失職後に出馬した先の兵庫県知事選挙で返り咲くも、公職選挙法違反疑惑に揺れている斎藤元彦知事(47)。兵庫県西宮市にあるPR会社「株式会社merchu(メルチュ)」の折田楓代表取締役(33)が、ブログサイト「note」に公開した選挙戦の広報・SNS戦略が問題視されていたが、斎藤知事サイドの主張と食い違いを見せている。
騒動が収束しないなか、“新たな疑惑”も浮上しているようだ。
さかのぼること9月19日、内部告発文書問題をめぐって兵庫県議会で不信任決議が可決された斎藤知事。同月26日の記者会見で出直し知事選に臨む考えを正式表明したいっぽう、SNSではこの頃から斎藤知事について支持者を中心に「公約実現率98.8%」との情報が広がっていた。
しかし実際には、事実誤認だったようだ。再選後初となる11月27日の定例記者会見では、この真偽を問う質問も飛び出した。
記者から「3年間の公約達成率98%は事実でしょうか?」と問われると、斎藤知事は「公約達成・着手率が98%余だったということですね」と回答。着手率と達成率が分けられてないことについては、こう説明していた。
「公約というものは完全に達成したこともあれば、やはり一歩進むということが大事だと思いますので。公約の着手、それから達成率トータルで見ていくということが大事だという風に思ってます。たしか企画部の方から就任の節目にあたって、そういった数字が報告されて、それを記者会見で述べさせていただいたという風に記憶してます」
すると記者が兵庫県庁の企画部に改めて確認したとし、「公約達成率と言ってしまうと98%は事実ではなく、27.7%。173項目中、48項目の公約が達成されたものという風な回答がありました。そうしますと、SNSで出ていた『公約達成率98%』というのは、今の斎藤さんのお話と合わせても、不正確な情報であるということでしょうか?」と指摘した。
これに対して斎藤知事は、「正確には公約の達成、そして着手率が98%ということだと思いますけど。大事なのはやはり公約について、一歩でも進めていくということが大事だと思いますので、そのあたりはご理解いただきたいと思ってますね」と語るにとどまった。
■斎藤知事は一貫して「達成・着手率」と説明してきた
そもそも「98%」という数字が持ち出されたのは、1期目のことだった。斎藤知事は7月30日の定例記者会見で、在任中の課題を問われこう語っていた。
「選挙時に掲げさせていただいた公約が、全体で173項目ございます。そのうち一定達成、着手した状況は171項目。パーセンテージにしますと、98.8%という形になります。多くの公約や掲げたことは達成なり着手してきて、ひとつずつ公約は進捗、進んでいると考えています」
会見での発言を振り返る限り、斎藤知事は一貫して「達成・着手率」と説明している。先の兵庫県知事選挙でも公式サイトの政策に、「県政改革としての実績」として《既得権益やしがらみから脱し、県民本位の県政へ! 173項目中171項目は公約達成もしくは公約の趣旨に沿った事業に取り組み中(令和3年8月~令和6年9月)》と記載。図表では「達成・着手率」として、「98.8%」の数字を提示していた。
つまりSNSでは「着手」の部分が抜けてしまい、「達成」だけが一人歩きしてしまったようだ。だが斎藤知事の説明をわかりにくいと感じた人もいたようで、Xでは《達成率でも進捗率でもなくて「着手率」ってなんなん》《え、そうなんだ。騙されてたなあ》との声も上がっていた。
そこで本誌は11月29日、兵庫県庁企画部を取材し詳しい話を聞いた(以下、カッコ内は担当者)。
まず今回の選挙戦で、斎藤知事が挙げていた「173項目」の公約数について。’21年7月の兵庫県知事選挙では137項目の公約が掲げられていたが、これに関連・付随する施策を加えたことで「173項目」になったという。
例えば’21年6月10日付で公表された「さいとう元彦の約束」には、次の項目があった。
《保健所の体制を強化します。職員の増員をもっと機動的、大胆に行うほか、市町の消防署とも連携し入院調整や搬送業務の円滑化を図ります》
これだけ見ると1項目だが、細分化すると《保健所の体制を強化します》《職員の増員をもっと機動的、大胆に行う》《市町の消防署とも連携し入院調整や搬送業務の円滑化を図ります》の3項目に分けられるというわけだ。
こうした事例が積み重なり、当初の「137項目」が「173項目」に増加したという。
■担当者が語った県職員の立場「公約の達成率を職員が調査するのは不可能」
いっぽう担当者は「公約達成」の厳密な評価について、「どこまでいっても定性的な公約に対して、何をもって『達成』とするかは、人によって判断が分かれるようなものもあると思います」と推察。
報道では「実際の公約達成率は27.7%」と報じられているが、この数字は事務的な報告が根拠になっているという。
「137項目の公約に関係する施作を一覧表にしており、項目を数えると173項目に細分化されています。それぞれの取り組み状況について、達成しているものについては、備考欄に『達成済み』と書くようになっているのです」
その上で、担当者はこうも語った。
「ただ、『本当に達成なのか?』と感じるものも中にはありますし、逆に『達成済み』と書かれていなくても、『達成しているのでは?』と感じるものもあります。とはいえ、その項目を『達成済み』とするわけにはいきません。なかなか客観的・定量的に扱えないものではありますが、新聞記事で『公約達成率27.7%』と書かれているのは、備考欄に『達成済み』と書かれているものを純粋にカウントしたものです」
また公約達成については、県職員が判断するものではないという。
「事業の取り組み状況を把握しようとするならば、例えば『学校を〇校に増やします』といったように定量的に測れるものがないと、『達成できた・できなかった』と判断できません。そもそも公約自体がほとんど定量的に示されておらず、『〇〇を拡大します』のように定性的なものばかりだと思います。本当に丁寧にするならば定量的に置き換えていかないといけないと思いますが、そこまでやっていないのが現状です。
知事本人の判断で達成公約数を掲げるのは自由だと思いますが、それを職員が調査するのは不可能です。逆に言えば行政の立場としては、公約に対してどのような施作や取り組みをしているかについてしか説明できません。それに対して、知事自らで達成しているかどうかを判断するものかと思います。県民の付託を受けた知事の思いを形にすること、課題を解決していくこと、公約に掲げた目的に沿うような事業をしていくことに力点を置いていくのが行政の仕事です。その作業の一貫で関連する施作を一覧表にして、その進捗状況の調査をしているということです」
つまり公約の達成率は知事本人でチェックすることになるといい、施作の一覧表はあくまでも参考程度ということのようだ。
最後に斎藤知事にも説明不足な部分があるのではないかと問うと、担当者は「(11月27日)の記者会見では、あまり丁寧には答えているようには見受けられませんでした。どこまでも『一歩進めることが大事』とばかり言っていましたけど……。そうであれば、あまり着手・達成率については言わない方が良いのではないかと個人的には思います。政治的な判断もあるかと思いますので、我々がどうこう言うことではないかもしれませんが……」と率直な感想を語っていた。