石破茂首相のブレーン・川上高司内閣官房参与が語る“日本一わかりやすい”米大統領選挙報道の見方

ドナルド・トランプの復活か、あるいはカマラ・ハリスが米国史上初の女性大統領になれるのか――。
日本だけではなく、世界各国でもアメリカの熾烈な大統領選挙は日々メディアで取り上げられている。ニュースを斜め読みする限りだと、民主党のハリスがリードしているようだが、それは報道にバイアスがかかっているからだろうか?
そこで、一般社団法人日本外交政策学会の理事長として「地政学講座」で教鞭を執るだけではなく、10月1日からは石破茂内閣の内閣官房参与として官邸入りした、安全保障、アメリカの政治、日米関係のプロフェッショナルである、元拓殖大学教授で国際政治学者の川上高司氏に、アメリカ大統領選挙報道の“見方”を聞いた。(インタビューは2024年9月22日に収録)
――11月5日に迫ったアメリカ大統領選挙の投開票。当初、民主党はジョー・バイデン大統領が再選して出馬する予定でしたが、あまりの失言の多さに民主党内だけではなく、支持者たちからも不安の声が上がりました。その結果、バイデン大統領は撤退し、カマラ・ハリス副大統領が出馬することになります。
川上高司氏(以下、川上) ハリス氏の出馬は意外でしたね。実は私、ミシェル・オバマ氏が躍り出るのではないかと思ったのですよ。もし、彼女だったらこの大統領選、絶対に勝てたでしょう。というのも、オバマ夫妻の影響力はいまだに健在だからです。また、「黒人VS.白人」「女性VS.男性」「秀才VS.暴君」など、さまざまな対立構造ができたのですが、ミッシェル氏はそれを断りました。
――歴史に残る世紀の一戦は幻に終わったということですね。
川上 そうなると、民主党は副大統領候補のハリス氏しか選択肢がありませんでした。ただ、その繰り上げ選出のおかげで、バイデン氏の支持者たちからもスムーズに支援を得ることができたと考えられます。
その理由は2つありますが、まずは資金面です。民主党の大統領選に注ぎ込まれた費用はすでにバイデンとハリスの両氏に充てられていたため、ハリス氏まで副大統領から撤退してしまうと、これまでの資金の使い方に整合性がなくなります。それに、候補者選びからもう一度ゼロからやり直そうとしても、そんな時間はありません。だからこそ、バイデン支持者たちは、そのままハリス氏を応援する以外の道はなかったのです。
――残り3カ月で新たな候補を立てていると、それだけでも準備がかかってしまいます。しかも、これまで広報活動などで使ってきた資金が無駄になりますからね。
川上 2つ目は年齢ですね。ハリス氏はまだ59歳(10月20日で60歳)。トランプ氏は78歳で、彼は今まで81歳のバイデン氏を「おじいちゃん」と批判していましたが、彼女にはそれが一切通用しません。そして、なによりも若いだけあって明るいですね。彼女の母親はインド系で、カマラという名前はサンスクリット語で「蓮の女性」を意味します。リベラルの人たちはこういうのが好きですよね(笑)。おまけに音楽にも造詣が深い。そのような理由もあって、人気が出たのでしょう。
――急なすげ替えで「これはトランプ氏が優勢か?」と思われましたが、蓋を開けてみれば民主党が一歩リードしているという報道が多く見られます。
ただ、これはトランプ氏が大統領に当選した2016年の選挙を彷彿させます。当時、民主党のヒラリー・クリントン氏が優勢とメディアでは大々的に報じられていましたが、結果は「隠れトランプ支持者」たちの力もあってトランプ氏が勝利しました。
川上 今回も同じような構図だと思います。そして、この選挙を左右するのはアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンという、両者の差が1ポイント未満となっている7つの「激戦州」です。
――いわゆる、テキサス州など南部は伝統的に共和党支持者が多く、西海岸のカリフォルニア州などは民主党の牙城となっています。すでに両党には「勝ち確」の州がある一方で、この7州はどちらに転ぶかがわかりません。
川上 トランプ氏にはアメリカ国民の40%という強固な支持者が付いています。ハリス氏はまだ読めないのですが、バイデン氏に付いていた黒人女性票の95%が多分付くでしょう。あとは、黒人男性がどれほどトランプに流れるかということですが、お互いに岩盤票はあります。
そのため、中間所得層という存在が重要となります。激戦州の場合は、52~53%くらいがラストベルト(米国北部の衰退した工業地帯)の白人たちのため、この票の取り合いになります。そこに対して、いかにSNSが効果を上げるかということが肝になってきますが、今のところは不明瞭ですね。五分五分といえるでしょう。
――アメリカに住んでいる限りは住民の住所や年齢などはインターネットで検索すれば調べることができ、選挙時期には特定の政党から積極的に投票を呼びかける電話や郵送物が多く届きます。選挙コンサルティング会社はその人物がどの政党を支持しているのかを理解したうえで、DM(ダイレクトメール)作戦をしていますが、これはどれほど効果を発揮するのでしょうか?
川上 そのような草の根選挙活動はかなり重要だと思います。繰り返しになりますが、激戦州の7州の1%がどちらに入るかで今回の勝敗は決まります。そこで効力を発揮するのは、メディアの報道よりも草の根の選挙なのです。投票日の前日まで一軒一軒回って、「投票してほしい」と頼み込むのです。
4年前、民主党員である私の友人は「今回は民主党が絶対に勝つ」といって、このような選挙活動をやっていたのですよ。わざわざ、投票場まで連れて行ってあげてね。それが実を結び、前回はバイデン氏が当選したため、今回は共和党も草の根選挙活動に力を入れているでしょう。
――ちなみに、4年前のヒラリー氏同様、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュなど、「海外セレブ」の多くはハリス氏を支持しています。こうした著名人の応援はどれほど選挙に影響するのでしょうか?
川上 いくら、著名人がハリス氏の支持を表明したところで、彼女の支持者はトランプ氏のそれとは大きく異なります。つまり、同じところに杭を打ち込んでいる感じですよね。そのため、トランプ氏の支持者たちが、著名人に感化されてハリス氏に乗り換えるとは到底思えず、その効果は一切ないと思います。
しかし、「海外セレブに人気」とだけ、ニュースで聞いている多くの日本人は、「ハリスが勝ちそうなんだ」と錯覚してしまうわけです。ただ、現地を見てきた者たちによると、決してそんなことはないといいます。そのため、激戦州の動き方に注目するほうが大事であり、ほかの情報に惑わされないことが重要です。
――つまり、メディアが報じる大統領選のニュースを、もっと注意深く見る必要があるということですね。そもそもアメリカのメディアはトランプ氏に批判的で、追随するように日本も「また、トランプさんが過激な発言をしました」という報道が多く見受けられます。このトランプ氏とメディアの敵対関係はいつから始まったのでしょうか?
川上 政権を握っていたときから、彼は「ディープステート」という表現でマスコミをすべて目の敵にしていました。その挙げ句にTwitter(現・X)などSNSも凍結されるという憂き目に遭います。そのため、今でもマスコミを敵対視しているわけですね。唯一、Xを運営するイーロン・マスクは味方になってくれたため、アカウントも復活してSNSでの勢いを取り戻しました。
このように双方がいがみ合っているため、9月10日にABCテレビで行われたテレビ討論会はメチャクチャでした。私は英語で見ていましたが、司会者はハリス氏寄りの質問を投げかけ、その後も彼女が優勢だったという報道ばかりでした。
――多くの日本人はこの討論会での発言をすべてはチェックできていません。実際、このときはどのような討論が行われたのでしょうか?
川上 司会者がトランプに「ウクライナ戦争を短期間で終わらせますか? また、どのように終わらせるのでしょうか?」という質問をしました。トランプ氏は「私だったら電話一本で可能だ。簡単にできる。とにかく、死者が何万人と出ているのだから、それは早急に終わらせなければいけない。これは私だからできることである。バイデン政権は戦争を作って、ウクライナでも中東でもイスラエルでもやっている……。これはもはや『戦争内閣』だ」といった発言をしたんです。
それに対してハリス氏は「民主主義を守らなくてはならないため、戦争は継続する」と反論しました。これは衝撃的でしたね。ハリス氏は戦争を継続してどんどん犠牲者を出す……。その一方で、トランプ氏は一刻も早く戦争を終わらせて悲惨な状況を回避しようとしています。これは際立って対照的な発言でしたが、日本ではあまり報道されていません。
――「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とのパイプはある」などのトランプ氏の発言は日本でも報道されましたが、ハリス氏の「戦争継続」はそこまで取り沙汰されていません。
川上 それが私は非常にショッキングでした。今、ガザ地域で死亡者が増え続けているため、「戦争をやめろ!」というデモが全米各地で起きています。いえ、全米だけでなく、欧州をはじめ、世界各国で起きています。その状況を知っているのかどうかわかりませんが、ハリス氏は戦争を継続させたいわけです。
――なぜ、ハリス氏は戦争の継続を望んでいるのでしょうか?
川上 「民主主義を守る」ためです。政府がそう言わない限り、アメリカという国は滅んでしまいます。民主主義の名のもと、白人も有色人種もすべて一緒になることで、アメリカ合衆国は成り立っているのです。
――国民をまとめ上げるために、常に仮想敵を立てなければならないのは、いつの時代も変わらないのですね。それを、トランプ氏は止めようとしている。実際に同氏はテレビ討論会後の9月27日に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談しています。
ただ、同日の毎日新聞は「ゼレンスキー氏とトランプ氏、関係ぎくしゃく 侵攻巡り互いに批判」というタイトルの記事を配信しましたが、これまでの話を聞くと「メディアはトランプ氏の揚げ足を取りたいのか」という印象を受けます。
川上 繰り返しになりますが、9月のテレビ討論会で司会者は、始終トランプ氏が不利になるような質問をぶつけていました。その一方で、ハリス氏は少なくとも5日間は缶詰めで練習していたため抜かりはなかったのと、なにより主催者側の思惑が感じられました。そのため、入念に準備したハリス氏のほうが、パッと見いい感じに見えたのでしょう。
しかし、移民政策に関してもニュース記事などでは、「言及を避けた」というふうに書かれていますが、私が見る限り、彼女は完全に「逃げた」と思っています。
以上のことから、9月のテレビ討論会は、非常にトランプ氏に不利になるように仕組まれていたといえます。そもそも、放映したのはABCテレビですからね。トランプ氏はメディアのことを熟知しているため、ハリス氏から10月に入って再度テレビ討論会を持ちかけられましたが、それを拒否しました。
――その代わり、CBSテレビが、民主党で現ミネソタ州知事のティム・ウォルズ氏と共和党のJ・D・バンス上院議員の両副大統領候補者による討論会を行いました。
川上 トランプ氏がマスコミのほとんどを敵に回して、大統領選挙を戦っているというのは、8年前に彼が当選したときと同じ構図になっています。そして、現地のマスコミが同氏に批判的な報道をすることで、それを鵜みにした日本のマスコミも、「ハリス氏が有利」というニュースを流しているわけです。
私は残念ながら最近アメリカに行ってないのですが、現地の友人や、ワシントンD.C.で現地の生の声を聞いてきた知り合いによると、9月下旬の時点では、やはり「トランプのほうが優勢だ」というのです。特に7月にペンシルベニア州で発生した暗殺未遂事件以降、「神に守られたトランプ」として、かなり威勢があるそうです。
――あの修羅場で耳から血を流しながら拳を高く突き上げたトランプ氏は、支持者でなくとも「持っているな!」と感じた人は多かったでしょう。
川上 日本でも先の都知事選における「石丸(伸二)現象」などがありましたが、アメリカのSNSも同じような状況です。そのため、日本の報道機関はトランプ氏に大統領になってほしくないアメリカのメディアの情報を、そのまま受け取って報道しているような気がします。
――1960年のリチャード・ニクソンとジョン・F・ケネディの時代から、アメリカ大統領選でテレビ討論会は重要な役割をもたらしてきました。ただ、トランプ氏は次の出演を拒否したように、本人の希望次第で出なくてもいいのですね。
川上 いいんですよ。日本と違いますから。
――そうなのですね。そもそも、テレビ討論会は複数回行われる印象です。
川上 通常であれば3回行われます。6月に行われたバイデン氏とのテレビ討論会のあと、彼は撤退したため、本来は8月に行われるものが9月に行われ、大統領候補たち不在の中、3回目が10月に行われたということですね。
――10月10日のロイター通信によると、保守派のFOXニュースが両候補による2回目の討論会を打診していたそうです。ハリス氏は同意したものの、トランプ氏は「再試合はない」と自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿しました。これも世紀の一戦になりそうだったのですが、残念ですね。
川上 9月の討論会はハリス氏の弁が立ったため、メディアの評価ではハリス氏の勝利でした。ただ、このハリス旋風もいざ蓋を開けてみると、大統領選にどれだけ影響するかは不明瞭です。つまり、メディアの評価と実際の有権者の考えは大きく乖離しているのです。
――前出の「海外セレブが支持」と似たところがありますね。そうなると、本当に無党派層への呼びかけが重要になってくると思いますが、そこでもメディアの評価がどれほど響いているのか……。ところで、なぜアメリカのメディアは民主党びいきなのでしょうか?
川上 単純にトランプ氏が嫌いなのでしょう(笑)。というのも、トランプ政権のときはすごかった。彼は既存のあり方をすべてひっくり返して、すべてを自分でテコ入れすることで、ワシントンD.C.のロビイストたち、つまりエリート集団を全員敵に回しました。シンクタンクも(保守系の)ハドソン研究所だけが残り、あとはすべて民主党側に回りました。
――トランプ氏はこれまでの決まり事をすべて覆すため、大統領にさせたくない者たちが、メディア以外にもいるということですね。
川上 そうですね。というのも、彼が大統領にならないことで利権を得ている人たちが多くいるからです。そのような既得権益もそうですが、彼の支持者というのは、白人の中間所得層の中でもかなり所得が少ない者たちで、さらに移民に職を奪われていると感じている。これまで「日の目を浴びてこなかった者たち」のためにも彼は戦っているのです。彼の言葉を借りるなら、ディープステートとの戦いです。
――日本だと陰謀論でしか聞かない言葉ですが、結局トランプ氏のいうディープステートとは一体なんなのでしょうか?
川上 私は「権力」そのものだと思うんですよね。巨大産業、マスコミ、知的エリート層……。それらはすべてディープステートなのでしょう。しかし、明確に定義していないですよね。しっかりと、「ディープステートとは〇〇のことを指します」といってしまうと、一気に支持されなくなってしまいます。
――そこは、あやふやにしておいて、あとは個々のイマジネーションに委ねるということですね。
川上 そうです。ディープステートっていうひとつの単語を言っておけば、あとは支持者たちが「多分あれのことだ」「いや、これのことだ」と勝手に解釈してくれます。
――その「見えない何か」と戦っていたQアノンたちが、2021年にアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を引き起こしたのですね。
川上 実はあのとき、もし議会を占拠して革命政権を樹立させていれば、トランプ政権はできていたのですよ。というのも、合衆国憲法には「抵抗権(革命権)」が記載されているからです。そのため、当時の私は「ついに、革命が起きたのか」と思いながら見ていましたが、人数が足りなかったのと、手際も悪かったので、どのみち無理だったでしょう。
――確かに、アメリカ合衆国の独立宣言には、そのような文言も盛り込まれていますが……。ということは、もし、あのときトランプ氏が先陣を切っていれば、革命は成功したかもしれないのでしょうか?
川上 いえ、当時のトランプ氏はSNSで煽動するのが精一杯で、それ以上の動きはできませんでした。ただ、議会を占拠して入念に準備をして、「我々は新しい国を作るんだ! 南北戦争の中にあって我らは北軍なんだ!」と独立宣言をすれば、成立していた可能性もあります。
――まるで、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ですね。
川上 実際、今回の大統領選挙でどちらが勝ったとしても、「アメリカは南北戦争になるのではないか?」とよく言われています。
――国民が気になるのはトランプ氏が大統領になったときです。これこそ、あまり報道されませんが、日米関係はどうなるのでしょうか?
川上 ようやく日本が独立できます。というのも、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げているため、日米関係もNATOも米韓関係も、どうでもよいのです。彼が政権を握っていた当時は、日本も安倍晋三元首相で馬が合ったため関係も良好でしたが、もう同氏もいないため、日本に対しても厳しい姿勢を取るでしょう。つまり、日本はこれまでのようにアメリカからの支援を受けられなくなるため、日本独自の外交政策を展開しなければならなくなります。
そこで、防衛力の抜本的強化という議論になるわけですが、そのためにはアメリカだけではなく、中国、ロシア、北朝鮮とのパワーバランスを上手に取る必要があります。そうなったときに、日本にチャンスが来るはずです。日本が「真の独立国」となって、主導権を握ることができます。
それから、今の日本の上空は85%が“アメリカの空”です。土地もかなりの面積を米軍基地が持っています。ハッキリいってこれは異常。そのため、米軍基地を減らしていって、「普通の国」にならなくてはならない。いよいよ自分たちの戦略で外国勢力から、この国を守る必要があるのですが、トランプ氏が大統領になることで、それが初めてできる環境が整うことになります。
――前出のハリス氏の「戦争を継続させる」とは反対に、日本から米軍が撤退する可能性もあり得ると……。そう考えると、民主党政権下だと常に戦争は起きているのですね。
川上 トランプ氏がいうように、民主党政権は戦争をするんです。バラク・オバマ氏だってリビアやイラクのISILと戦争を行いました。そして、今もパレスチナ・イスラエル戦争に介入していますよね。
戦争をしている間は一部の産業、つまり兵器産業には金が回りますが、それ以外の産業に旨みはありません。しかし、トランプ氏は政治をビジネスとして見ているため、ディール(取引)をして戦争を止めようとしているのです。
――やはり、ビジネスマンだった頃の手腕に、今も自信があるのでしょうね。
川上 ただ、やっていることと言うことが派手なため、悪目立ちしているのは確かですよね。昔ながらのいわゆる「棍棒外交(自国の武力を背景にして他国に要求を飲ませる外交方針)」で、戦争を止めようとしています。
――大統領だったのに女性スキャンダルで有罪の評決が下るなど、嘘みたいなこともありますが、それでも政策は手堅く考え、感覚は研ぎ澄まされているのでしょう。
川上 そう、トランプ氏の感覚は非常に鋭い。2020年の大統領選挙で彼は「バイデンが大統領になったら、彼は戦争を始める!」と言い放ったのですが、「さすがだな」と思いました。というのも、実際にバイデン氏はロシアを引き込むために、ウクライナ侵攻を許してしまいました。パレスチナ・イスラエル戦争のベンヤミン・ネタニヤフ首相のケースは少し複雑ですが、結局アメリカはイスラエルを応援しています。そのため、あのときのトランプ氏の発言は正しかったのです。
――「トランプ氏が大統領になったら、戦争の危機が……」と懸念されていますが、実は彼自身が戦争を引き起こしたことはないのですね。その辺を日本のメディアは報道せずに、ハリス氏を持ち上げています。
川上 日本はアメリカ追随であり、バイデン政権の傘下にありました。そのため、民主党に批判的な発言をする者は、政界でもテレビのコメンテーターでも弾かれたのです。そのバイデン政権も終わりを迎えつつありますが、その後任にはハリス氏が控えています。そうなると、引き続き日本は、民主党政権の傘下に入るため「ハリス氏が勝つだろう」という主張が通るわけです。
しかし、先の自民党総裁戦で石破茂氏が総裁、そして第102代内閣総理大臣になり、自民党も大きく変わりました。そして、仮にアメリカでトランプ氏が大統領として復活を遂げた暁には、先に述べたようにこれまでとはまったく違う日米関係が出来上がるでしょう。
川上高司(かわかみ・たかし) 1955年、熊本県生まれ。元拓殖大学教授、中央大学講師、日本外交政策学会理事長。大阪大学国際公共政策博士。ジョージタウン大学留学(指導教官はレイ・クラインCIA副長官)、アメリカの研究所(フレッチャースクル研究所研究員、ランド研究所客員研究員)で勤務。帰国後、中曽根世界平和研究所研究員、中央政策研究所所長、海部総理の政策秘書、防衛省防衛研究所の主任研究員、その後、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、『News Bird』(TBS)の特別キャスターも務めた。2024年10月1日から、石破茂内閣の外交安全保障担当の内閣官房参与として官邸入り。
第二期地政学講座「支配者の地政学」 今回、インタビューに答えてくれた川上氏による『支配者の地政学』『地政学時事解説 オンライン講座』では、現在受講生を募集しております。毎回招聘する各ジャンルのトップランナーであるゲストによる講義は、ビジネスパーソンの教養としては一級のものとなります。ご興味のある方は
『支配者の地政学』 https://jfpc.site/geopolitics2nd/ 『地政学時事解説オンライン講座』 https://jfpc.site/onlineconfidentialreport/
を御覧ください。

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