消えた74式戦車「残るかも!?」 退役した装備品「取っときます」明記の意義 日本は遅すぎた?

2025(令和7)年度の防衛省概算要求の中に、いわゆるモスボールに関する文言が盛り込まれました。モスボールとは、使用しなくなった兵器などを保管しておくこと。対象には最近退役した74式戦車も含まれています。今後の動向に要注目です。
陸上自衛隊の74式戦車が2024年3月、全て退役しました。戦車が実戦を経験せずに退役することは、戦争を起こさせないという最高任務を完遂したということで栄誉なことなのですが、その後は溶鉱炉行きとなります。少数は静態展示という形で残るものの、もう動く74式戦車は見られなくなるのです。寂しいという感傷だけでなく、まだ使える戦車を溶かしてしまうのは勿体ないような気がします。
消えた74式戦車「残るかも!?」 退役した装備品「取っときま…の画像はこちら >>那覇駐屯地に展示されている90式戦車(左)と74式戦車(右)。戦車は退役すると少数は静態展示されることもあるが、ほとんどが溶鉱炉行きになる(画像:那覇駐屯地)。
しかし国有財産、ましてや兵器の管理は厳格であるのは当然で、「お気持ち」だけでは帳簿外の戦車を持ち続けることは行政上も適当ではありません。非武装である自衛隊のトラックやジープでさえ、犯罪や非正規戦に使われる危険性から全数スクラップ化が規定されています。まして武装して装甲を備えた戦車は退役後、溶鉱炉に送り出されるのは止むを得ない運命なのです。
しかし、2025(令和7)年度の防衛省概算要求の中に、この運命を変えるかもしれない新規事業が盛り込まれました。防衛力整備計画の重要分野のひとつである「持続性・強靭性」の中で、「予備装備品の維持」いわゆる「モスボール」の導入について言及されたのです。
防衛省の資料によれば「継戦能力を強化するため、部隊改編等で使用しなくなった装備品のうち、まだ能力発揮し得る装備品について、管理コストを抑制しつつ長期保管を行い、必要に応じ部隊に補充する」とあり、保管設備の設置経費を含めて7億円が要求されています。2025(令和7)年度の対象は74式戦車、90式戦車、多連装ロケットシステム(MLRS)と明記されています。具体的な数は明らかにされていません。
ロシア・ウクライナ戦争ではモスボールの重要性が示されました。戦争では兵器の需要が供給を上回るのが常です。そのギャップを少しでも埋めるのがモスボールです。欧州全体では退役した兵器が多くモスボールされていたことが明らかになりました。
例えばドローン迎撃で脚光を浴びているゲパルト対空戦車は、ドイツ本国では2010(平成22)年に退役していています。すでに退役から12年も経過していますが、ドイツは50両も供与しました。クラウス=マッファイ・ヴェクマン社がずっとモスボールしていたのです。
さらに74式戦車と同じ世代であるレオパルト1は、2003(平成15)年にはドイツ陸軍から退役していました。しかしウクライナ支援で提供されることになり、各国のモスボールからかき集められた結果、中古車価格が暴騰して国際問題にもなりかけています。
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ギリシャのストックヤードに保管されるレオパルト1A5(画像:ギリシャ国防省)。
レオパルト1のような第2世代戦車では、ロシアのT-80など第3世代には抗しようもありませんが、ウクライナ戦争では戦車同士の戦闘はほとんど起こっておらず、歩兵支援などで活用されています。歩兵援護のためなら歩兵戦闘車よりもずっと強力ですし、複雑なデジタル機器満載の第3世代戦車よりも扱いやすく、即戦力になるのです。
両軍とも戦車戦力の消耗は激しく、ほとんど見向きもされていなかった中古の第2世代戦車需要が爆上がりして、今や品薄になるという皮肉です。ロシアでもモスボールされていた第2世代のT-62が引っ張り出され、1950年代に登場したT-55までモスボールされていたのは驚きでさえあります。
行政上の帳簿から除籍されても実物を保管し、こうした有事に活用できるのがモスボールの意義です。保管は民間企業が担っていることも多く、レオパルト1は分かっているだけでドイツのラインメタル社が88両、フレンスブルガー社が99両、ベルギーのOIP社が30両、スイスのルアグ社が96両、合計313両モスボールしていました。
とはいえ企業もボランティアや趣味で古い戦車を保管しているわけではありません。いつ需要が生まれるか分からず、需要が生まれれば市場原理で価格の上昇が期待できますが、デッドストックになるリスクもあり、収益は見込みにくい事業です。それでも防衛に関わる企業として「有事に備える」という責任は認識しているようです。
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ロシアのクビンカ戦車博物館で展示される、イギリスのチーフテンMk5主力戦車(手前)とコンカラー重戦車。モスボールの際は、博物館で保存や展示するという手もある(月刊PANZER編集部撮影)。
2025(令和7)年度の概算要求に盛り込まれた「予備装備品の維持」は着手が遅すぎた感はありますが、モスボールの概念すらなかった日本では大きな前進です。今のところ防衛省の管轄下でモスボールするようですが、募集難で人手不足の折、外国のように民間に委託するのも一策です。メーカーで74式戦車のような古い装備を最小限のメンテで継続することは、収益性はともかく技術伝承や治具などの維持確保の期待ができます。
また、静岡県御殿場市に建設が予定されている(仮称)防衛技術博物館などで動態保存、または展示するという案もあります。稼働状態を維持しつつ募集広報という任務にも活用できます。いずれにせよ今回の要求盛り込みは、74式戦車が消滅してしまう前のギリギリのタイミングでした。溶鉱炉行きの戦車が1台でも減るよう、今後の展開を期待したいところです。

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