首相の真意はどこにあるのか。これまでの発言や前政権の政策をなぞった内容が目立ち、新味に欠ける。石破内閣の方針はなお不透明だ。
石破茂首相が所信表明演説を行った。
前半に三つの重要政策課題を列挙。第一に外交・安全保障政策を掲げ、その中で「辺野古移設が唯一の解決策」など従来と変わらぬ姿勢を示した。
一方、10月の就任後初めて行った所信表明で沖縄戦や戦後の米軍統治下に触れ、沖縄への共感を表明した文言はなくなった。
代わりに表明したのが「在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進めるとともに、駐留に伴う諸課題の解決に取り組む」との方針である。
石破氏は総裁選で、基地負担軽減の観点から日本側が米軍基地の管理権を持つ必要性に言及していた。
日米地位協定3条は米軍の排他的管理権を認めている。米軍の許可がなければ国も県も基地内に入ることはできない。それが見直されるのであれば国内法の適用など大きな変化につながる可能性がある。
しかし、石破氏は就任後、地位協定改定について全く触れていない。
台湾有事を念頭に日米の軍事一体化は進み、訓練などでの一時的な共同使用はすでに実施されている。それを広げれば、自衛隊基地を米軍が使うことも含め日米の基地の機能強化や訓練の激化につながり、沖縄にとっては大幅な負担増になる。
首相には管理権など具体的な説明を求めたい。
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焦点の政治改革については、衆院選での敗北は国民からの「叱(しっ)責(せき)であった」と総括した。
しかし、改革の中身として明確にしたのは政策活動費の廃止や第三者機関の設置だけだ。企業・団体献金の取り扱いについては言及せず、政治資金規正法の再改定は「年内に結論を示す必要がある」との表現にとどまった。
企業・団体献金を巡っては立憲民主党など野党4党が全面禁止を主張している。与野党の合意形成の努力を惜しんではならない。
石破氏は所信表明の冒頭と結びで1957年当時の石橋湛山首相の国会演説を引用。「民主主義のあるべき姿とは各党派が真(しん)摯(し)に政策を協議し、より良い成案を得ること」と述べた。
安倍晋三政権以降続いた「1強政治」からの決別宣言と受け止めたい。
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2024年度補正予算案は与党と国民民主党が事前の協議で合意したものの、規模ありきで緊急性の乏しい内容も目立つ。
立民は減額修正を求める構えも示しており、誠実に向き合うべきだ。
「103万円の壁」引き上げについても異論が出ている。地方財政に関わることでもあり中途半端な議論で終わらせてはならない。
石破氏は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図る」と表明した。今国会での有言実行が求められる。