ホンダが大人気コンパクトミニバン「フリード」のフルモデルチェンジをおよそ8年ぶりに実施する。現行モデルの完成度がかなり高いこともあり、新型がどう進化しているのか気になる方も多いはず。事前説明会で実車を確認し、開発責任者に話を聞いた。
2つの個性でシンプルに
ホンダの「フリード」は、運転しやすいサイズでありながら広々とした室内空間を実現したコンパクトミニバンとして2008年に発売となった。例えば、同社の「ステップワゴン」や「エリシオン」といったミドルサイズミニバンでは大きすぎる、とはいえ「フィット」などのコンパクトハッチバックでは小さすぎると感じるユーザーの要望に応える形で、そのちょうど中間を狙って登場した。
初代フリードはフィットをベースにしていたこともあり、取り回しもよく、コンパクトながら3列シートを備えるなど、使い勝手の良さを追求したモデルとして好評だった。
2016年にフリードは2代目に進化した。エクステリアデザインはよりモダンかつシンプルになり、フロントからリアにかけて風を切るような流線型のデザインになった。インテリアは初代フリードの良さを継承しつつ、ファブリックシートや木目調パネルを採用し、乗ったときの質感を高める工夫も施された。
開発担当者いわく、「2代目フリードは登場から8年が経過しても、継続的に売れ続けているモデルです。他にはない取り回しの良さや室内空間の広さが支持されてきました」とのこと。
そんなフリードがフルモデルチェンジして3代目となるわけだが、どんなコンセプトのもとで開発が始まったのだろうか。グランドコンセプトは「Smile Just Right Mover -こころによゆう 笑顔の毎日-」とのことだが、詳しく聞くと担当者から次のような説明があった。
「扱いやすいサイズであること、使いやすいパッケージであること、快適で乗り心地がいいこと。これらすべてに“よゆう”を持たせることをコンセプトとしました。さらに、新型フリードは用途によって明確なキャラクター分けをしました。安心かつ快適で家族での利用を重視し、日常に寄り添う『AIR』と、非日常で個性を重視し、遊び心を重視する『CROSSTAR』という2種類の個性(デザイン)に絞り、シンプルでわかりやすいラインアップにしました」
シンプルなラインアップとしたことを開発責任者は強調していた。確かに、先代モデルには選択肢がたくさんあった。7、6人乗りモデルの「フリード」のほかに5人乗りモデル「フリード+」があり、それぞれにアウトドアスタイルの「CROSSTAR」があって、さらにフリード、フリード+、CROSSTARそれぞれに車いす仕様、サイドリフトアップシート、助手席リフトアップシートといった福祉車両が用意されるといった具合だ。
今回のフルモデルチェンジでは、6、7人乗りモデルの「フリード AIR」と5、6人乗りモデルの「フリード CROSSTAR」というシンプルな構成にした。またAIRでは、福祉車両の設定がなくなった。非常にわかりやすいラインアップだ。
実際、販売店に話を聞くと、2代目フリードの購入を検討する来店客が複雑なグレード構成でかなり迷うケースがあったという。筆者の親族もフリードを購入する際、どの仕様を選ぶかでかなり迷っていた。ラインアップをシンプルにすることで、迷わず購入を即決することにつながるというメリットもあるだろう。
新型の発売時期については「そう遠くない時期」、価格については「現行型より少し高くなるかも」という話を聞くことができた。
エクステリアはステップワゴン似?
では、新型フリードはどのように進化したのか。エクステリアから見ていくことにしよう。
初めて新型フリードの実車を見た瞬間には、「シンプルであっさりした外観だ」と感じた。長く乗るには飽きのこないシンプルなデザインがいいというのは当然だし、こうしたエクステリアの変更には大賛成だ。真横から見ても、水平基調ですっきりとした印象がある。
フロントフェイスは無駄な要素を省き、凛とした表情になるようにしたという。リアについても同様にシンプルな仕立てで、運転席から後方を見たときにも広い視界を確保できるよう、グラスエリア(リアガラス)を大きくとっているそうだ。さらに、広い室内空間をしっかりと支えるスタンスを表現するため、真後ろから見たときに台形フォルムになるようにまとめている。
車体をぐるりと一周しているキャラクターラインも水平になっており、そのライン上にドアハンドルを配置することでシンプルさとクリーンさを際立たせたという。
フロントフェイスのデザインやシンプルなキャラクターラインは、フリードの兄貴分にあたる「ステップワゴン」に似ているようにも思った。あえて似せるようにデザインしたのか担当者に聞いてみた。
「ステップワゴンのデザインに寄せたわけではありません。我々ホンダが考える、シンプルで扱いやすいこと、安心してお乗りいただけること、これらを追求した結果、このデザインにたどり着きました。そもそも開発コンセプトがフリードとステップワゴンでは異なるので、ステップワゴンに似せたわけではありません。しかし、ブランドとしての統一感が出たデザインにできたことはよかったと思っています」
水平基調デザインのメリットとは?
インテリアについてもシンプルで扱いやすいということに重点が置かれている。特に、運転席からの視界の良さにはこだわったそうだ。ダッシュボードには突起や出っ張りがなく、すっきりとした水平基調を採用。運転席や助手席はもちろん、2列目以降のシートに座っても見晴らしがよく、明るくて開放的なデザインとなった。
車幅を把握しやすいよう、Aピラーの位置も工夫しているという。また、運転席に座ったときのアイポイントを高めにすることで、死角を軽減し、ドライバーの不安を払拭できるように配慮したとのことだ。
中でも評価したいのがリアクォーターウインドウ(3列目ウインドウ)だ。2代目フリードではほぼ三角形に近い窓で、小さくてあまり開放的とはいえなかった。それが新型フリードでは、水平基調のデザインを採用したことで、リアクォーターウインドウが大きな四角形になり、車内が明るく開放的になった。その恩恵は3列目に乗車すると最も強く体感できるのだが、ドライバーがバックする際にも、後方感覚を把握しやすくなった。単にデザイン上の変更にすぎないかもしれないが、とてもメリットが大きい進化点といえる。
新型フリードは荷室も改良されている。
3列目シートを使わないときはシートを跳ね上げて収納し、空いたスペースを荷室として使用できるのは2代目と変わらないのだが、2代目フリードは跳ね上げたシートがリアクォーターウインドウを完全に塞いでしまっていた。せっかく大きく開放的になった新型フリードの窓をシートで塞いでしまっては意味がない。そこで、新型フリードでは跳ね上げたシートの固定位置を低くなるようにして、リアクォーターウインドウを完全に塞がないように改良した。荷室を少しでも広く確保できるよう、シートの厚みを抑えコンパクトにする工夫もなされている。
3列目シートを跳ね上げるのではなく、2列目シートの下に滑り込ませるように格納してしまう方法を採用している他メーカーのミニバンもある。この点について担当者は、「新型フリードでも、3列目シートを床下に格納する方式を検討したことがありました。しかし、それだと荷室の高さがどうしても高くなってしまうんです。例えば、自転車やクーラーボックスなどを積み込む際、『フリードは低いので楽ですね』という声を多くいただいていました。こうしたお客様から好評をいただいている点は残したかったので、あえて3列目シートは跳ね上げ式を採用し、荷室が高くならないようにしているんです」と説明してくれた。
キャプテンシートは使い勝手◎
2024年5月9日時点でエンジンスペックは非公表のままだが、2代目フリードよりも格段に進化していることは間違いない。
コンパクトなサイズながら多彩なシートアレンジができるのはフリードがこれまで培ってきた強みだ。個人的には、2列目シートが独立しているキャプテンシートを採用した6人乗りモデルは、クルマから降りることなく、運転席から3列目シート(あるいは荷室)までアクセスできるのが嬉しい。この点は新型フリードでも変わりない。キャプテンシートは小さな子どもを乗せているときやたくさんの荷物を乗せているとき、誰かと運転を代わりたいときなど、あらゆるシーンで重宝する。
こうした使い勝手の良さをコンパクトなサイズでまとめているクルマはそう多くない。いい点はこれまで通り継承されているし、エクステリアもインテリアもデザインがシンプルでより精悍になった印象を受けた。新型フリードなら飽きずに長く乗り続けられるだろう。
室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら