[社説]政府備蓄米放出 価格と供給の安定図れ

かつてないコメ価格の高騰が続いている。国民生活への影響は大きく価格の安定化は急務だ。同時に、なぜこうした事態に陥ったのか。再びコメ市場の混乱を起こさないよう検証と対策も求められる。
政府が備蓄米を最大21万トン放出すると発表した。
これまで備蓄米の放出は凶作や災害時などに限っていた。価格高騰への対処を目的としたのは初めてだ。
本来、市場への介入は好ましいことではない。ただ2024年産の生産量は前年に比べ増えたのに対し品薄状態は解消されていない。
値上がりを期待した一部の出荷業者や農家がストックしていることが要因とみられている。価格も右肩上がりの状況では応急処置はやむを得まい。
3月半ばからまず15万トンが放出される。以降は流通状況を調査して追加の数量や時期を判断するという。
店頭に並ぶのは3月下旬から4月上旬。ただし、これで落ち着くのかは見通せない。市場の動向を見守るなど放出効果についての検証も必要だろう。
各地で突如米が店頭から消えたのは昨夏のことだ。卸売店や飲食店からも「米が買えない」との悲鳴が上がり「令和の米騒動」と言われた。
前年からの酷暑で収量が減ったほか、一時的に購入量が増えたことが供給不足の背景にあるという。
農水省は新米が出回れば安定すると様子見していたが、流通が一定程度回復した今も価格は高止まりしている。備蓄米放出の遅れがさらなる価格上昇を許した面は否定できない。
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一方、県内で「コメ不足」は発生しなかった。
お中元に米を贈る習慣があり卸売店が早めに確保していたことや、例年6月には早場米が出荷されることも有利に働いた。
しかし、価格は他県同様に高止まり傾向だ。玄米1俵の直近価格が昨秋の2倍近くになった品種もある。
県内の消費者物価指数は直近の12月に前年同月比で4・5%上昇。中でもコメを含む食料品は同7・6%上昇している。県内業者は「コメ離れが加速しかねない」と警戒を強める。
農家をはじめ流通・小売業界がコストを吸収し一定の利益を得るための価格転嫁は必要だ。
だが、あまりに急激な上昇は暮らしを圧迫しかねない。主食でもあるコメは、より安定的に推移することが望ましい。
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農水省は放出と同時に、在庫量の正確な把握を目的に調査対象を農家や小規模卸売業者などにも広げる方針だ。価格の高騰を当て込んだ投機的な「買い占め」への対策は必須だろう。
生産量を抑制するコメ政策からの転換も検討すべきだ。海外での日本食ブームで輸出量は増加傾向にある。
1993年には冷夏による「平成の米騒動」も起きた。
食料安全保障の観点からも、供給不安が繰り返される事態は避けなければならない。

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