ナニこの翼!「世界初のジェット旅客機」 設計は今じゃあり得ない? トホホ機なるも残した功績

世界初のジェット旅客機デ・ハビランドDH.106「コメット」。その開発は前人未到ゆえ、さまざまな苦難に遭遇しました。とはいえ、それらの経緯は、その後世界中の旅客機の設計に生かされることになりました。
世界初のジェット旅客機として知られるのが、デ・ハビランドDH.106「コメット」です。航空先進国イギリスの威信をかけて開発された機体ですが、「前人未到」ゆえさまざまな苦難に遭遇しました。とはいえ、それらの経緯は、その後世界中の旅客機の設計に生かされることになりました。
ナニこの翼!「世界初のジェット旅客機」 設計は今じゃあり得な…の画像はこちら >> デ・ハビランドDH.106「コメット」(画像:Tony Hisgett[CC BY〈https://x.gd/VYNRK〉])。
デ・ハビランドDH.106「コメット」は1949年7月27日初飛行し、1951年1月、英国海外航空(BOAC)に引き渡されました。そして同年5月2日に華々しく就航しました。
イギリスの威信をかけて開発された同機は、エンジンを主翼からぶら下げたボーイング製のB-47やB-52爆撃機とは対照的に、エンジンを主翼の中に内蔵したすっきりとした形状が特徴です。これは同機のチーフ・エンジニアだったロナルド・ビショップ氏が採用した形態です。
彼はこの形を採用した理由として、エンジンを主翼内に収めることでエンジンにとって危険な異物の吸入を減らせることや、エンジン推力を胴体中心に近い位置に配置することにより、エンジンが1発停止した時にも方向舵による補正量を減らせるため、尾翼の面積を減らすことが可能で、その結果、空気抵抗を削減する効果があるなどのメリットを挙げていました。
一方、デメリットとして、エンジンが客室に近いため、エンジンからの騒音を低減するために防音材を使用する必要になったこと、エンジンからの熱やエンジン故障時に発生する恐れがある破片から主翼の構造を守るため、防護壁を配置する必要などが挙げられています。
「コメット」は就航後、BOAC(英国海外航空。現在のブリティッシュ・エアウェイズ)の国際線に投入され、従来のプロペラ機と比較して大幅に所要時間を短縮。ジェット機の圧倒的な高速性能を見せつけました。
しかし、その栄光に早くも暗雲が立ち込めます。
就航から2年にも満たない1954年1月、ローマを離陸したBOACの「コメット」が消息を絶ちました。そしてその3か月後、こんどはイタリア近くの海上を飛行中だった南アフリカ航空の同型機も消息を絶ったのです。ともに空中分解が疑われた事故でした。
イギリス政府は国家の威信を掛けて事故原因の徹底的な究明を行う方針を発表しました。
これらの事故では、イギリス海軍が地中海に派遣され、機体の残骸が引き上げて調査が行われました。その結果、高い高度を飛行中の与圧による金属疲労が疑われました。
ジェット機はプロペラより高い高度を飛ぶことで、空気抵抗を軽減して高速飛行が可能になります。空気の薄い、つまり気圧の低い高高度では、人為的に機内の気圧を高めることで居住性を確保する必要があります。そのため胴体にはプロペラ機より高い気圧が作用して金属疲労を助長したという仮説が立てられたのです。
その仮説を証明するために、大きな水槽へ同型機の胴体を丸こと沈め、水中で機内を繰り返し加圧する試験が行われました。その結果、予想よりはるかに少ない回数で亀裂が発生し、その亀裂が急速に成長して構造破壊に至る現象が確認されました。
この試験結果をもとに設計変更が行われ、亀裂が大きく成長することを防止する「フェイルセーフ構造」の導入とともに、機体の外板もより厚いものが使用されることになりました。
また、初期タイプでは客室窓が四角に近い形状でしたが、この角の部分に気圧差による力が多く集中してしまい、亀裂の発生につながったとして、設計の見直しも図られることに。現代のジェット旅客機の客室窓がどれも丸いのは、この教訓を生かしたものです。
そうしている間に初期型の「コメット」は退役、それまでに多くの航空会社から発注されていた注文は全てキャンセルされました。
デ・ハビランド社は新設計の機体構造に加え、胴体の延長、新型エンジンのロールスロイス・エイボンを搭載した大西洋横断も可能な新型機を開発。この「コメット4」は耐空証明を1958年に取得しましたが、すでに航空会社の興味は、より大型で高性能なボーイング707とダグラスDC-8に移っていました。
イギリスでも事実上の後継機として開発されていたヴィッカースVC-10が登場すると「コメット」の旧式化は決定的となり、1964年に各型合計112機で生産を終了しました。
旅客機としては短命に終わった「コメット」でしたが、その後のジェット旅客機の設計における安全性向上に、図らずも大きな貢献を果たしたことは間違いないでしょう。

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