「ほぼ全店まっ黒」ビッグモーターが不正まみれになっていった“仕組み” 伊藤忠も簡単には変えられない

想像を超えた不正の数々が白日にさらされたビッグモーター。実に96%の店舗で何らかの不正が行われていました。その再建の道は、伊藤忠という商社のノウハウでガバナンスを効かせるだけで解決するほど簡単ではなさそうです。
国土交通省はビッグモーターの一連の不正に対して、2023年7月から2024年3月まで全国130の事業場に対して監査を実施し、3月29日にその結果を公表しました。法令違反なしとされた事業場は、全130事業場の5事業所。率にしてわずか3.9%でした。
「ほぼ全店まっ黒」ビッグモーターが不正まみれになっていった“…の画像はこちら >>4月後半には新会社が発足するビッグモーター。96%の事業所で不正が発覚した(中島みなみ撮影)。
先にその店舗を上げると、群馬県館林市の「館林店」。ここは全国で唯一、認証と指定の両方を兼ねる事業場として違反なしという結果でした。また、車検を行わない認証工場では「福生店」(東京)、「南柏店」(千葉)、「宇都宮南店」(栃木)、「太田店」(群馬)の4事業所も違反なし、という結果でした。
簡易な整備を除いて、エンジンやブレーキなど安全にかかわる分解整備は、認証を受けた事業場でなければできません。一般に認証工場と呼ばれ、ビッグモーターは全国に130事業場(調査当時)を有していました。
●認証工場としての処分(全130事業所)・事業停止…114事業場・文書警告、口頭注意…11事業場・違反なし…14事業所
認証工場として違反がないとされていても、指定工場として問題ありとされた場合もあります。認証工場の中で、自動車の点検整備後に工場内で車検を行うことができる事業場をいわゆる指定工場と言います。同社では認証工場130事業場のうち、指定工場が102事業場ありました。
●指定工場としての処分(102事業場/130事業所の内数)・指定取消…37事業場・車検業務の停止…41事業場・文書警告、口頭注意…23事業場・違反なし…1事業場
指定工場の設備で車検を行うためには、検査に責任を持つ資格者「自動車検査員」が任命されている必要があります。国交省の監査では、資格者の解任も行われました。
●指定工場で検査を行う自動車検査員の処分(102事業所)・解任…46人/33事業場
半世紀足らずで従業員約6000人の企業に成長したビッグモーターの内実は、かなり無理を重ねたものでした。
成長に伴う全国的な不正の広がりは、創業者の兼重宏行社長(当時)と宏一副社長(当時)の独裁的なリーダーシップに影響されたものと理解されています。2人を核にした経営陣の“恐怖経営”が、そうさせたのではないか。伊藤忠が買収し、創業家が経営に関与しなくなれば、ビッグモーターの体質は健全な方向に向くのではないか――。一般的にはそう考えられています。
しかし、監査を終えた国土交通省は、経営体制だけが主な原因とは考えていないようです。監査にあたった物流・自動車局整備課は、こう話します。
「法令違反が、どうしていろんな事業場で出てきたか。ともすると、本社がすごい悪いことを指示して、それが全国で行われたというイメージを何となく皆さんお持ちなんじゃないかと思うんですけど、実は我々が見たところそうではない。優良な事業場は元々、別に歯止めがなくても優良なんです」
成長が著しい企業にありがちなのが、専門知識や経験が少ない人材が社員として集まることです。急拡大で人事異動が繰り返され、門外漢の分野でノウハウがない部署の社員が駆り出されます。
「それでも社内規定であるとか教育であるとか管理がしっかりしていれば法令違反までは至らないのですが、事業場の実力が水準に達していないときには、それが修正されないまま新しい事業場で同じミスを繰り返すことが起きる」
特に国交省が不正拡大を加速させた仕組みとして、本社の責任としたのは「利益追求の企業風土に根ざした業績目標と給与体系」です。
「じゃあ業績を上げるためには検査を一部やらないことにしましょうか、とか、そういうふうに動いてしまう」
人材もノウハウも不足している事業場に対して、業績至上主義の本社の指導を続けることで、不正の“両輪”として転がっていく。「法令違反が起こった原因でよくあることが2つあります。一つは法令違反を起こしやすいように、事業場や人がエンジンのように動く。それを普通は管理の規定とか通報制度とかでブレーキを効かせるのですが、そっちは機能しない。この両方が合わさると、こうした事態があったんだろうなと思います」
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3月に伊藤忠らと事業再建に向けた契約を結んだ和泉伸二ビッグモーター社長(中島みなみ撮影)。
法令順守の知識と経験を持った事業所では、不正にまみれることがなかった。それが130分の5事業所なのでしょうか。ビッグモーターの広報担当は、130分の5事業場への取材は応じられないとした上で、次のように回答しました。
「お客様をはじめとする関係者のみなさまにご迷惑とご心配をおかけしておりますことを改めてお詫び申し上げます。全店が法令遵守を守り一店舗でも違反をおこさないよう指導して参ります」
※一部修正しました(4/5 14:30)

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