「男性保育士が女児の着替えの世話をするのはちょっと…」性加害報道が相次ぎ、強まる風当たり。「抱っこは気を遣う」と神経をすり減らす男性保育士は園に不要な存在なのか?

学校や学習塾といった教育の現場、保育園などで子どもを狙った性犯罪が多発し、性犯罪歴がある人物が子どもと接する職場に就職できないよう、採用時に性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の議論が本格化している。そんななか、子どもとの接し方に神経をすり減らしているのが、子どもの着替えやおむつ替えの世話をすることも多い男性保育士だ。現場では男性保育士の存在が必要だとの声も根強いが、彼らを排除することなく、トラブルを防ぐ方法はないのだろうか。
「ほらほら、あっち見てごらん」2月16日、千葉県市川市の「コンパス幼保園 市川校」で開かれていた、子どもたちのお誕生日会で子どもを見守っていたのは、保育士で総園長の島田裕二さん(57)と、保育補助の藤本京太郎さん(37)。お誕生会の最中も、歩いていた子を抱っこしたり、子どもがかぶる冠をつけ直してあげたりと、体に触れる場面は多い。笑顔で子どもたちとふれあう藤本さんだが、トラブルにつながらないよう常に気を遣っているという。キックボクシング選手として活躍しながら、ここ半年ほどは、子どもたちに運動の楽しさを伝えたいと、保育士免許の取得を目指しながら保育補助として働く日々だが、思いもよらぬところで神経をつかっている。
「コンパス幼保園 市川校」総園長の島田裕二さん(右)と、キックボクシング選手兼保育補助として働く藤本京太郎さん
「保育の現場にいると、子どもを抱っこしたり、トイレやおむつ替えの世話をしたりするのは日常。でも、男性保育士による子どもへの性加害のニュースもありますし、『あまり子どもに触れすぎるのはよくないかな……』と、特に女の子に接するときには、すごく気は遣いますね。抱っこするときも、誤って服の中に手が入らないように注意したり、胸やお尻に手が触れないようにしたり……」
保育士や教員らが引き起こした性加害が相次ぎ、保育や教育の現場で、性犯罪歴がないことを確認したうえで採用する「日本版DBS」の議論が本格化。政府は今国会での法案提出に向け、性犯罪歴の照会期間をどうするかなど、詰めの調整を続けている。子どもへの性加害を防ぐ取り組みへの関心が高まる一方で、男性保育士全体への風当たりも少しずつ強まっている。保育士同士が悩みを相談し合うサイト「ホイクタス」を運営する石井大輔さん(55)は、自身も男性の保育士として働いてきた経験を振り返り、「子どもたちとじゃれあっていたらまわりの職員に『あまりやらないで』と言われたことがありました。それからは、おままごとやミニカーなど、子どもと距離を保てる遊びを心がけるようになりました。園長になってからは、お散歩はしてもおむつ替えはしない、といった配慮もしていました」と語る。
保育ノウハウ共有サービス「ホイクタス」を運営する石井大輔さん
そして、研修などで各地の男性保育士とも話すようになった今、「自分(保育士)と子どもが二人きりにならないように気をつける」「子どもと接触しすぎないように注意する」といった配慮をする動きが強まっていると感じるという。「男性保育士への風当たりが強くなると、『男性保育士を採用しない』という園も出てくるかもしれません。でも、男性保育士を排除してしまっては、子どもが接する大人の多様性も保てなくなります。子どもは、『声が高い人もいれば、低い人もいる』『力の強い人もいればそうでない人もいる』といったことを体感しながら、成長していくんです」(石井さん)
石井さんは「男性も女性も互いに理解し合い、保護者や子どもの信頼を得ていくことが大事です」と、人間関係の構築やチームワークが何より大切だと強調する。「もちろん、性犯罪歴がある人を子どもと関わらせない、という対策も大事ですが、保育士がストレスをため込まず、協力し合って子どもを育てる職場づくりも、性加害の防止につながります」
「コンパス幼保園 市川校」で開かれた子どもたちのお誕生日会
「コンパス幼保園 市川校」でも、保育士同士が協力し合って子どもを見守ることが、結果的に性被害を防ぐことにつながっているという。「たとえば、私たちの園では、複数人の大人が見守る中でたくさんの子どもたちが一緒に着替えたり、トイレにもみんなで行ったり、という風景が日常です。こうして保育士が協力し合う中で子どもたちがみんなで行動すれば、保育士の業務負担の軽減にもつながりますし、性被害が発生する余地がなくなってきます」(島田さん)島田さん自身、過去に勤務した園では他の保育士との関係に課題も感じていたという。「保育園は女性が圧倒的に多い職場。私も、女性保育士が更衣室で弁当を食べている間は、別の場所に行ってひとりで弁当を食べるなど、男性保育士ならではの寂しさを感じることもありました。男女ともにストレスを抱え込まないための職場づくりが必要です」と語る。そのうえで、保護者とのコミュニケーションの大切さも訴える。「30代の男性が園長を務める保育園では、保護者から『男性保育士が子どもの着替えの世話をするのはちょっと……』と言われたこともあると聞きました。保育士の不祥事のニュースが流れると、『ここの園は大丈夫ですか』と心配して尋ねてくる保護者もいます。だからこそ、保護者との信頼関係はとても大事。保護者と男性保育士が何度も話すうちに『この先生は大丈夫だな』と思ってもらえれば、男性保育士を排除する必要はなくなります」
実際に、別の園に通う子どもの保護者からは「子どもをあやしたり、機嫌をとったりするのに、男性も女性も関係ない。運動会などのイベントごとも仕切ってくれるし男性保育士がいてくれたほうが助かることも多い」「不審者が園に入ったとき男性の保育士が捕まえてくれ、子どもを守ってくれた」と男性保育士に感謝する声もあがる。日本版DBSの活用によって性犯罪歴がある人物を保育園に入れないことはもちろん大切だが、男性保育士全員を排除することは必ずしも問題の解決策とはならない。男女の保育士同士がともに協力し合いながら、保護者や子どもの信頼を得ていくことが求められている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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