愛媛県にある「紫電改展示館」のリニューアルに伴う実機の移設に向け、昨年に実施された機体調査の結果が明らかになりました。
愛媛県は2025年2月25日、旧日本海軍の戦闘機「紫電改」を国内で唯一展示する「紫電改展示館」のリニューアルに伴う実機の移設に向け、昨年に実施した機体調査の結果を公表。調査時の写真も公開しました。
国内に1機だけ現存!日本海軍「最強戦闘機」の保存状態は? 機…の画像はこちら >>アメリカ本土でレストアされた「紫電改」(画像:国立アメリカ空軍博物館)
「紫電改展示館」に展示されている機体は、1978(昭和53)年11月に愛南町・久良湾の海底で発見され、翌年7月に引き揚げられた機体です。原型こそ留めていたものの各所が破損しており、1979(昭和54)年に補修が施されています。
現在は、機体が発見された久良湾に機首を向ける形で展示されていますが、展示館の建て替えに伴い、移設が見込まれます。
県は今回、「紫電改」を開発・製造した川西航空機を前身とする新明和工業に調査を委託。2024年7月2日(火)から2024年7月5日(金)まで、実機の劣化や腐食状況を確認し、補修要領などを検討すること目的に、機体内部を含めた調査が実施されました。
県が公表した調査結果によると、1979(昭和54)年の補修は概ね図面どおりに実施されており、補修時に追加された補強材は、移設に耐えられる程度で健全な状態にあるそう。ただ過去に補修されていないオリジナル構造部には損傷、腐食が確認され、移設時には何らかの対策が必要と指摘しています。
「紫電改」は現在、世界で4機しか現存しません。この愛南町のもの以外、すべてアメリカ本土で展示されているため、そういった意味でも同機は技術遺産、歴史遺産、双方の観点から貴重な機体です。
「紫電改展示館」は、愛媛県南宇和郡愛南町の「南レク馬瀬山公園」にありますが、来園者が減少しており、1980年に開館した展示館も老朽化が進んでいます。そのため、公園再整備の一環として展示館が建替えられる予定です。今後、新たな展示館の建屋は2025年度に着工し、2026年度に完成する予定です。
県は来年度の当初予算案に、「紫電改展示館リニューアル事業費」として3億580万円を計上。新築工事に着手するほか、実機移設などに関連するクラウドファンディングを通じて広くPRを行う方針を示しています。
新たな展示館は三角形で、2階建てとなる見込み。2階に入り口を設け、1階に紫電改の展示エリアが設けられる予定です。「紫電改がかつて飛んでいた空、引き揚げられた実機、発見場所となった久良湾、これらを同時に見せること」が基本コンセプトとなっています。また、駐車場やアクセス道路を整備して大型バスを乗り入れ可能にすることで、修学旅行生などの受け入れも可能にする模様です。
「紫電改」は元々、基地の防空などを担当する「局地戦闘機」として開発されました。水上戦闘機として開発された「強風」からフロート(浮舟)などを取り去り、陸上機に改めた「紫電」を、さらに大幅に改良した機体で、太平洋戦争中の1942年12月27日に初飛行しています 。
ベースとなった「紫電」は、原型といえる「強風」とそれほど機体構造を変えていなかったため、胴体中央部に主翼が取り付けられている中翼構造であり、陸上機として効率的な機体構造になっておらず、トラブルが多発していました。そのため、「紫電改」は胴体下部に主翼を設ける低翼構造に変更。機体も「紫電」よりスリム化し、量産性を考慮して部品点数を大幅に削減するなど、別ものと言えるほど手が加えられています。
「紫電改」は1万機以上が生産された「零戦(零式艦上戦闘機)」と異なり、生産機数は約400機にとどまっています。その多くは松山基地を拠点とした第343海軍航空隊に集中配備され、西日本などに飛来した米軍機の迎撃戦に投入されました。
日本軍が実戦に投入できた数少ない2000馬力級戦闘機で、所定の性能を発揮できれば、当時アメリカ海軍が主力としていたF6F「ヘルキャット」やF4U「コルセア」といった機体にも対抗可能でした。日本海軍は「紫電改」に大きな期待をかけており、戦争末期には大量生産計画を立てますが、途中で終戦となっています。