名古屋市営バスが運転手の残業時間について、国の基準を守っているように見せかけるため、運行実績を改ざんしていたことが明らかになりました。記者が取材を進めると、背景には国が進める運転手の「働き方改革」があることが分かりました。中には「いつ事故が起きてもおかしくない」と話す運転手も…。過酷な業務の実態に迫ります。
(名古屋市営バスの運転手)「いまの市バスの運行は乗務員の犠牲の上に成り立っている」
名古屋の市バス 勤務改ざんの背景に“働き方改革”?「ギリギリ…の画像はこちら >>
憤りをあらわにするのは名古屋市営バスの運転手です。2月17日、CBCテレビの取材で明らかになったのは、市バスを巡る不正。
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独自に入手した市バスのルートや所要時間などが記録された行政文書には、「ありえない」運行記録が記されていました。
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2024年10月3日。運行に関する文書には、名古屋市千種区で渋滞が発生し、午後4時2分から午後4時33分まで「31分」の遅れが出た、と書かれています。ところが…
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別の書類では、午後4時1分には既に営業所に到着し、アルコールチェックを受けたことになっています。
さらに、2024年10月15日には、梅森荘のバス停から猪高営業所まで6.3キロの道のりを、乗客のいない「回送」で「6分」で走ったと書かれています。
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一瞬も止まらず、時速63キロで走り続けた計算になりますが…実際に同じルートを車で走ってみると、18分かかりました。
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(名古屋市営バスの運転手)「6分で走れるわけがない。ジェット機の乗務員ではないので・・・」
こうした不自然な記録を詳しく調べるため、名古屋市に同じ文書を公開請求すると…2024年10月3日の31分の遅れについては、二重線で削除されています。
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さらに、2024年10月15日に6.3キロを「6分」で走ったとする記録については、3倍以上の19分に改められていました。
一体どちらが正しい数字なのか、名古屋市交通局を取材すると…(名古屋市交通局 村上貴信 課長補佐)「不適切な勤務処理が2件ありました」営業所の担当者が意図的に勤務時間の改ざんを行っていたことを認めました。
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CBCテレビが公開請求した文書は「修正済み」のもので、現在詳しい調査を行っているといいます。(記者)「これは公文書偽造にあたりませんか?」(名古屋市交通局 村上貴信 課長補佐)「公文書偽造にあたるかどうかについて、どのような経緯でこういうことになったのかは、調査してしかるべき対応をします」
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なぜ、勤務時間の改ざんを行っていたのか。(名古屋市交通局 村上貴信 課長補佐)「処理をした助役に聞き取りを行いまして、『9時間のインターバルが取れないので自分の判断でやってしまった』と」
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国は去年4月から、バスやトラックドライバーの労働時間の規制を強化。バス運転手については翌日の出勤まで、9時間の休息を取ることを義務付けました。しかし、渋滞や故障で残業が発生し、次の勤務まで9時間が取れなくなった場合、その日の残業を「なかったこと」にして別の日に付け替え、労働時間を守っているように「見せかけて」いたのです。
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こうした不正が起きてしまった原因について、名古屋市の広沢一郎市長は…(名古屋市 広沢一郎 市長)「余裕を持った配置をしていない。経費の観点から必要なことではあるがそれも一因だった」
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最低限の人数で勤務しているため、遅れが発生した際に、休息時間の基準を超えてしまう事態になったといいます。
実際に市バスでは人手は不足しているのか、運転手に聞いてみると…(名古屋市営バスの運転手)「名古屋市交通局も乗務員は足りないと思うが、民間の会社ほどの乗務員不足ではないのかなと・・・」「民間の会社ほどではない」と話す運転手。そこでCBCテレビは東海地方の路線バス会社にアンケート調査を実施し、このうち9社から回答を得ました。
回答のあった9社中8社が「運転手不足は起きている」という回答でした。
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(東海地方の民間バス運転手)「人手不足でもうみんな疲れ切っている」
実際に民間のバス運転手は、どのような働き方をしているのか。東海地方の会社で10年近く運転手を続ける男性は、心と体をすり減らす毎日だと話します。(東海地方の民間バス運転手)「病院へ行ったり歯医者へ行ったりもできない。仕事が終わったら寝るだけで、起きたら昼なので何もできない」
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「夏だと運転席周りは40度から50度くらいのしゃく熱になって、気を抜いたら交差点で意識が飛ぶのではという経験をした。そんな中でも事故を起こしてはいけない。ミスは絶対に許されない」さらに、心を擦り減らす要因が「カスハラ」です。
(東海地方の民間バス運転手)「お客さまがいつもは1~2分遅れるからという感覚で、バスが定刻に着くと、『置いて行かれた』などと、中には無理矢理扉をたたいて乗ってくるお客さまもいる。営業所に『置いて行かれた』と電話が入り、その後、乗務員が営業所に帰ってくると『なぜお客さんを置いて行った』とめちゃめちゃ怒られる」運転手がこうした働き方を余儀なくされる中で、実際に市民にも大きな影響が出ています。
CBCテレビのアンケート調査では、この地方の路線バス会社9社中6社が、既にダイヤの変更や減便、終バスを早めるなど暮らしに直結する影響が出ていると回答しました。
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名古屋大学大学院で公共交通などを研究している加藤博和教授は、「2024年問題」がさらに運転手不足に拍車をかけたと指摘します。(名古屋大学大学院 加藤博和教授)「労働時間の規制が2024年4月から始まったが、それによって働く人がたくさん必要になるが、入ってこないので余計に厳しくなった」
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それでも、状況を改善するには待遇改善が不可欠だと話します。(名古屋大学大学院 加藤博和教授)「待遇を良くする、給料を上げることが大事だが、自治体が補助金を上げることもやらなければならない」
今回、名古屋市営バスで明らかになった不正は現時点で2024年の1年間で2件。現役の運転手は、こう話します。(名古屋市営バスの運転手)「われわれ乗務員は時にトイレに行くのも我慢して1分遅い、3分遅いとクレームを受けながら走っている。結局内勤者は乗務員がギリギリの精神状態で走っていることを感じていない」
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ギリギリの精神状態だと話すのは、民間のバス運転手も同じです。(東海地方の民間バス運転手)「もう少し会社もドライバーのことを大切に思ってほしい。あとはお客さま一人一人も自覚してほしい。バスだからやりたい放題やっていいものではない」利用客の「命」を運ぶ「バス」。それを支える運転手が「悲鳴」を上げています。
CBCテレビ「チャント!」2025年2月20日放送より