「日本最東端の駅」廃止しちゃっていいの? 秘境じゃないのに“超閑散駅” 行って分かった“納得の理由”

2025年3月のダイヤ改正で廃止される東根室駅。利用者数が少ないという理由で廃止されますが、はたしてどんな場所なのでしょうか。実際に行ってみると、思いがけない光景が見られました。
日本最東端の駅は、JR根室本線(花咲線)の終点、根室の1つ手前の駅である東根室です。ただしこれは2025年3月14日まで。翌日のダイヤ改正により、同駅は廃止されます。同じタイミングで、JR北海道管内では東滝川(根室本線)、雄信内(おのっぷない)、南幌延(みなみほろのべ)、抜海(ばっかい。いずれも宗谷本線)も営業終了。いずれも利用者が少ないことが廃止の理由に挙げられています。宗谷本線の各駅は周囲に人家がほとんど見られない場所のようですが、東根室も人里離れた秘境にあるのでしょうか。実際に行ってみました。
「日本最東端の駅」廃止しちゃっていいの? 秘境じゃないのに“…の画像はこちら >>花咲線の車両(水野二千翔撮影)
今回、2025年1月に釧路から根室本線に乗車して東根室へと向かいました。乗車したのは11時15分発の根室行き快速「ノサップ」。旧国鉄による北海道への「置き土産」ともいわれるキハ54系1両編成の車内は、座席が8割ほど埋まっており、乗車率は上々といったところです。
定刻に発車した「ノサップ」は、釧路の市街地を抜けると雪原が広がる中を力走。車内には500馬力を発生するDMF13HSエンジンの唸り声が響き渡りました。駅弁の「かきめし」で有名な厚岸に近づくと、車窓には厚岸湾、さらにその奥に太平洋が出現。根室本線は雪景色と海景色を一緒に楽しめる贅沢な路線です。
そもそもなぜ東根室が最東端になっているのかというと、その線形にカギがあります。東へ向かって線路を伸ばしていた根室本線は根室に至る直前、進行方向を北西、さらに西へとカーブさせており、東根室は北西へ向けてカーブを始める付近にあたります。その結果、日本最東端を走る鉄道である根室本線の「東の端」にある東根室が、日本最東端の駅となったというわけです。
じつはこの「ノサップ」、東根室には停車しません。東根室には根室行きが1日5本、釧路行きが1日6本設定されていますが、唯一「ノサップ」だけが東根室を通過します。そこで、スマートフォンの地図アプリで現在位置を確認し、東根室を車内から観察することに。13時20分過ぎ、車窓の右手に東根室のホームが現れ、あっという間もなく通過していきました。
定刻13時26分に根室に到着。折り返しの列車に乗車して、13時36分、東根室に降り立ちました。
東根室は木の板を敷き詰めて作ったプラットホーム1面だけの簡素な駅。日本国有鉄道が出版した「停車場一覧 昭和47年10月14日現在」によれば、東根室は1961年9月から営業を開始しています。根室本線が根室に到達したのが1921年なので、それから40年後の開業となります。
駅のホームから周囲を見渡すと、人跡未踏の地どころか想像以上に住宅地が広がっています。この一帯は根室市のベッドタウンになっており、駅東南へ徒歩約10分の場所には根室市内で最大規模を誇る市営住宅「光洋団地」があります。
根室市内に2校しかない中学校の1つ「光洋中学校」も徒歩約4分の場所にあり、夕方には中学生が東根室の線路下に設けられたトンネルを通って、駅西側に広がる住宅地へと下校する姿も見られました。また、東根室から徒歩約20分のところには市内唯一の根室高校もあります。このように、東根室周辺は生活感があふれる根室の住宅地となっているのです。
市内の別の場所にあった根室高校は1959年に現在地へ移転しました。また、光洋団地は1962年から1977年にかけて計161棟624戸が建設されました。時系列を整理すると、
・1959年 根室高校が移転・1961年 東根室駅が開業・1962~1977年 光洋団地が建設
となります。つまり、東根室は根室高校への最寄り駅として開設され、新設されたニュータウンの入口としても期待された側面があったと考えられるのです。
しかし、運行本数が限定されていれば利用されません。東根室駅の開業から3年後、東海道新幹線が開業した1964年の「国鉄監修 交通公社の時刻表10月号(復刻版)」で確認したところ、当時の東根室に発着する列車は根室行きが8時3分と17時48分の2本、釧路行きが6時3分、8時17分、16時29分の3本だけ。現在よりも乗車できる列車は少なく、当時から使いにくい駅だったようです。
とはいえ駅がなくなれば、東根室周辺に住む人々にとっては公共交通の利便性を享受できない状態になってしまいます。代替の交通手段は確保されているのでしょうか。
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光洋中学校前停留所に差し掛かる公住循環線のバス。道路はきれいに除雪されている(水野二千翔撮影)
東根室駅のホームを降り、駅前の坂道を登りきると「光洋町通り」に突き当たります。片側1車線のきれいに舗装された道路で、自動車の通行も絶えません。左に視線を転じれば、そこに地元のバス会社・根室交通が運行する公住循環線の「光洋中学校前停留所」が設置されています。
同線は東根室駅から500mほど離れた公住入口停留所を起終点に、根室駅に併設された駅前ターミナルや市立病院、市役所といった根室市の中心地へ向かう循環路線。光洋中学校前停留所では1時間に2回乗車チャンスがあり、駅前ターミナルへ最短20分で行くことができます。2、3時間に1本しかない列車よりも利便性は抜群に高いと言えます。
光洋中学校前停留所を14時3分に発車するバスに乗車しました。同便は駅前ターミナル方面とは逆の、終点である公住入口停留所へ向かいます。ものの数分で車窓には光洋団地が現れました。
同団地は前述の通り1960年代から建設が進められたため老朽化が激しく、2004年度から建て替えが行われました。新装された団地を囲むように光洋町4丁目、公住南、公住東、公住北の各停留所が設置されており、利便性が確保されていることがわかります。同団地をぐるりとひと回りして終点の公住入口停留所に着きました。
引き続き駅前ターミナル方面へ行きたいと運転手に告げると、循環路線ゆえ、そのまま乗車していてOKとのこと。再び発車し、駅前ターミナルには約20分後、さらに乗り続けて最初に乗車した光洋中学校前停留所には約40分後に戻ってきました。
その間、公住入口停留所や駅前ターミナル、市内最大の商業施設であるイオン根室店最寄りの弥栄町1丁目停留所などで乗り降りが見受けられ、公住循環線が日常の足として利用されていることがわかりました。
実際、同線の利用人員は2022年度に年間約11万人(令和5年〈2023年〉根室市統計書)と、根室交通で最も利用者数が多い路線。本来なら東根室を利用できる人の代替交通手段としての役割をすでに担っていると考えられます。
東根室周辺の代替交通機関はバスだけではありません。根室市では2024年7月1日から2025年3月31日まで「AIオンデマンド交通実証試験運行」が実施されています。
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根室市内で運行されているmobi。ワンボックスカーが使用されている(水野二千翔撮影)
これは利用希望者の依頼に応じて配車される「デマンド型乗合タクシー(AIオンデマンド交通)」で、市内の根室ハイヤー、中央ハイヤーが運行。最大の特徴はスマートフォンアプリ上に仮想で設けられている停留所から目的地最寄りの仮想停留所までのルートを、AIにより自動的に生成する点です。アプリは高速バス大手「WILLER EXPRESS」を傘下に持つWILLERと携帯電話のauブランドを手掛けるKDDIの合弁会社・Community Mobilityが開発する「mobi」を使用しています。
「mobi」の運行範囲は根室駅を中心に、概ね半径3km圏内をカバー。停留所は215か所もあり、公共施設はもちろん、スーパーマーケットやドラッグストアといった商業施設のそばなどにもこまめに停留所が設定されています。また、根室だけでなく、東根室の駅前にも停留所が設定されています。運賃はどれだけ乗っても300円と手頃な料金で乗車できるのもうれしいポイントです。
じつは根室市内における「mobi」の実証運行は2023年度に引き続き2年目。同年10月2日から11月30日まで行われた最初の実証運行では、589人が利用し、1日平均の利用者数は10月が9.8人、11月が14.3人だったと報告されています(令和5年度根室市AIオンデマンド交通実証試験運行実績報告書)。
今回、「mobi」にも試乗してみました。JR根室駅停留所からJR東根室駅停留所まで乗車すると設定して15時46分にアプリで予約すると、16時にワンボックスカーが配車されてきました。アプリ上では走行ルートと16時9分にJR東根室駅停留所に到着するとの表示が。発車してしばらくすると、追加予約の乗客をピックアップするため、JR東根室駅へ遠回りするルートに変更され、到着時間も16時13分に更新されました。受け付けた予約をAIがリアルタイムで処理し、効率的な運行を実現しているのだと実感できた瞬間です。
やがて「mobi」はJR東根室駅停留所に到着。時刻も予定ピッタリでした。実証運行中の「mobi」が2025年度以降に運行されるか未定ですが、自分の都合に合わせて呼び出して乗車でき到着時間も見通しが立つ点は、一度使うのに慣れると手放すには惜しい快適さです。実証運行終了後の検証を経て、導入が検討されることでしょう。
このように、東根室駅が廃止されたとしても、代替交通機関は整えられており、その影響は限定的といえるでしょう。なお、北海道釧路総合振興局管内及び北海道根室振興局管内における自動車保有台数は1世帯あたり1.95台。各世帯に1台以上はマイカーがあることも付け加えておきます(北海道釧路・根室地域公共交通計画〈令和6年(2024年)7月改正〉)。
東根室駅は2019~23年における平均の1日利用者数が7.8人にとどまります。筆者は1日に5、6本が発着するなら決して少ない本数とはいえないと考えますが、乗車できる列車が限られ、普段使いが難しいとなれば存廃が取り沙汰されるのも無理はありません。
実際、取材時には“お別れ訪問”のファンを何人も見かけましたが、一般の利用客は見当たりませんでした。情緒だけで駅を残すのは残念ながら難しいのです。根室を名実ともに「日本の最東端の駅」として観光拠点に整備するほうが合理的といえるでしょう。

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