〈裏金疑惑議員9名がメンバー入り〉暴力団関係者が語る「政治刷新本部」とヤクザ組織の共通点。「序列をはっきりさせるため役職がやたらと多い」「でも政治家はいつまでも権力を手放さない」

1月11日、自民党派閥の政治資金パーティーによる裏金事件を受けて自民党が立ち上げた「政治刷新本部」のメンバーが公表された。その人選に批判の声が噴出している同組織だが、メンバーと同時に発表された役職を見て「どこかの組の組織図かと思った」と笑うのはある暴力団幹部だ。いったいどういうことか。
派閥のあり方や政治資金問題の解決のため設置された「政治刷新本部」。しかし、この組織に名を連ねる10人の安倍派議員のうち9人に裏金疑惑があがっており、立憲民主党の長妻昭政調会長は「茶番に近いのではないか」とコメント。兵庫・明石市の泉房穂前市長もX(旧Twitter)で「『これって“刷新されてしかるべき方々”を集めたってこと?』と一瞬そう思ってしまった」と皮肉った。
しかし、関西に拠点を持つ指定暴力団の古参幹部が注目したのは、そのメンバーではなく、ずらりと並んだ役職名だ。その役職というのが「最高顧問」「本部長」「本部長代行」「本部長代理」「副本部長」「幹事長」「幹事長代理」「幹事」「事務局長」「事務局長代理」「事務局次長」などなど。「最高顧問」には麻生太郎副総裁と菅義偉前首相が就いており、その下に「本部長」として岸田首相が入っている。名前を見れば自民党の組織だとわかるが、「代行とか代理とか、どこかの暴力団組織みたいですな」と古参幹部は笑った。「これだけの役職を設けるのは役割分担というより、それだけ政治家に序列があり、上下関係をはっきりさせないといけないのだろう」当選回数や役職経験などで立ち位置が決まる政治の世界が暴力団組織と似ているのは古参幹部の言う通りかもしれない。ただ決定的に違う点がある、と古参幹部は説明する。「暴力団組織では通常、組織図のトップは現役組長だ。たとえ最高顧問という役職がつくられたとしても、その組織のトップは組長であることは変わらない。それは組長という名称が会長や総裁、理事長に変わっても同じだ」
今の六代目山口組に最高顧問はいないが、司忍組長が代替わりしたころは顧問や最高顧問がおり、その座には三代目山口組の田岡一雄組長、四代目山口組の竹中正久組長についていた直参組長だった実力者たちが就いていた。「最高顧問や顧問は大御所扱いで御意見番的存在だが、役職に就いてもほとんど意見を言わず口を挟むこともない。そのような実力者たちに正面きって引退してくださいとは言えず、名誉職に就いてもらったというのが本音だろう。六代目山口組では昨年、直参の2つの組で代替わりがあっていずれも前組長は引退せず総裁というポジションに就いたが、これも名誉職であって、組の正真正銘のトップは跡目を継いだ組長だ」(古参幹部)政治刷新本部の名簿では、本部長となった現首相の岸田文雄氏の上位に、最高顧問として麻生、菅という首相経験者2人の名前がある。「政治の世界では岸田氏より、麻生氏と菅氏のほうが序列は上。彼らは権力を手放さず、現首相に意見を言えるほど影響力がある」(古参幹部)。
麻生太郎自民党副総裁(自民党ホームページより)
暴力団組織ではトップに面と向かって逆らうならば、山口組が分裂したように組を割って出ていくしかない。だが政治の世界には、同じ党内なのに平気でトップに逆らい、派閥の論理を利用して対立も辞さないのが実情だ。「党の中で、首相である岸田氏の言うことを“聞かない派”があるのは、自民党が派閥の連合体みたいなものだからだろう」古参幹部にそう言われて思い浮かべるのは指定暴力団の住吉会だ。住吉会はかつて住吉連合、住吉連合会という名称で知られた連合組織だ。「住吉は『連合』と称していたように、一般的な暴力団がピラミッド型組織であるのと違い、傘下が横並びの組織。そのためか役職がやたらと多い」(古参幹部)。全国に約2400人の構成員を持つ住吉会は、会長の下に最高幹部の会長代行や理事長幹事長、本部長、総務長、執行部に9つの委員会の委員長がいる。さらに会長室室長や事務局長、十数名の委員長補佐に各地区の統括長などの他、特別常任相談役や数十名の常任相談役、会長補佐約20名、副会長は80名を超える。「令和4年に40名あまりの副会長昇格者が公表されたときはどこかの合格発表みたいだった。長年ヤクザをやっている俺たちでも住吉はわかりにくい。暴力団の中では一番、住吉が党の派閥に近いだろう」(古参幹部)
「組織図を見るなら、六代目山口組がわかりやすい」と話すのは関東で活動する暴力団の組長だ。暴力団組織の基本は親分子分の関係からなる。六代目では組長の下には執行部としてナンバー2の「若頭」、「舎弟頭」に「本部長」、「若頭補佐」、それに「舎弟」に「幹部」、「若中」と続く。親分から見て若中は「子分」、舎弟は「弟分」。若頭は子分の筆頭で時期組長候補、舎弟頭は兄弟分たちを束ねる代表、そして本部長は事務方というところだろう。「組を継承するのは子分であり、その筆頭である若頭が有力候補。舎弟が組を継ぐことはほとんどない。だが、六代目山口組の若頭、高山清司氏もすでに76歳という高齢。このままいけば若頭補佐の中から次の組長が選ばれる可能性も否定できないが、誰になるかはわからない」(組長)
六代目山口組、高山清司若頭(写真/共同通信社)
金を稼ぎ、実力のある子分ほど名を上げ出世していくと思われがちな暴力団組織だが、それだけではダメだとこの組長は言う。「必要なのは実力、運、人を選ぶ目。どこの組に入るか、誰につくかで命運が決まる。抜擢されるには、誰につき、誰に好かれ、目をかけられているかにかかってくる。暴力団はえこひいきが幅を利かせる世界。“一にも二にもえこひいき”という組長がいるほどだ。好きなヤツはそばに置いて重用するが、好きでもないヤツにはぞんざいになる。つく人間を間違えると出世どころか自分の命が危なくなる。上の者も人選を間違うと妬まれ恨まれ足を引っ張られ、自分の身すら危うくなる。暴力団組織は政治家のように簡単に離党や離脱ができず、復権するのも困難だ。子分らが風見鶏になっていくのはしかたない。まぁ、政治家もえこひいきと風見鶏だらけなのは同じだが」政治家もヤクザも、権力を争う世界の本質は、どこも似たようなものなのかもしれない。取材・文/島田拓集英社オンライン編集部ニュース班

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