ついに建造契約が締結された「イージス・システム搭載艦」は、もともと配備計画がキャンセルされた「イージス・アショア」の代替策として誕生しました。しかし、現在では超高性能な多目的水上戦闘艦として、新たな道を歩み始めています。
2024年度から建造が開始される海上自衛隊の新型艦艇「イージス・システム搭載艦」。9月には2隻の建造契約が締結され、1隻目は三菱重工、2隻目はジャパン・マリンユナイテッドに決まっています 。その能力の詳細も、次第に明らかになってきました。
海自「空前の水上戦闘艦」のスゴさが見えてきた “世界最強のフ…の画像はこちら >>イージス・システム搭載艦の完成予想図(画像:防衛省)。
イージス・システム搭載艦は、もともと日本に飛来する弾道ミサイルを迎撃するための専用艦艇として整備計画がスタートしました。これは、2020年に突如発表された地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備中止を受けて、その代替策として同艦の建造が決定されたためです。
イージス・アショアは、北朝鮮による弾道ミサイル発射を警戒して海上自衛隊のイージス艦が常時日本海に展開しているという状況を是正すべく、配備が計画されました。その任務は北朝鮮が突如発射する弾道ミサイルへの対処であり、求められる能力は弾道ミサイル防衛(BMD)に限定されていました。
従って、その代替策であるイージス・システム搭載艦も、当初はBMD専用艦となることが予定されていたのですが、計画が進展するうちに、その姿を変えていきます。弾道ミサイルを迎撃する能力以外にも、巡航ミサイルや潜水艦への対処能力、さらに遠方に位置する敵の艦艇や地上目標を攻撃する能力などが付与されていきました。
その結果、イージス・システム搭載艦はこれまで海上自衛隊が運用してきた「イージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)」と同様の役割を、より優れた性能のシステムを搭載して実施する艦艇へと変貌を遂げています。
現在のところ、イージス・システム搭載艦は、基準排水量1万2000トン、全長190m、最大幅25m、ミサイルを搭載する垂直発射装置(VLS)は128セルと計画されています。現在、海上自衛隊で最大のイージス艦であるまや型(基準排水量8200トン、全長170m、最大幅21m、VLS 96セル)と比較すると、その巨大さが分かります。
そんなイージス・システム搭載艦には、さまざまな最新鋭装備が搭載される予定です。
たとえば電子戦装置については、アメリカ海軍でも配備が進んでいる新型の「SEWIP(Suface Electronic Warfare Improvment Program、水上艦電子戦装置改良計画)ブロック2」、AN/SLQ-32(V)6が搭載されます。これは、接近するミサイルなどが発する電波を探知し、それを識別したうえで脅威評価などを行う最新のシステムで、アメリカ以外の国の艦艇がこれを装備するのは初めてとなります。
そして、なにより注目なのが搭載レーダーの「SPY-7(V)1」です。SPY-7は、もともとイージス・アショア用に購入された最新鋭のSバンドレーダーで、開発および製造はアメリカの大手防衛関連企業であるロッキード・マーチン社が行っています。
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SPY-7のベースとなっているLMSSR(ロッキード・マーチン ソリッドステートレーダー)の画像(画像:ロッキード・マーチン)。
SPY-7は、「サブアレイ・スイート」と呼ばれる小さなレーダー装置を組み合わせることで、一つの大きなレーダーを構成します。そのため、搭載する艦艇のサイズや運用者のニーズに合わせて、そのサイズを自在に変更できます。
また、レーダーを稼働中でも、背面からサブアレイ・スイートを交換することで故障に対応する「ホットスワップ」が可能であるなど、メンテナンス面でも優れた特徴を有しています。
さらに、現在イージス艦に搭載されているSPY-1Dレーダーと比較して、探知距離は3.3倍向上しているとのこと。SPY-1Dの探知距離は約500km程度とされているため、SPY-7は約1600km先の目標を探知できることになります。
加えて、SPY-7では水平方向に送信される水平偏波と、垂直方向に送信される垂直偏波を同時に送受信する「二重偏波レーダー技術」を用いており、探知した目標の形状を正確に捉えることができます。これにより、弾道ミサイルの囮(おとり)弾頭と真弾頭を見極めることも可能です。
これらの先進的な装備を有するイージス・システム搭載艦は、まさに「世界最強の水上艦艇」の1隻といっても過言ではないでしょう。