大阪医科大学(大阪府高槻市)の元講師が在職中に無届けで再生医療を行ったとされる問題で、大阪府警は15日、国から許可されていない施設で再生医療に使う脂肪幹細胞を培養したとして、元講師で医師の伊井正明容疑者(52)=大阪府茨木市=と、共同研究をしていた製薬会社の元従業員浜園俊郎容疑者(62)=横浜市西区=を再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕し、発表した。
生活環境課によると、2人は昨年3~5月、厚生労働省の許可を得ていない大阪医大の研究棟の培養室で、40代と80代の男女2人から採取した脂肪幹細胞を培養した疑いがある。伊井容疑者は容疑を認める一方、浜園容疑者は「伊井先生にだまされた。許可を取っていると思っていた」と否認しているという。
大阪医大によると、この培養室は同大の実験動物部門などが細胞培養に利用し、伊井容疑者は当時、実験動物部門の副部門長を務めていたが、問題発覚後、諭旨解雇された。
幹細胞を使って組織や臓器の機能を回復させる再生医療をめぐり、2014年に施行された再生医療安全性確保法は健康被害や生命倫理への配慮から、無許可の施設での細胞培養を禁じ、再生医療を提供する医療機関などには事前に専門家の審査を経て、提供計画を厚労省に提出することを義務付けている。厚労省は先月、伊井容疑者が届け出をせずに、培養した細胞を人に投与した疑いもあるとして刑事告発していた。
脂肪幹細胞を使った再生医療は美容や老化予防などで注目される。府警は、伊井容疑者が独自に開発した手法で培養した脂肪幹細胞を、人体に投与して効果を試そうとした疑いがあるとみて捜査を進める。
大阪医大は昨年5月、内部通報を受けて調査。その調査によると、脂肪幹細胞を採取・培養されたのは40~80代の男女計4人で、うち40代女性は培養された脂肪幹細胞の点滴投与も受けたという。伊井容疑者は大学に「アンチエイジング(若返り)目的で頼まれ、断れなかった」と説明したとされる。4人に健康被害は確認されていない。
神奈川県立保健福祉大の八代嘉美教授(幹細胞生物学)は「培養の環境によっては、細菌や異種動物の細胞が混入する恐れもある。無許可施設では安全性が担保されておらず、感染症などのリスクもあった」と指摘している。