誰が作った?「へんてこゼロ戦」映画やエアショーで大活躍! じつは自衛隊との数奇な縁も

日米戦を描いた戦争映画『トラ・トラ・トラ!』には、日本の零戦役として数多くの「実物の飛行機」が登場しています。これらは、傑作練習機T-6「テキサン」を改造して用意されましたが、中には日本の自衛隊から返還された機体も含まれていたそうです。
1970年秋、20世紀フォックスが制作した戦争映画『トラ・トラ・トラ!』が封切られました。それまでのハリウッド製戦争映画で太平洋戦争を描いた作品では、中国人だか日本人だかわからない謎のアジア系軍人と、ノースアメリカンT-6「テキサン」練習機やグラマンF6F「ヘルキャット」戦闘機に日の丸(赤丸)を描いただけの「アメリカ製日本機」が、やられ役として大暴れしていました。
誰が作った?「へんてこゼロ戦」映画やエアショーで大活躍! じ…の画像はこちら >>アリゾナ州にあるルーク空軍基地で開催されたエアショーで白煙を引きながら飛行する「テキサン・ゼロ」(画像:アメリカ空軍)。
しかし、『トラ・トラ・トラ!』では日本軍側もアメリカ軍側と同じく公平に描かれ、ステレオタイプの悪役にはされていません。そして従来の日米戦映画と決定的に異なっていたのが、スクリーン上を「零戦(零式艦上戦闘機)の編隊」が縦横無尽に飛び回っていたこと。当時はまだインターネットなどなかったので、早くからこの「謎解き」がわかっていたのは、映画関係者や洋書の航空雑誌を購入していた一部マニアたちだけでした。
いったい、20世紀フォックスはどのようにして多数の零戦を揃えたのでしょうか。CGなどない時代、ミニチュアではなくリアルスケールの零戦が編隊を組めたワケ、その答えは実在するプロペラ機を零戦そっくりに「整形」し、複数揃えたのです。
ベースに使われたのはアメリカ軍で多数運用されたT-6「テキサン」。同機は1935年の初飛行以来、約1万5000機も生産された傑作練習機です。先に述べた従来のハリウッド製戦争映画と差をつける「こだわり」の一環で、「零戦もどき」をわざわざ用意しました。
改造のポイントは、外観優先でできるだけ零戦っぽく仕上げること。そのため、「テキサン」本来のタンデム複座のキャノピーは、零戦に酷似したフレームを用いた単座用キャノピーに変更されています。
垂直尾翼の形状も、飛行性能に影響をおよぼさない範囲で零戦のように整形。特に胴体尾端の尖った飛び出しは、方向舵の下部に細工を施すことで再現しています。また零戦21型などの、エンジン後方や操縦席の前に見られる縦状の細いスリットも、寸法や形状はやや異なるものの、それっぽく設けられています。
とはいえ、直上や直下などから見た平面形は零戦とはだいぶ異なっています。なぜなら主翼と水平尾翼の形状が違うからです。しかし、これらまで変更しようとすると、飛行特性や機体バランスが変わってしまい、飛行機としての根本的な飛行安定性すら損なってしまうため、さすがに手を付けられなかったそうです。
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静岡県にある航空自衛隊浜松広報館エアーパークに展示されているT-6「テキサン」練習機(柘植優介撮影)。
ちなみに、零戦に改造されたT-6「テキサン」には興味深い背景があります。実は航空自衛隊が運用していたT-6と、海上自衛隊が運用していたSNJ(テキサンの海軍呼称)が用廃とされて書類上でアメリカに返却され、それが20世紀フォックスに払い下げられたとか。つまり本物の日の丸を描いて、日本の空を飛んでいた機体が零戦に「変身」し、再び日の丸を描かれて空を舞ったというわけです。
なお、このとき払い下げられたテキサンの一部は、ヴァルティーBT-13「ヴァリアント」練習機と「ニコイチ」にされて、九七式艦上攻撃機へと“化けて”います。
こうして、それまでの塗装だけで日本機に化けていた各種プロペラ機とは異なり、本格的に零戦らしく改造されたT-6は、「テキサン・ゼロ」の愛称で呼ばれ、あえて区別されるまでに至っています。
しかも、『トラ・トラ・トラ!』で銀幕デビューを飾ったあとも、その外観ゆえにほかの映画などにたびたび出演しており、代表的なところでは1976年の『ミッドウェイ』、1980年の『ファイナルカウント・ダウン』、1987年の『太陽の帝国』などでその雄姿を見せつけています。
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アメリカ海軍が用いた艦上練習機仕様のSNJ。T-6の米海軍向けのなかには尾部に着艦フックを備えたタイプも存在した(画像:アメリカ海軍)。
その後も、1992年の『エイセス/大空の誓い』ではアクション俳優の故・千葉真一(サニー千葉)が演じる日本人パイロット「堀越」の愛機として登場。また2001年の『パールハーバー』では、飛行可能な実物の零戦と「共演」まで果たしています。
もちろんそれだけでなく、アメリカ各地で開催されるエアショーにも零戦役として、たびたび「出撃」。P-51「マスタング」やF4U「コルセア」といったアメリカ製の傑作戦闘機と模擬空戦を行っています。
すでに誕生から60年近く経つ「テキサン・ゼロ」ですが、いまでも日の丸を輝かせながら元気に飛んでいます。これなどはベストセラー機がベースのため、補修部品が潤沢にあり、比較的安価に維持整備が可能というメリットの恩恵といえます。本物の零戦ではこうはいきません。
これからも、「本家」の代わりに空を駆け抜け、私たちを魅了してくれることでしょう。

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