストが安価なF-5を補助的な任務に割り当てています。これには射撃訓練用ターゲットの曳航をはじめとした訓練支援、テスト飛行、そして「パトルイユ・スイス」の演技飛行が含まれます。F-5は2027年に退役する計画であり、後継機としてF-35A「ライトニングII」の配備が2028年から始まる予定です。
F-5が退役した後、「パトルイユ・スイス」はどのような機体で飛行を続けるのか、現在のところ未定です。しかし、スイス軍にはF-5を2028年以降も訓練補助を目的に維持する計画が存在します。
この計画のメリットは、高性能ゆえに高コストなF-35やF/A-18の飛行時間を減らすところにありますが、それを実現するためにはF-5の射出座席やアビオニクスを改修する必要があり、そのためには900万スイスフラン(約15億円)の投資が必要です。さらに、運用費として年間4000万スイスフラン(約68億円)が必要になります。
加えてこの計画案は、スイスの納税者が、退役予定の純軍事的価値のない戦闘機を、アクロバットチームを維持する目的で毎年数十億円の税金を投じることに理解を示した場合にのみ可能です。実際に「軍を近代化するために予算を増やしたいと考えているのに、パレードのために数千万スイスフランを費やすのか」という批判的な意見も存在するとか。
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スイス空軍のアクロバット飛行チーム(画像:スイス軍)。
「パトルイユ・スイス」がなくなったとしても、スイス空軍には「PC-7 チーム」という別のアクロバットチームがあります。このチームは、スイス国産のプロペラ機PC-7練習機を使用し、訓練部隊の機体を活用しています。こちらも常設のチームではなく、現役F/A-18パイロットがシーズン初めの2週間とエアショーの前日に集まり、トレーニングを行うというパートタイムの運営です。
なお、このPC-7 チームが「パトルイユ・スイス」の役割を引き継ぐ案は、追加予算がほとんど不要であることから、実現可能性が高いと言えるでしょう。
最終的な選択はスイス国民の意思に委ねられていますが、「ブルーインパルス」を保有する日本にとっても、他人事ではない問題ではないでしょうか。
アクロバットチームは多くの国で、国民の防衛や軍隊(自衛隊)への理解を深め、若者の志願者を増やし、外国との友好を築き、国産航空機(例えばPC-7)の輸出を促進するという重要な役割を担っています。
ただ、それと同時に防衛費の適切な使い道について、議論を呼び起こすことにもつながっていることから、ブルーインパルスの後継機選定も、数百億円規模の計画となる可能性がある以上、その意義について再考されることは避けられないと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は考えます。