ANAはなぜ「”前代未聞”のメーカーが作った旅客機」を導入? 明確にいたライバル機…でも「これで行こう!」の決め手とは

ANAグループが新型機、「エンブラエル E190-E2」を導入予定です。製造元のエンブラエルはエアバスやボーイングに次ぐメーカーではあるものの、これまでANAへ同社製の旅客機が導入されたことはありません。なぜこの機体が選ばれることになったのでしょうか。
ANA(全日空)グループが新型機、「エンブラエル E190-E2」を導入予定です。E190-E2は国内の航空会社では初導入のモデルになることに加え、製造元のエンブラエルはエアバスやボーイングに次ぐ「世界第3位の旅客機メーカー」ではあるものの、これまでANAへ同社製の旅客機が導入されたことはありませんでした。なぜこの機体が選ばれることになったのでしょうか。
ANAはなぜ「”前代未聞”のメーカーが作った旅客機」を導入?…の画像はこちら >>ANA「E190-E2」イメージ(画像:ANA)。
エンブラエルはブラジルの航空機メーカーで、最大でも150席以下の地方間輸送むけのジェット旅客機、いわゆる「リージョナルジェット」を主力製品としています。同社製機は、この市場では非常に高いニーズを獲得しており、主力のE-Jets E1シリーズ、E-Jets E2シリーズの合計受注機数は約2200機以上に上るとのことです。国内でもJAL(日本航空)グループのJ-AIR、FDA(フジドリームエアラインズ)が「E-Jets」を主力機に据えています。
E190-E2の標準座席数は97席から120席で、E-Jets E1シリーズをベースにしつつ、新型エンジンや新設計の翼などの改良を図り、2018年から商業飛行を開始した機体です。機体自重の軽さや、最新鋭エンジンの搭載などにより安い運航コストが見込まれるとのことで、同社は「現機材構成上保有していない100席クラスの新小型機を導入し機動的な需給適合を図る」としています。
なお担当者によると、E190-E2は「ボーイング737(150席~180席)などの現行の保有機材では、需要過多となってしまう路線へ導入していく方針です。具体的に決定していることはないですが、羽田発着の地方路線などへの投入も考えられます」としています。
しかし、ANAグループは当初、別のリージョナルジェットの導入を決定していました。
これが三菱重工グループの三菱航空機「三菱スペースジェット(MSJ。旧称:MRJ)」です。ANAはこの機の開発の後ろ盾となる「ローンチカスタマー」として最大25機を発注。しかし国からの多額の支援をうけながらも、「三菱スペースジェット」は開発遅延を幾度も繰り返したのち、2023年に開発中止という結果となりました。
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ANA仕様の「三菱スペースジェット」(画像:ANA)。
ANAの担当者も「(E190-E2の導入は)かなり『三菱スペースジェット』の代替にほぼ近いということはなくはないが、完全な入れ替えではなく、現時点の機材ラインナップや需要を見たうえで判断した」と話しています。同社はMSJが実用化された場合、90~100席級の座席数を持つと発表しており、最新の需要動向などを判断し、MSJより少し大型のE190-E2の導入を決定したようです。なお、E190-E2の導入機数は20機。MSJと比べて、機数を少なく発注しています。
なお、同社では2025年以降、グループでは最初の席数となる74席を配したプロペラ「DHC8-Q400」を新たに7機追加で導入する方針も決定しています。E190-E2でも需要過多となる路線は、DHC8-Q400が担当することになると見られます。
しかし、E190-E2には競合機が存在します。ANAでも使用されているエアバスが手掛けた旅客機、「A220」です。すでに多くのエアバス機を使用してきたANAグループが、なぜエンブラエルを選んだのでしょうか。
E190-E2のライバルともいえるA220は当初、ボンバルディアの「Cシリーズ」として開発されたモデルで、2018年に2社の業務提携によって「エアバスA220」にモデル名を変更したというユニークな出自を持ちます。
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エアバスA220。写真は胴体延長タイプのA220-300(乗りものニュース編集部撮影)。
とはいうものの、A220は100席から120席クラスの「A220-100」が、E190-Eとかなり近しいキャパシティを持ちながら、ANAとの取引歴のあるエアバス製で、かつMSJ実用化における最大の障壁となった、その飛行機のモデルが一定の安全基準を満たしているかどうかを、国や地域ごとに当局が審査する制度「型式証明」も取得し、実用化もしています。
ANAの担当者に「A220-100ではなくE190-E2を導入するとなった決め手」について質問したところ、「どの機材とコンペしたか、というのはお答えできないですが……」と前置きのうえ、「あくまで一般論ですが」と次のような回答がありました。
「今回の(E190-E2)調達にあたっては、国内線の需要適合・収益性の向上も狙いとしてあります。座席数は近いものがありますが、より機体が軽く、少燃費のモデルを優先的に採用したということになるでしょう。2社の比較ではなく、一般論としてですが」
確かに各航空機メーカーの公式ページより2機の最大離陸重量を比較すると、E190-E2が56.4tなのに対し、A220-100が63.1tとなっています。こうした差が、ANAグループが「取引もなかった企業から新型機を買う」決め手だったのかもしれません。
なお、ANAグループでは、E190-E2の導入機数は確定発注15機、オプション5機の20機で、導入開始は2028年度からを予定しています。

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