木原稔防衛相は、うるま市のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を新設する計画について会見し、地元の理解を得るのは難しいとして断念を表明した。
政府が一度決めた基地政策を白紙に戻すのは極めて異例と言える。だが、裏を返せば、地元との合意形成の努力をしない「国策優先・民意軽視」の姿勢が招いた当然の帰結である。
計画地とされたうるま市石川の旭区自治会が1月の臨時総会で計画反対を全会一致で決議してから、地元で大きなうねりとなった運動は、党派や世代を超えて、あっという間に広がった。
ゴルフ場跡地には、住宅地や自然環境豊かな県立石川青少年の家などが隣接する。そこに、約20ヘクタールを取得する計画だった。当初は実施するとしていた、ヘリの離着陸や空包を用いた訓練をしない、と方針転換したことも逆に国の説明に対する不信感を高めた。
与那国町では、沿岸監視部隊の配備に賛成した島民も、その後、ミサイル部隊の配備が明らかになったことで「だまされた」と強く反発した。
防衛省の計画断念は、生活環境を守るという一点で団結した住民運動の勝利として、評価したい。
同時に、県内でいったん造られた施設が、なし崩し的に運用拡大される実態を県民が学んだことによる。政府の防衛政策への不信は大きい。
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先月、開かれた「自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会」には、石川会館が満席になる1200人以上が参加した。子どもたちの未来を思い拳を上げる高齢者、自由と権利を守りたいと訴える高校生。「住民の視点が完全に欠落したあまりにもずさんな計画」に次々と抗議の声が上がった。
うるま訓練場建設の断念を発表した木原防衛相だが「訓練の必要性は変わらない。沖縄本島のどこかを訓練場として準備しなければいけない」との立場だ。会見でも自衛隊員増員に伴い、訓練場不足を補う必要があるとの考えを示した上で「あらゆる選択肢を検討する」と述べた。問題が解決したわけではない。
在日米軍専用施設だけで、7割以上が集中する沖縄での広大な訓練場の新設は、自衛隊施設といえども「負担増」につながるのは間違いない。
防衛省は新たな訓練場施設を求める前に、まずは、一方的に計画を進めた経緯を説明する責任がある。
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国は、一定の面積を確保できるなどとして計画を押し進めたことを反省すべきだ。そこで生活する人々や自然環境への影響より、自分たちの都合だけを優先したのだ。
県民の根強い反対にもかかわらず、国が強行するのは、辺野古も同じだ。
1996年4月12日に、日米両政府が、米軍普天間飛行場の返還合意をしてから28年となる。新基地の完成は「早くても2037年」とも言われるが、軟弱地盤の難工事で確たる見通しはない。
うるまの陸自訓練場を断念したのと同様に、建設ありきで民意の支持を得られない辺野古の工事も中止すべきだ。