日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に、ノーベル平和賞が授与される。
核兵器のない世界の実現に向け長年努力してきたことや、核兵器が二度と使用されてはならないことを証言を通じて示したことなどが、高く評価された。
ノーベル賞委員会は、国際非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に2017年の平和賞を授与している。
ICANの活動などもあって、核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が制定されたが、核廃絶への動きは前進どころか、逆行しているのが現状だ。
ロシアのウクライナ侵攻と核による威嚇が世界の安全保障環境を一変させた。 唯一の戦争被爆国である日本を含め、世界的に核抑止力に依存する傾向が強まっている。
核保有国とされるイスラエルと核開発を続けるイランの対立も顕在化している。
核軍拡への懸念が深まっているこの時期に、草の根の反核運動をリードしてきた被団協に平和賞を授与することは、ノーベル賞委員会の危機感の表れにほかならない。
被爆の実相を語ってきた被爆者は世界の人々から日本語そのままに「ヒバクシャ」と呼ばれてきた。
日本のヒバクシャが世界に訴えてきたのは、核兵器が人類と共存できない非人道的兵器である、という点だ。固有の体験に基づく証言の力が世界から評価されたのだ。
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被団協は、1954年の米国による太平洋・ビキニ環礁水爆実験をきっかけに、56年8月、第2回原水爆禁止世界大会の中で結成された。
「再び被爆者をつくらない」ことを掲げ、核兵器の廃絶と原爆被害に対する国家補償を訴えてきた。
被爆者の高齢化が進み、活動を継続することが難しくなったため解散した地方組織もある。
日本の個人や団体が平和賞を受賞するのは、非核三原則を表明し74年に受賞した佐藤栄作元首相以来となる。
沖縄返還に取り組んだ佐藤氏は、実際には「核の傘」に依存する安全保障政策を推進し、ベトナム戦争を支持したことから、受賞そのものに対する異論も少なくなかった。
来年、日本は被爆80年の節目の年を迎える。平和賞受賞を機に核軍縮への取り組みを強化すべきだろう。
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岸田文雄前首相は、核軍縮に取り組む姿勢を示しながら「現実的なアプローチ」を主張し、「核の傘」に依存する姿勢を鮮明に打ち出した。
核禁条約に対しても政府は「核保有国と非保有国の分断を深める」との理由で参加していない。
核保有国と非保有国の橋渡し役を果たしてきたとは言い難い。
せめて核禁条約にオブザーバー参加すれば、状況は変わるはずだ。誕生したばかりの石破茂首相には、衆院選で核政策についても具体的に語ってもらいたい。