東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画(随時掲載)の今回は、県内22か所ある中で15番目の「日坂(にっさか)宿」。遠州七不思議「夜泣き石」伝説にちなんだ「子育飴」が名物。現在、掛川市で取扱店として確認されているのは300年以上続く扇屋と小泉屋の2店舗のみ。扇屋の存続危機を知った。
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中山峠は箱根峠、鈴鹿峠に並ぶ「東海道三大難所」とも言われる。急坂を登り、平坦な道沿いの久延寺近くに扇屋がある。店主の鈴木稔さん(72)に出迎えられ、「子育飴」を頂いた。もち米、大麦のみの昔ながらの製法で作られた茶色い水飴を棒付き(100円)で口にした。「小泉屋」のものと食べ比べするのも楽しい。大根飴、甘露煮、料理に照りをつけるなど様々な用途にも魅力を感じた。
「夜泣き石」にちなんだ名物。中山峠を越えていた妊婦が、山賊に襲われ亡くなった。その際に子が生まれ、母は石に乗り移り泣き声を上げ、存在を知らせた。拾われた子は水飴を与えられて成長し、敵を討ったという伝説だ。
扇屋は、江戸時代だった300年以上前から当地で店を構えた。鈴木さんは「旧東海道沿いで昔から続く甘味処は箱根の甘酒屋とここだけ。来る人からの『ひと息つける』という声を力にしてやってきた」とやりがいを口にした。2002年に前店主が亡くなり、茶屋は市に寄付された。03年、幼少期から店を知る鈴木さんが市から委託を受け再開。茶農家の傍ら土日祝日に営業してきた。
掛川市観光・シティプロモーション課の戸塚和美さん(63)によると、建物の老朽化など安全面から廃止を検討。来年以降、協議するという。「歴史的な文献で昔から茶屋があったことが確認されている。多くの観光客も訪れ、地域にとっても歴史的価値がある場所。(取り壊し後に)今の場所に代わる休憩施設や地域活性化につながるスポットにしたい」と説明した。鈴木さんは「今後は分からないが、続けられる限りは続けたい」と話した。長い歴史が途絶えようとしている話を聞き、複雑な気持ちに駆られた。
(伊藤 明日香)
◆日坂宿 東海道25番目の宿場町。幕府直轄の代官支配地。宿場としては由比、三重の坂下に続く3番目の小ささ。「夜泣き石」という大きな丸い石が名物。各地方にもあるが、掛川には小泉屋と、伝説ゆかりの久延寺境内にも似た形の石がまつられている。
◆扇屋 住所は掛川市佐夜鹿299。営業日は土日、祝日。掛川駅から車で約25分。