「助成金は払います。ただし百合子のチラシは貼ってね!」総額8億円超の公金は宣伝費? 大地震の備えに小池都知事の顔写真は必要か?「都民の大半にはなんの恩恵もない」

お金出します! ただし百合子のチラシは貼ってね!。平たくいえば、こんな条件付きの東京都の助成金が2023年、都内の町内会・自治会にバラ撒かれた。総額8億6000万円。助成の趣旨は、関東大震災100年を機に街の地域防災の意識を高めようという建て付けだ。今年7月には自身の任期満了に伴い、3選出馬が噂されている小池百合子都知事。現職の立場を利用した露骨なP R戦略に批判の声が高まっている。
問題の助成金は「関東大震災100年町会・自治会強化助成」。東京都生活文化スポーツ局を申請窓口に昨年、6回にわたって募集を行ない、既に受け付けを終了。助成限度額は単一町会・自治会あたり30万円で、交付決定通知から約2カ月で順次振り込まれるスケジュールだ。窓口の同局は助成内容として「町会・自治会において、不足する防災資機材や防災備蓄品等を購入する経費を助成します」とし、さらに「助成条件として、町会・自治会からのメッセージ等を記載した、町会の防災対策や加入促進に係るチラシの掲示板への掲示を必ず実施してください。なお、町会・自治会内での回覧も可能な限りご協力をお願いいたします」と明記した。
小池都知事(本人facebookより)
なにやらきな臭いこの助成条件。上田令子都議(自由を守る会代表)もこう首を傾げる。「助成金は各町会で蓄電器や発電機を買うために使用されたと聞いております。個々の町会で“使用用途”を申請してそれが通れば、ケースバイケースで購入できる。形を変えたバラマキですが、これは古くは自民党がやってきた常套手段です。しかし、ここまで露骨なのはこれまで見たことがありませんね。何せ『助成条件』として掲示が求められているチラシには、小池知事の顔写真と直筆メッセージがしっかりと入っているわけですからね」チラシの「ひな形」を見れば、その“怪しさ”は一目瞭然だ。上段部分に小池知事の写真とメッセージがあり、下段部分の余白に町会から地域住民にむけてのメッセージを書くスタイルになっている。上田都議が続ける。「知事選を意識したPR活動とも受け取られかねないチラシです。選挙前にこのようなチラシを私が貼ったら公職選挙法違反になりますよね。小池知事も選挙が半年後に迫っていますから、このようなチラシを貼っていいのか疑問です。東京都は選挙管理委員会を設置し、公職選挙法違反対策を所管しています。都内の議員や候補者を厳しく指導する立場にありながら、このようなダブルスタンダードの助成を行うというのは大きな問題があると思います」結局、約3000の町会や自治会が助成金を申請、予算総額8億6000万円がバラ撒かれた。「町会や自治会は作成したチラシのデータの提出は求められたものの、都は現場のチェックまでは行なわなかったようなので、実際に貼らなかった町会や自治会も多かったと思います。そして、仮に貼ってなかったからという理由で交付を取り消されるなどの極端な措置はなかったみたいです」(上田都議)
小池都知事の顔写真が入った“疑惑”のチラシ
上田都議は、かつて小池知事が創設し、現在は特別顧問を務める「都民ファーストの会」に所属していたこともある。しかし、袂を分かってからは、2020年に小池知事が有名ユーチューバーとのコラボ動画などの広告費に費やした約12億円の妥当性について議会で質問するなど、小池都政の問題点を追及し続けている。今回の助成金の趣旨の「地域防災力の向上」についてはどうみているのだろう。「そもそも町会・自治会という限定的な部分にしかお金が使われなかったわけですから、都民の大半にはなんの恩恵もない助成金です。ではなぜ町会・自治会が対象になったのかといえば、選挙で票に繋がるからですよ。だからこそ、これまで自民党も商店街にポスターを貼らせて、バラマキのようなことをやってきたわけです。そもそも本当に防災意識を高めたいのであれば東京防災公式キャラクターの『防サイくん』(東京都の登録商標)のイラストを入れたチラシにするべきです」
実際に申請し、助成金の交付を受けた町会はこれについてどう受け止めているのか。中野区内の町会長(男性)はこう証言する。「私らは小池都知事そのものに悪いイメージは持っておりませんし、助成金の条件にチラシを貼るということにも、ことさら抵抗がありませんでした。もちろん『政治色が強い』と難色を示したり、貼りたくないという町会もあったとは聞いています。都知事選に向けたPRと捉えられても仕方ないかと思いますが、うちの町会はそういう判断はせずに掲示板に貼ったり、回覧板と一緒に配布しました。チラシは1ヵ月ほど貼っていましたが、もう剥がしました」
文京区内のビルに貼られたチラシ
同会長は「条件などにはさほど抵抗がなかった」というが、そもそもの助成金の趣旨と効果には疑問が残るという。「例えば町会単位で考えた場合、うちのように3000世帯を超える加入者がいる町会で、30万円でできることは限定的になります。一方で300世帯しかないような町会では単純計算でも一世帯に対し10倍の予算が充てられます。正直に申しまして、町会の規模に関わらず一律30万円支給というこの助成金では、少なくともうちの町会内では地域防災を住民に周知するという意味ではまったく効果がなかったと思いますね」では、1世帯あたり100円という計算になるこの助成金を、同町会ではどう使ったのだろう。「基本的に災害に関して不足する防災資機材や防災備蓄品等を購入するための助成金なので、マスクと体温計を購入しました。当然、各世帯分まかなうのは無理なので、必要なタイミングで必要な方に配ろうかと考えております。規模の小さな町会ではマスク1箱を各世帯に配布したところもあったようで、『なんでうちの町会は何ももらえないんだ』との小言もいただきました」
上田令子都議(本人SNSより)
文京区のある町会も、“百合子チラシ”を助成金の条件と割り切って申請し、簡易トイレを購入したという。男性町会長がこう語る。「ウチの町会では簡易トイレを購入して、昨年末から各世帯に配布しました。その領収書を提出したら都から助成金が振り込まれると聞いていますが、まだ振り込まれていませんね。防災力強化という意味ではそこまで効果があったとは思えませんが、やっぱり能登地震があったので、簡易トイレに興味を持つ人も増えたという感じはしますね」
各町会が実利を選ぶ「大人の判断」に傾くことは何ら批判されることではない。また、いつ来てもおかしくない災害に対する備えは必要なことだろう。しかし、現職知事が選挙直前に自身の顔写真を貼ることを助成金交付の条件にしたことを、東京都選挙管理委員会はどう判断するのだろうか?「これに関しては本当に千差万別でして、個々のケースで判断されるので一概には申し上げられないんですよ。もちろん選挙活動であれば、任期満了日前の6ヵ月間は選挙区内に個人ポスターを掲示してはダメです。しかし、街でよく見かける政治家と党首が2人並んで写っているようなポスターは個人ではなく政党の政治活動にあたるので、任期満了日前の6ヵ月間でも掲示できます。また行政において使用するチラシなどについては各局が目的をもって使用している場合、それがただちに公職選挙法に抵触するとはいえません」(東京都選挙管理委員会)
東京都庁
取材に対する都選管の解答はいかにも玉虫色なものだったが、政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授はこう言い切る。「該当のチラシが公職選挙法にただちに抵触したり、違反することなどはないにしても東京都の助成金ということは、公金を使っているということです。公金を使う以上、何のために小池都知事の写真入りのチラシを使用したか、そこに必然性があるのかの説明責任があります。こうした助成金に対して、知事などの写真入りチラシなどを提示することが申請条件に含まれているというのは、これまで私は聞いたことがありません。今回のように町会や自治会の防災力強化を目的にした助成事業に知事の写真を使用すると政治色も出ますし、チラシに拒否反応を示す人もいると考えられます。だからこそ、このチラシである必然性をきちんと説明できないのであれば、公金を私物化して自己のPRに使っていると言われても仕方ないのではないでしょうか」東京都生活文化スポーツ局に質問状を送ると、広報課から以下の回答があった。〈本助成事業は、関東大震災から100年の節目において、地域防災力の向上を目的として、町会・自治会に防災資機材等の購入を支援するものである。共助の要である町会・自治会が東京都と連携して行っている防災への取組を住民の方々に広く知ってもらう観点から、チラシの掲示をお願いしている。防災は都民の生命安全にかかわる重要事項であり、都民の生活と命を守ることを一番に考え、都知事からのメッセージとともに都民にお届けしたものであり、過去にも同様の取り組みを行なっている。なお、都には指摘するような声は寄せられていない。こうした取組は、都が行う防災力強化助成という事業の一環で作成・配布された文書であることから公職選挙法の規制の対象とならないことを確認している。本事業について、政治色と関係付けての報道は、悪戯に地域防災力の向上という行政運営を妨げる行為であると考えている〉小池都知事も東京都も、助成金の条件に“都知事の顔”を貼らせることが地域防災力向上につながると本気で考えているのか。「過去にも同様の取り組みを行っている」とは半ば居直りではないのか。都民にとって何がファーストなのか、納得のいく説明が必要だろう。

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