2月19日、2022年に選挙に立候補していた長井秀和氏(現・東京都西東京市議会議員)が街頭演説で行った発言は名誉毀損にあたるとして、創価学会が長井氏に対し1100万円の損害賠償を請求した訴訟の判決で、長井氏に22万円の賠償が命じられた(東京地裁)。
「リレー演説」内の発言が訴えられる芸人としてテレビなどでも活躍していた長井氏は、2022年12月に実施された西東京市議会議員選挙に立候補。トップ当選を果たし、現在に至るまで市議会議員として活動している。また、家族が創価学会に関与していた「宗教2世」の立場から、創価学会やその他の宗教団体を批判する活動を行ってきた。
本訴訟は、宗教法人・創価学会が、選挙中の街頭演説で長井氏が行った発言は同会に対する名誉毀損にあたるとして提訴したもの。
2022年12月19日、西武新宿線田無駅北口広場にて、複数のゲストスピーカーと長井氏による「リレー演説」が行われる。ゲストスピーカーのうち一名は、1995年に朝木明代氏・東村山市議会議員が東村山市内で転落死した事件に創価学会が関連していたとの疑惑を語った。
また、別のゲストスピーカーは、長井氏の実父かつ創価学会の幹部で武蔵村山市議会議員もつとめていた長井孝雄氏(故人)が公金を飲食に不正利用していた、と糾弾した。
リレー演説の最後を担当した長井氏は、ゲストスピーカーらの演説を受けて「武蔵村山市の闇」「東村山市の闇」などと発言。また「東村山の朝木さんがね、謎の転落をした。これはもう他殺ですよ」とも発言し、朝木氏の司法解剖の鑑別書や当時の捜査には不自然な点があると指摘した後、以下のように発言した。
「こういうようなことをですね、平気で行ってきたのが創価学会でございます。私は、これに関しては議員となったらですね、議会の議事録にも載せていきますからね」
原告側は、長井氏の発言は「創価学会が殺害事件を起こした」と述べていると主張。一方、被告側は、長井氏の発言はゲストスピーカーの発言内容を補足説明するためのものであって「創価学会が殺害事件を起こした」という事実を適示するものではなく、違法性はない、と主張していた。
発言は「他殺」を指すか否かが争点に訴訟では、長井氏の発言内の「こういうようなこと」とは「朝木氏が他殺された」という意味であるのか否かが、争点となった。
被告側は、長井氏が「他殺」と発言してから「こういうようなこと」と発言するまでの間に捜査機関への疑問を呈している点、また直前にゲストスピーカーらが創価学会と行政との癒着(ゆちゃく)を問題視する内容の演説を行った後の発言であることを指摘し、「こういうようなこと」とは捜査機関を含む行政と創価学会との癒着を指摘しているにすぎない、と主張。
しかし、裁判所は、発言を聴いていた一般聴衆の「普通の注意と聴き方」を想定すると、「こういうようなこと」は「朝木氏が他殺された」と指しているように聴こえるはずだとして、原告側の主張を認める。また、長時間にわたるリレー演説の全体を最初から最後まで聞く聴衆は少ないことを指摘し、「ゲストスピーカーの演説と合わせて聞けば『行政と創価学会との癒着』を指摘していると理解できるはずだ」とする被告の主張を退けた。
また、長井氏の発言によって創価学会の社会的評価が低下したとも認定。ただし、朝木氏の転落死事件は週刊誌や書籍などにおいて何度も取り上げられてきたことなどから「原告が朝木氏の他殺に関した疑いがあるという見解が存在すること自体は、ある程度公になっていたもの」とも認定。そもそも演説を聴いていた人は田無駅の利用者や通行人など少数にとどまるとも指摘し、損害額は「20万円が相当である」と判断した(実際の損害賠償額は弁護士費用を足した22万円)。
被告側は「スラップ訴訟」と批判判決後に行われた記者会見で、原告代理人の大山勇一弁護士は「残念ながら不当な判決」と、遺憾の意を示した。また、1100万円の請求額に比して実際に認められた賠償額が22万円であった点に関して、そもそもの請求額が高額に過ぎると指摘し、政治的な言論の弾圧を目的としたスラップ訴訟であると批判した。
笹山尚人弁護士も「選挙期間中の演説は、通常の言論よりも保護される必要性が高い」と指摘しつつ「名誉毀損訴訟としても非常に少ない損害額が認定されたことは、ある意味、この訴訟の本質を表している」と語った。
朝木明代氏の娘であり東村山市議会議員をつとめる朝木直子氏は、同じ議員の立場から「選挙演説とは時間に追われ、原稿もない状況で行うもの」と長井氏を擁護し、「断片的な発言をつかまえて訴えること自体にスラップ(訴訟)性を感じる」と所感を述べた。
長井氏は「私はもともと宗教2世で、当事者でもある」と語る。
「これまでにも創価学会や公明党を糾弾してきた。政治的な言論行為であるが、訴訟はこれを封じ込めようとするものだ。
判決の内容は、社会的な強者の立場に立ったもの。不当であると思う。
今回の判決によって、多くの被害を受けている宗教2世の方々の声がつぶされないか、抑えつけられないか、という点に不安を抱いている」(長井氏)
被告側は、控訴を検討する予定とのこと。