岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談で前面に押し出されたのは、一層の同盟強化と一体化だ。
「未来のためのグローバル・パートナー」と題した共同声明では、世界のあらゆる課題に日米が共に対処することを強調。「日米同盟は前例のない高みに到達した」とうたう。
特に踏み込んだのは、自衛隊と米軍の指揮・統制機能の見直しだ。
自衛隊が今年度中に陸海空の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設けるのに合わせ、米側は在日米軍司令部の体制を強化。共同訓練の企画立案や実動部隊の限定的な指揮権を付与する案を検討している。
指揮・統制機能の一体化を懸念する声に対し、政府はあくまで指揮系統は別だと強調する。だが、質量共に圧倒的な米軍の指揮権の下で自衛隊の独立性が本当に担保されるのか。
日米安全保障条約は、憲法9条を前提として米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が主体だった。日本が敵基地攻撃能力を保有したことで米軍と指揮・統制機能の調整が必要になった。
防衛力の一体運用が進めば同盟の質的な変容は避けられない。合意の前に国民への説明が先だ。
岸田首相は米連邦議会の演説でも日本国民が「米国と共にある」と強調。平和、自由、繁栄に「共に大きな責任を担っている」とした。
専守防衛を原則とする日本と米国には取れる軍事行動に決定的な違いがある。憲法を無視するような前のめり発言で看過できない。
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首脳会談の共同声明では、台湾海峡の平和と安定の重要性も強調。そのため南西諸島などで同盟態勢を「最適化」するとした。
在日米軍施設の7割が集中する県内では、これによりさらなる基地負担の増加が懸念される。
共同声明では地元への影響を軽減するため普天間の移設に関し「辺野古が唯一の解決策」とも繰り返した。
だが、移設完了時期は「早くても2037年」とされる。深海の軟弱地盤の改良工事という不確定要素も抱え、完成はなお不透明だ。
そうした中、県内で実施される日米共同訓練の規模は拡大し、頻度も増えている。米軍普天間飛行場や嘉手納基地の騒音は増え、自衛隊施設はミサイル機能を追加するなど配備強化が進む。
基地負担は軽減どころか増える一方なのである。
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日米が同盟強化を急ぐ背景には、急速な軍拡を続ける中国の存在がある。
ただ、軍備強化は「もろ刃の剣」であり、逆に緊張を生じさせかねない。中国への対抗だけが突出すれば、かえって地域の不安定化を招く。そうなれば国境を接する県内への影響は計り知れない。
首相は会談後の会見で中国を名指して批判する一方、「対話を継続する」とも述べた。実践を強く求めたい。
米国だけでなく中国とも首脳や閣僚級の直接対話が必要だ。