「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は前編に続き、創業50年を超えた、ろ過布フィルターメーカー・大塚実業株式会社の代表取締役社長である大塚雅之氏に、未来への投資についてお話を伺いました。
大塚雅之氏
大塚実業株式会社 代表取締役/大学卒業後、旅行会社へ勤務。1994年大塚実業へ入社。
翌年に阪神淡路大震災が起こる。多くのお客様の被災を目の当たりにし、大阪営業所異動を志願。自ら被災地支援活動の陣頭指揮を執りつつ、お客様目線を取り入れた新たな事業スタイル確立し、3年間で関西市場の売上を3倍にすることに成功。2005年東京支店へ異動。2009年代表取締役へ就任。 自ら制定した100年ビジョンに沿い、現在は海外進出と社内改革に挑戦している。一般社団法人公益資本主義推進協議会 理事・東日本統括・東京支部長、日本液体清澄化技術工業会理事・副会長、日本分離学会幹事を務める。
経営者は「教育者」である
――後編では、「未来への投資」という観点で、日本企業が教育や海外に投資をする意義についてお伺いできればと思います。まずは教育の面では、大塚さんはどのように考えていらっしゃいますか?
大塚雅之氏(以下、大塚氏):望ましい形として、「経営者は教育者である」のが理想だと考えています。企業の目的は、会社や事業を永続させることです。お金儲けは、会社を継続させるための手段にすぎません。会社を永続させるためには、社員の教育が不可欠です。人生100年時代といっても、元気に働ける期間には限りがあります。経営者も社員もいつかは入れ替わるわけですから、教育の連鎖・循環をつくっていくことが欠かせません。
社員も、家に戻れば家族の一員です。社員を教育することで、その家族にも波及していきます。会社での経験や、経営者や上司から言われた言葉が、その家族にも伝わっていくかもしれない。そう考えると、気が抜けないですし、教育に対しても本気になります。
私たちのような製造業ですと、お客様からの直接の声が届きにくいという面があります。しかし、みんな職人気質で「お客様を誤魔化してはいけない」という想いが強いです。「当たり前のことを当たり前にする」という在り方をみんなで学ぶことで、お客様から直接の声を聞けなくても、より良いモノづくりを後世に伝えていけると思います。
突き詰めていくと、一人ひとりが自分なりの幸せを追求して、自分なりに幸せになることが人生の本質だと思います。「だれのために」「何のために」が一人ひとりの幸せにつながっていて、方法よりも「在り方」が大事なのではないでしょうか。一人ひとりがお互いの幸せのために仕事をするという在り方を大事にできれば、良い連鎖や循環をつくっていけると思います。
教育は本当に奥深くて難しいなと感じることがままあり、社員にどんなに伝えても、だんだんと「社長がまた言っているよ」という雰囲気になります。熱心に聞いてくれる社員もいれば、そうでない社員もいます。やがて理解度に差ができ、日々の行動にも影響します。
そこで私たちは、映像をつくって社員に見てもらうようにしています。例えば、「海外の社会課題に対して、会社の技術でこうやって取り組もう」と、バングラデシュの話をいきなりされても社員はピンとこないわけです。唐突に海外の話をするのではなく、身近なものに落とし込んで伝えていく必要があり、映像にするとよりイメージしやすくなります。また、私が直接社員に伝えるのではなく、知り合いの社長に頼むこともあります。父親の話は聞かなくても、おじさんの話は聞くということがあるからです。だれが話すかによっても、印象や捉え方は変わりますから。
――映像までつくって伝えるというのはすごい。そこまでしている会社は、なかなかないですね。
大塚氏:学びは一生と考えているので、常に挑戦しています。社長も社員も同じですね。社長が挑戦している姿を見せ続けないと、だれもついてきてくれないと思います。ただ、ビジョンを示すと社員は引いてしまうこともあります。「今の業務だけでもパンパンなのに、これ以上新しいことなんて…」と、どうしてもギャップが生まれます。
営業職とはコミュニケーションを小まめに取れるのですが、製造の現場は私が行くと邪魔になってしまうこともあって、営業職のように小まめにできないところがあります。新型コロナの感染拡大でより顕著になり、なかなか悩ましい期間でした。DX推進やリモートワークなど、働き方改革が各業界で進められているわけですが、法律が追い付いてない部分も感じます。業種業態によって生産性も異なるわけですが、どうしても一緒くたにされてしまう。成長意欲の高い社員がいても、経営としては残業させられない。もどかしく感じることがありますね。
――成長機会の損失になりますよね。働き方改革は、1週間や1ヶ月、1年という短い期間で生産性や効率化、余暇を考えてしまっているのではないかと感じます。もっと長い期間、人生というスパンで考えないといけないのではないでしょうか。20代と50代では、時間の価値は違うわけですから。20代はガムシャラ、30代で良い意味で手の抜き方を覚え、40代・50代は人に教えたり。仕事を大事にしたい人もいれば、家庭を大事にしたい人もいて、その両立が大事な時期もあったり。人や時期によって優先順位は変化します。にもかかわらず同じ基準になっているというのが、極めて違和感。働き方改革という価値観を押しつけられている感じがします。
大塚氏:もちろん、自分の意見を主張するのが苦手な人もいますから、法律として定める必要性も感じます。ただ、社長になりたい人もいるわけですから、そういった人がチャンスを失い、結果的に未来を失うことにならないかという危惧もあります。そうならないように、常に試行錯誤しています。
海外投資は地球への投資であり貢献
――では次に、海外への投資・取り組みについてもお聞きしたいと思います。
大塚氏:円安問題や日本の少子化、人口減などの問題もありますが、私としては日本人の人口は減っても日本に住みたい人は世界中にいるので、必ずしも日本の未来に対して悲観視しているわけではありません。とはいえ、経営者としてリスクヘッジしておく必要がありますから、今から取り組んでいます。
大前提として、地球はつながっているわけですから私たちの事業は日本だけで完結するものではないと考えています。自分たちが培ってきた技術を活かせる場があれば、それが海外であっても取り組んでいきます。
世界にある淡水は3%ほどで、ほとんどが南極の氷。実質は1%もないと言われています。もともと限られている有効な水という資源を、今後は奪い合うことになるかもしれない。世界人口は増え続けているわけですから、起こり得る未来です。水の有効活用にはろ過技術が必要不可欠で、飲料水や洗濯、掃除など、水の用途によってろ過も使い分けることが求められてくると思います。また、海水を淡水化する技術も進歩しています。ただ、技術は進歩する一方で、新たな環境問題を生む可能性もあります。一つひとつ、生じた課題や生じ得る課題に対して取り組み続ける必要があるわけです。
生きる力=対応する力であり、変化を見極めていくことも求められています。2022年は生成AIがなにかと話題になりましたが、知識はAIで対応できるようになるということは、その教育も必要になってきます。単に「AIを活用しよう」というノウハウやテクニックだけでなく、「じゃあ、人間はなにをしていくのが良いのか」という本質についても、社長同士や社員ともっと議論する必要があります。AIにできないことはどんどん減っていくわけですし、AIの進歩は世界同時進行です。新興国の方が、日本よりもAIの普及が早いかもしれません。
AI時代における人間の仕事や教育とは
――そうですね。新興国では、固定電話が普及する前にスマホが普及しているわけで。AIの議論になると、「人間はもっとクリエイティブな仕事をしよう」という方向になる風潮がありますが、みんながみんな創造的な仕事をできる、あるいはしたいわけではないと思うのですけど、大塚さんは「AIにできない仕事」については、どう思われていますか?
大塚氏:やはりホスピタリティかなと思います。確かに、AIによる顔認証や解析技術が進むと、人の感情や心理を読んだり、それに応じた言葉を発したりもできるようになると思います。しかし、人は人とのつながりで生きる社会性を大切にする存在だと思いますから、AIでは対応しきれない領域が残り続けると思います。それが、ホスピタリティなのではないでしょうか。
また、複雑な織物やモノづくりなど、これまで「職人技」とされてきたこともロボットができるようになっていくと思います。ただ億単位の投資が必要ですから、合理性があるかという面もあります。AIやロボットの進歩で65%の仕事がなくなるとも言われていますが、一方で新たな仕事も生まれるわけです。ある程度想定できる未来に対して、今からどんな取り組みをするか。その対応力や観察力が必要なのではないでしょうか。
人は人で磨かれる
――2022年は、生成AIとともにリスキリングも話題になりましたが、基本的には生涯学習で、大塚さんの仰るように学びは一生なんですよね。学習というと、本を読んだりなにか講座を受講したりするイメージをしがちですが、人と会って話すことも学習だと思います。
大塚氏:「米は米で磨かれ、人は人で磨かれる」という言葉があります。いろいろな人と関わり合って話を聞くことからも、実は多くの学びがありますよね。本や講座も良いのですが、生の声を聞くことも大事だと思います。人と人が意見をぶつけ合うことで、お互い学び合い、切磋琢磨できるのではないでしょうか。
同じ環境、同じ条件で話を聞いたとしても受け手によって影響は異なると思います。例えば、同じ場所に居て同じことを経験しても、受け手によって影響は異なる。同じ映画を見ても、感想は異なる。同じ食べ物を食べても、意見は異なる…それと同じです。ただ、少しでも前向きに、そして貪欲に色々なことを吸収して役に立てる(人のために使えることを考える意識)が大切なのだと思っています
現代はESG・SDGsなど、利益追求だけではない価値観が浸透してきています。私はバブルの残り香を味わった世代で、「もっと稼いで、もっと良い生活を」という風潮がまだありました。価値観も多様化していますから、バブル世代的な価値観を持った20代もいますし、そうでない20代もいる。異なる意見や考え方があるのは当たり前で、いろいろな考え方に若いうちから触れておくことも必要だと思います。
――人と人で磨き合うというのも、AIにはできないことですね。大塚さんは経営者として、どんな人と一緒に仕事をしたいと思いますか?
大塚氏:「明元素」ですね。明るくて元気で素直。賢くて器用である必要はありません。「明るい」というのは、単に性格が明るいということではなく、前向きな思考を持っているということ。「元気」というのは、体調を整えていること。「素直」というのは、人の言葉を受け取れるということです。必ずしも人の言葉を受け入れなくても良いのですが、受け取れるかどうかが大切だと思います。この3つを持っている人と仕事をしたいですし、一緒に未来をつくっていけたら幸せだなと思います。
中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら