日産が自動運転で移動サービス開始へ! 目指すはバス以上、タクシー未満?

日産自動車が自動運転のミニバン「セレナ」を使ったモビリティサービスを始める。将来的には無人運転での車両運行も視野に入れた長期的なロードマップの第一歩だが、日産が目指すサービスの未来像とは? イメージは「バス以上、タクシー未満」だという。

高齢化、バスの廃線…日産が取り組む課題とは

日産自動車は2024年2月28日、自社開発のドライバーレス自動運転によるモビリティサービスの日本における事業化に向けたロードマップを発表し、システム開発に使っている実験車をメディアに公開した。

このプロジェクトは、最終的に「自動運転レベル4」と呼ばれる特定条件下における完全自動運転を実現することで、ドライバーレスのモビリティサービスの事業化を目指す取り組みだ。

日産が事業化へ動く背景には、高齢化社会となった日本が抱える交通インフラの危機がある。その一例が、身近な交通手段となるバス路線の廃止だ。2022年1月から2023年8月までの間に廃線となったバス路線の総距離は、なんと8,667kmに及ぶ。主な理由としては利用者の減少と運転者不足が挙げられている。

さらに、自由な公共移動手段として重宝されるタクシーも、ドライバーの平均年齢が58.3歳と高めだ。2023年と2019年を比較するとドライバーの数は20%も減少しており、今後はドライバーの高齢化と減少が加速すると予想されている。

それだけに地方では、その課題を克服するモビリティサービスの実現が不可欠な段階にきている。一方で、都市部は公共交通機関が充実しているが、人の集中と高齢化社会に対応するモビリティが求められている。

つまり、場所によりニーズに違いはあるものの、日本の交通インフラとして、無人の自動運転車が待ち望まれている状況なのだ。
無人化に向けたロードマップ発表、中身は?

日産は2017年に横浜みなとみらい地区(神奈川県横浜市)で自動運転モビリティサービスの実証実験を開始し、2021年からは福島県浪江町で有人運転のモビリティサービス「なみえスマートモビリティ」の運行にも取り組んでいる。自動運転と有人運転、都市と郊外という環境の違いはあるが、これらの活動でモビリティサービスの基本となる知見を磨いてきた。

重要なポイントは、いずれも決められたルート内で運行しているということ。横浜での自動運転の場合は、規定ルート内で想定されるユースケースが絞り込めた点が大きい。つまり、全ての想定パターンをクリアできれば、理論上は完全自動運転が可能となるからだ。浪江町では専用アプリを用意し、ルート内に仮想の停留所を多く設置するなど利用者の利便性向上を図ってきた。

このほど発表となったロードマップは、これらの実証実験から生まれた技術をモビリティサービスとして発展させるための道しるべといえるものだ。2025年度~2026年度をフェーズ1、2027年度~2028年度をフェーズ2、2029年度以降をフェーズ3とし、3段階でプロジェクトを進める。

フェーズ1とフェーズ2で無人の自動運転サービス提供に必要となる基礎技術開発を行い、フェーズ3での実用化を目指す。日産は同サービスの内容を「バス以上、タクシー未満」と表現する。

無人化に向けた具体的な動きは?

具体的なプランとして、フェーズ1では引き続き横浜地域を対象とし、2024年内に実証実験を開始、2025年から2026年に本格的なサービス提供を目指していく。当初はみなとみらい地区周辺でスタートし、地域との協議の上、対応地域を桜木町や関内へと拡大していきたいとしている。テスト車両は移動の利便性からミニバンの「セレナ」を使う。最大20台まで拡大する方針だ。

フェーズ2では横浜に加え、地方を含む3~4の市町村に拡大し、地域に最適なサービス提供を行っていく。自動運転のレベルも段階的に引き上げていく予定。いずれも規定されたルート内で運行し、仮想の停留所で乗降を行う。

ただ現時点では、緊急時に運転を行う(システムから運転を引き継ぐ)セーフティドライバーが同乗することになる。現在の日本では、レベル4の自動運転が認可されていないためだ。将来の無人運転の実現に向けては、経済産業省と国土交通省が主導する「レベル4モビリティアクセラレーションコミッティ」が設立され、2024年3月以降に関係省庁、自治体の協議や連携が進められていくとされている。このため、無人化のタイミングには技術的な進化だけでなく、法整備の進み具合も深く関係してくる。

日産は自動運転の実証実験を行う電気自動車(EV)「リーフ」の映像を公開。実際に動いている様子を見ると、完成度はなかなかのものだ。人の運転で例えるならば、完璧な「かもしれない運転」が実現されている。規定ルート内走行を実施する上では、高度な運転技術が重要なファクターとなる。

日産では、横浜の規定ルート内で起こり得る運転状況を2,000まで絞り込むことに成功。そのひとつひとつに対応するクルマの制御を作り込んでいる。さらに、遠隔でのモニタリングとコントロールが可能なシステムとすることで、クルマが危険を判断して自動停車した後は、オペレーターが遠隔操縦できるようになっている。これも、将来的な無人化に向けた安全上の重要なシステム開発のひとつである。

公開されたリーフの実験車は、走行に必要な情報を収集するセンシング機能として6個の「LiDAR」(ライダー)、10個のレーダー、14個のカメラを搭載し、2系統の運転システムを用意していた。実験車であるため物々しいスタイルとなっているが、実用化に向けて形状は変化していくものと思われる。実証実験に使うセレナにも同様のシステムを搭載する。

自動運転の主役はAI? 人間?

日産が自動運転車の開発で重要視するのは「自動運転を設計する」こと。AIによる制御ではなく、人が作り込んだ制御による自動運転が基本という姿勢だ。

道路の状況は毎秒変化しており、全く同じ状況はないといっても過言ではない。そのため、外的要因による想定外の事態が発生する場合もある。もちろん日産は、事故が発生しないよう安全面を重視した設計としており、開発にはAIも活用しているが、人がロジックを作り込むことで、確実な問題の分析と解決が行えるよう配慮しているそうだ。

走行時の制御には、自動車メーカーとしての知見を最大限に盛り込むことができる。その一例として日産は、テストコース内で実施した雪上での自動運転の様子を公開した。もちろん、現時点で雪上走行の自動運転を想定しているわけではないが、そこまで自動運転の技術は磨いているのだ。

誰もが完全自動運転車を愛車にできる世界は遠い未来となりそうだが、交通インフラとしての完全自動運転については、着実な歩みによるゴールが見えてきている。日産は普及のためにビジネス化を掲げているが、これは儲けるためというよりも、今の日本が抱える課題を解決するための社会貢献と見るべきだろう。もちろん、自動運転車開発で得た技術は市販車の運転支援機能に活用できる。

これからは、一般のドライバーや歩行者も、公共交通機関としての自動運転車との共存について考える必要があるかもしれない。2025年から横浜で始まる日産のモビリティサービスは、そんな未来を考える絶好の機会となりそうだ。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら

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