「あんこのふるさと」興津の絶品たいやき…東海道五十三次・静岡の宿場新名物

東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画(随時掲載)の今回は、県内7番目の「興津宿」。「あんこのふるさと」ともいわれる地で、あんをお腹に詰め込むだけでなく、その歴史を頭に詰め込んだ。
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1961年創業、興津で長年愛されている「伏見たいやき店」を訪れた。香ばしい匂いが漂う。3代目の伏見まゆみさん(60)が接客し、4代目のさくらさん(38)が型に生地を流し込み、焼き上げる。開店から次々に訪れるお客さんの多さから、1個160円のたい焼きへの期待が高まった。
たい焼きはひとまず置いといて、興津宿は「日本製あん業発祥の地」の地として「あんこのふるさと」と呼ばれている。この地域は東海道五十三次の由比宿と興津宿の間に、今もある富士山の眺望スポット「薩峠(さったとうげ)」が有名。静岡市役所の観光政策課担当者によると「薩峠など難所があることから、旅人たちは峠越えなどで力をつけるためにあんこを食べていた。そのこともあり、地域で昔からあんこがよく食べられていた」という。昔から、あんこと親密な関係にあったことが分かった。
「あんこのふるさと」と呼ばれるようになったのには、明治時代に興津で生まれた北川勇作の存在が大きい。1900年(明治33年)、大阪で製あん所を創業すると、あんを作るための皮むき機、煮炊き釜、豆皮分離器を発明。大量生産できる技術を進歩させた。同郷で同じく大阪に製あん所を創業した内藤幾太郎と一緒に、製あん業の礎を築いた。故郷・興津の八幡神社には、2人の功績をたたえた石碑「製あん発祥の碑」が建立されている。
時代が変わった今も、興津には「和スイーツ」の店が多くある。話はたい焼きに戻り、「伏見たいやき店」の魅力も「あん」にある。まゆみさんは「手作りでフレッシュなあんを使っているのがおいしさの一つ」と明かした。創業当時から明治時代に発明された機械に頼らない、伝統的な手法で作っている。1日目は小豆を水につけ、2日目は大釜で煮詰める。かきまぜる尺に伝わるあんの固さは、機械式では感じ取れない「職人技」の見せどころと、まゆみさんは胸を張った。そして3日目には、たい焼きの中身として提供される。
記者も1つ頂いた。創業当時から甘さ控えめ。塩味が甘さを引き出すあん(つぶあん)と小麦粉と水飴のシンプル材料ながら、パリパリの皮も相まって絶妙なバランスだ。週に3回通うお客さんがいるのも納得の味。まゆみさんは「製あん発祥の地がきっかけでもお客さんが来てくれるのはうれしいし、昔ながらの製法のあんを楽しんでほしい」と呼びかけた。
(伊藤 明日香)
◆興津宿 東海道17番目の宿場。かつては富士山と三保の松原を臨む景勝地として知られた「清見潟(きよみがた)」という海辺があった。その景色は「万葉集」など多くの和歌に詠まれてきた。1962年から70年にかけて清水港整備の一環として埋め立てられ、コンクリートの埠頭(ふとう)が完成した。
◆伏見たいやき店 営業時間は正午から午後5時。不定休で8月は休業、9月下旬から営業予定。住所は静岡市清水区興津中町1903。JR東海道本線・興津駅から徒歩約8分。

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