最新ステルス機に“ズドドド機関砲”必要か? しかも「まっすぐ撃てない」!? それでも米空軍がこだわるワケ

アメリカ空軍のステルス戦闘機F-35Aは、内部搭載型の機関砲を搭載しています。ドッグファイトやA-10のような地上攻撃を想定してのことのようですが、技術的な課題も指摘される中、軍の狙いは何でしょうか。
F-35のようなステルス戦闘機の時代になっても、戦闘機パイロットにとっては機関砲を撃ちあうドッグファイト(近接空戦)こそ戦闘機乗りの「華」という矜持があるのかもしれません。しかし、そのF-35Aの固定機関砲が「まっすぐ撃てない」不具合に悩まされています。初期の評価で命中精度に課題があると報告されたのです。
最新ステルス機に“ズドドド機関砲”必要か? しかも「まっすぐ…の画像はこちら >>F-35A「ライトニングII」の編隊飛行(画像:ロッキード・マーティン)。
第5世代ジェット戦闘機とされるF-35多用途戦闘機には、通常離着陸機のA型、垂直/短距離離着陸機のB型、艦上機のC型の3タイプが存在しますが、A型にのみGAU-22/A 25mm機関砲が内部搭載型として装備されています。なおB型やC型では、機関砲は固定武装ではなく脱着できるガンポット式です。
特にガンポッドを使用するB型やC型に比べ、F-35Aの内部搭載型機関砲は振動や衝撃による影響で、機体構造や電子機器にも悪影響を及ぼしているとされます。またシステム統合とソフトウェア、照準システムのバグなどの問題が相次いで発覚しています。
そもそもF-35はヘッドアップディスプレイ(HUD)ではなくヘッドマウントディスプレイシステム(HMD)に情報を表示しますが、テストではこの表示が不安定で照準がうまくいかないと指摘されました。そこで欠陥修正のため、ヘルメットのシンボルを制御するミッションシステムソフトウェアやレーダーソフトウェアを修正したプログラムが、2017(平成29)年にブロック3FR6としてリリースされました。しかし2020年になっても、機体に取付ける際のボアサイト(照準)が適正でなく、必要な精度が出ていないことが問題となっています。
また、ステルス性を確保するため銃口が開閉式と複雑な構造になっていますが、訓練で機関砲を使用し帰還後に点検すると、複数の機体で銃口付近の外装モールドラインコーティングに亀裂が発見されました。
2023年にアメリカ会計検査院(GAO)は、「コーティングに亀裂が発生する問題は過去に納入した機体でも観察され、対策する再設計が行われたが、新しいLot13でも見つかっており、同様の設計だったLot14とLot15の機体にも同じ問題が影響すると予想している」と報告しています。
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GAU-22/A25mm機関砲の仕様。4本の砲身を束ね、発射速度は3300発/分。重さが100kg以上あることに注目(画像:ゼネラルダイナミクス)。
といっても、亀裂が発生しても材料が剥離してエンジンに吸入されるという最悪の事例は確認されず、機関砲使用後の検査と亀裂が見つかった場合にパネル交換することによってリスク管理する、としています。
アメリカ空軍では、機関砲には20mmM61バルカン砲が多く使われており、F-35Aへの25mmGAU-22/Aの採用は初めてになります。アメリカ空軍はF-35Aに固定機関砲を装備する理由について、紛争地域でのローエンドの近接航空支援(CAS)やドッグファイトを想定していることを挙げています。
しかしアメリカ空軍にはCAS専用のA-10攻撃機があります。長年対地攻撃機として使われ、最近もアサド政権崩壊で混乱するシリア内戦で、過激派組織IS(イスラミックステート)の基地を空爆したと伝えられます。A-10は近い将来退役して、F-35AはA-10と交代することになっていますが、A-10は30mmガトリング砲など強力な武装が特徴です。
GAU-22/Aで使用される25mm弾はラインメタル製PGU-48/Bです。これは命中時に弾頭が破砕し、散弾に似た加害範囲を形成する徹甲弾フランジブル(FAP)弾であり、航空機だけでなく地上の装甲目標にも有効です。破壊力は20mm砲弾よりも高いとされていますが、そのぶん価格も高くなっています。20mmPGU-28A/B半徹甲高爆薬焼夷弾が約34ドルなのに対して、PGU-48/B弾は空軍の2025会計年度の最新の予算要求によると1発131ドル。約4倍近い価格になっています。
ではF-35Aの25mm GAU-22/A機関砲は、A-10の30mm機関砲に交代できる程度の威力はあるのでしょうか。25mm弾は従来の20mm弾より破壊力が大きいとはいっても、派手なイメージなど過度な期待はしない方がよさそうです。
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F-35Aの内部搭載機関砲であるGAU-22/A25mm機関砲(画像:ゼネラルダイナミクス)。
そもそもA-10の30mm機関砲装弾数は1174発なのに対して、F-35Aの25mm機関砲の装弾数は180発しかなく、約3秒で撃ち尽くしてしまいます。装弾数を増やせばそれだけ重量も機内容積もかさんでしまう問題があります。実際のF-35AによるCAS任務には、主にスマート爆弾を使うことになっています。
ここまでコストとリスクを負っても、F-35Aに内部搭載型機関砲を搭載する意味は何でしょうか。
空対空ミサイル万能論の下、戦闘機に機関砲は不要と唱えられた時代もありましたが、現代ではバックアップ用として必要だという認識が一般的です。特に最近はドローン迎撃用としてのニーズも高まっているとされています。
しかし、そのトータルのコスパを見た場合、筆者(月刊PANZER編集部)は懐疑的です。
2024年4月にイスラエルのF-15Eが、イランのドローン迎撃で空対空ミサイルを撃ち尽くした後、機関砲を使いましたが、目標を撃墜できませんでした。そもそもF-35Aに内部搭載型機関砲を搭載する仕様は、ドローンが戦場を飛び交うはるか以前から決められていたことです。ドローン対応という名目は後付けに見えます。
アメリカ国防長官府運用試験評価局(DOT&E)は、F-35Aの実際の運用と機関砲システムの改善状況を検証できるデータが揃うのを待っているという立場です。空軍が内部搭載型機関砲に固執している様子もうかがえます。そこにはDOT&Eも踏み入れられない、「戦闘機乗りの華はドッグファイトにあり」というような戦闘機パイロット独特の強い「思い入れ」もあるようです。

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