ジェット旅客機の巡航速度は、おおむね900km/h前後。その値はジェット旅客機の黎明期から大きく変動していません。ほかの部分は年を追うごとに進化しているのに、なぜ速度だけは向上しないのでしょうか。
現代のジェット旅客機の巡航速度は、おおむね900km/h前後のスペック値が打ち出されています。実はこの速度、黎明期のジェット旅客機から大きな変動はありません。ほかの部分は年を追うごとに先端化されているにもかかわらず、なぜ速度だけは半世紀以上にわたり向上していないのでしょうか。
なぜ?「ジェット旅客機の速度」が向上しないワケ 「だいたい9…の画像はこちら >>ALのエアバスA350-1000(乗りものニュース編集部撮影)。
たとえば、JAL(日本航空)の公式サイトによると、同社最新鋭のエアバスA350は916km/h、主力機のひとつで、ボーイングがもっとも直近で開発した旅客機である787も916km/h、地方路線などで多く使用されるボーイング737は840km/hとなっています。
一方、黎明期のジェット旅客機の巡航速度は、「コメット」がマッハ0.68(約735km/h)ではあるものの、その6年後の1958年に投入された、ボーイング初のジェット旅客機「707」が、それより早いマッハ0.8(約864km/h)です。
ジェット旅客機の速度が上がらない大きな理由は、効率の問題が挙げられます。
もちろん技術的には「超音速旅客機」を飛ばすことは可能で、その代表的なものがかつての「コンコルド」です。速さはマッハ2.02、単純計算で時速に直すと2200km/h弱に相当します。また、開発中止とはなったものの、ボーイングも1960年代に超音速旅客機「2707」の開発を計画していました。より速いモデルをつくろうというトレンドは存在したのです。
ところが、海外旅行が大衆化した1970年代ごろから「速さより量」の時代へと移ります。きっかけは、その先駆けとなった「ジャンボ」ことボーイング747といわれています。「コンコルド」と比べて「ジャンボ」は、スピードでは劣っても、ケタ違いの座席数で一度に多くの旅客を運べました。
以降は「速くて少ない人数を運べる」より、「スピードは出なくとも多くの人数を運べる」というのが、民間航空業界のトレンドになりました。
そして、スピードがあがると、また別の問題が生じることになったのも、速度向上のムーブメントが沈静化した要因ともされています。
たとえば飛行機が音速を超えると、ソニックブームという衝撃波が生じ、これが地上への大きな騒音や機体への負担を発生させます。黎明期のモデルや「コンコルド」などは、周囲への騒音や環境への影響が大きいものでした。また、速さを重視すると快適性を犠牲にせざるを得ない側面もあり、実用化された「コンコルド」の実機を海外の博物館で見たという人物は「機内はとても狭くて、窓もスマートフォンと同じくらいの大きさしかなかったです」と話します。
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フランス・トゥールーズに展示されているエールフランス航空の「コンコルド」(乗りものニュース編集部撮影)。
また、ボーイング747などをはじめ、1960年代以降のジェット旅客機は一般的に、ジェットエンジンのひとつである「ターボファンエンジン」を使用しています。これは、取り込んだ空気を圧縮後、その一部を燃焼に利用し、残りはファンノズルから直接大気中へ噴出して推力を得るものですが、このエンジンは音速を超えると効率が下がってしまいます。
時代が進むにつれ旅客機の「ターボファンエンジン」は、より騒音や燃費効率などに優れたもの(高バイパス比ターボファンエンジン)が採用されてきましたが、音速を超えると効率が下がる点は変わりません。つまり、あえて速度が音速を超えないように設計しつつ、そのなかで燃費の良さや低騒音を目指す、といった状況が続いているのです。
とはいえ「超音速旅客機」の構想も、まだ完全に下火となったわけではありません。直近では2017年、アメリカのブームテクノロジー社が超音速旅客機構想「オーバーチュア」を発表。JALも、この会社に出資を行うなどの後押しをしています。こちらは、マッハ1.7のスペック値がうちだれています。