「3台はミャンマーの軍関係者に売ったよ」自衛隊高機動車が海外に密売される驚きの手口「部品をバラバラに運んでこっそり組み立てる」「自衛隊車両とわからないよう車体を白く塗り替えることも」

防衛省は12月15日、陸上自衛隊の高機動車が海外に流出していた問題を受け、自衛隊車両を解体・鉄くずにして処分する契約を結んでいた業者の処分が不適切だった事例を確認したことを発表した。だが、海外流出ルートの詳細や手口の調査に3億円の予算をかけたものの、完全解明にはいたっておらず、内部からも不満の声が溢れている。防衛省が把握できていない自動車密輸の詳細な手口について詳報する。
「あまりにもお粗末な調査結果でした」(防衛省担当記者)防衛省がホームページに<自衛隊専用車両の売払いに関する調査の結果等について>と題した発表を行ったのは12月15日のこと。陸上自衛隊の高機動車が海外に流出していた問題を受け、同省が実態を調査していた。高機動車とは、人員や物資を輸送するための車両で、陸自の防衛装備品の一つ。本来、自衛隊の車両は、防衛省と払い下げた業者との間で解体・鉄くずにして処分する契約を結んでいるが、なぜか陸自の車両が海外に流出していたのである。「軍事機密の漏洩を防ぐ観点からも、こうした防衛装備品が海外に流出することはあってはならない。また、業者が契約通り車両を鉄くずとして処分したかどうかの確認を怠っていた防衛省の管理体制も非常に問題」(同前)そもそも、この問題が最初に報じられたのは昨年9月だ。読売新聞がタイやフィリピン、そして日本国内などにも陸自の高機動車が流出していることを報じると、他のメディアもそれに追随。処分されたはずの陸自車両がなぜ国内外にあるのかに注目が集まっていた。
筆者がタイのミリタリーショップで発見した73式小型トラック
「読売の報道以前にも、ロシアの中古車販売サイトで高機動車が売られていたことがネットで話題になっていました。ウクライナ戦争などに日本の自衛隊車両が使われていたとすれば、それこそ国際問題に発展する可能性もある」(軍事ジャーナリスト)一連の報道を受けて木原稔防衛相は9月19日の会見で、約3億円の予算をかけて東南アジアを中心に自衛隊車の国外転売ルートを調査する意向を示していた。その調査結果が、今回防衛省から発表されたのである。前出・防衛省担当記者はこう呆れる。「一言でいえば、調査をしても詳しい実態がよく掴めなかったという結論でした。契約違反を理由に業者2社を指名停止にしただけで、この問題を終わりにしようとしている。本当に3億円もかけて調査をしたのか。流出ルートの詳細や手口も掴めず再発防止などできるのか大いに疑問です」
木原稔防衛相(本人SNSより)
防衛省の調査では、流出した車両は18台あり、そのうち8台がフィリピンに渡っていることを確認したようだ。残りの10台は国内で流出していたという。だが――。今回、防衛省が公表した内容はすでに報道されていることばかり。問題なのは、こうした防衛省の調査結果をはるかに上回る数の自衛隊車両が、長年に渡って海外へと流出し続けていた実態が解明されていないことだ。さらには、陸自の車両がロシアだけでなく、軍事政権下のミャンマーにまで流出している疑いがあるにもかかわらず、防衛省はこれらをまったく調査できていないのである。
昨年11月、筆者は陸自の車両や日本の盗難車などがどのようにして海外に密輸されていくかを追ってタイへ取材に行った。すると、タイ郊外の店舗で実際に陸自の高機動車が売られている現場を確認。さらに高機動車だけでなく、「73式」と呼ばれる陸自のジープまで売られていることを現認しており、今回防衛省が把握できていない自動車密輸の詳細な手口について「週刊プレイボーイ」(12/11号)にてレポートした。取材に応じた現地の女性店員がいう。「高機動車とジープは日本の自衛隊のもの。この高機動車にはエンジンがないため、数ヶ月前から売れ残っています。うちは昔から、タイやインド、サウジのブローカーから自衛隊の車を不定期に入荷していますよ」
ミリタリーショップで販売されていた陸上自衛隊の高機動車
確かに販売していた自衛隊車両には、敵から気づかれないようライトの光を調整するためのロータリースイッチ(管制灯火スイッチ)や、銃を立てかけておくための銃架など、自衛隊の車両であることがわかる装備が付いている。さらに当時、現地からタイ語でSNSなどを検索しただけでも、高機動車を扱うバンコクの自動車ディーラーや所有者が比較的容易に見つかった。高機動車や自衛隊のジープを試乗する動画まであり、タイ国内に相当数の自衛隊車両が流出していることが推察できる。
タイのSNSでは自衛隊車両が売られている動画が複数確認できる
長年に渡り自動車の密輸に関わっているという在日パキスタン人の男性はこう証言する。「自衛隊車両は10年以上前から海外に送っている。払い下げた自衛隊車両を扱っている業者は私が知っているだけでも宇都宮や新潟などに数か所あり、後で組み立てやすいように分解してコンテナに乗せ船で運びます。一目で自衛隊車両とわからないよう車体を白く塗り替えることもあります」
こうして日本から不正に持ち出された自衛隊車両はタイのレムチャバン港に運ばれ、そこからタイ国内や別の国へと振り分けられているというのだ。
タイの港に運ばれた自衛隊車両は、その後どのようなルートを辿るのだろうか。自動車の密輸に関わったことがあるというタイ人男性はこう明かす。「タイでは2019年に、海外からの自動車輸入を原則禁止している省令があるため、車ではなく部品として運ばれてくる。運び入れた部品は工場でこっそりと組み立てられ、国内外に転売されていきます。またフリーゾーン(FZ)と呼ばれる経済特区を使って密輸をするケースもあります。FZは外国向け貨物の保管倉庫としての役割があり、関税が免除されている地区。表向きは外国向けの貨物として、一度タイのFZに運びこまれるが、実際にはFZの内部でコンテナを開け、自衛隊車両の部品を組み立てて海外に密売したり、一部はタイ国内でもを売り捌いたりしています。こうした方法で車を転売してきて、これまで税関や警察に見つかったことは一度もありません」
自衛隊車両だけでなく多くの国産自動車も「部品」として運ばれる
そうした自動車の密輸拠点の一つとなっているのがミャンマーとの国境沿いにあるタイ北西部の街・メソトだ。国境を流れる幅100メールほどの川の対岸は、今も内戦状態が続くミャンマーである。
密輸の拠点となっているタイ西部の街メソト
そのメソトで、日本車の密輸を取り仕切っているタイ人がいるとの情報を掴み、本人を直撃すると、平然とした様子でこう答えた。「つい1週間くらい前、4台の自衛隊のジープが届いた」そして、筆者にスマホの画面に出した写真を見せながら、こう続けた。「これがその自衛隊の車だ。他にいくつもある」このタイ人の話によれば、やはりバラバラな状態で届いた自衛隊車両をFZ内で完成車に組み立てていた。3台はミャンマー軍の関係者に売ったと証言。車両は人のいない川岸に停泊させた小舟に積み込み、対岸のミャンマー軍関係者に引き渡すそうだ。明らかな密輸である。ちなみに残りの1台はエンジンが切断されていたためミャンマー軍には売れなかったといい、そうした車はタイ国内で売り捌いたことを匂わせたのだった。
「自衛隊車両はミャンマー軍にも流れる」と証言した密輸業者
「自衛隊車両はミャンマー軍の幹部らが乗ることもあれば、ミャンマー国内で転売されることもある」(同前)日本政府はミャンマーに対し人道支援をする裏で、結果的には流出した自衛隊車両がミャンマー国軍や幹部を利している実態があるのだ。果たして今回、防衛省は調査に手を尽くしたのか。全容解明なくして再発防止はできないだろう。昨年9月の会見で「大変重く受け止めている」と語っていた木原防衛相だが、結局、その場しのぎの発言だったと言わざるを得ない。取材・文/甚野博則撮影/ Soichiro Koriyama

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