介護人材確保の打ち手は?データから見る効果的な取り組みと課題

介護業界の人材不足問題は、2024年においても深刻な状況が続いています。厚生労働省の推計によると、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされています。これに対して、2022年度の介護職員数は約215万人であり、2026年度までに約25万人の増員が求められているのが現状です。
この需給ギャップの主な原因として、以下の点が挙げられます:
特に都市部では人手不足が顕著であり、東京都や大阪府では数万人規模で介護職員が不足すると見込まれています。
介護業界における人材確保の課題は、単に人数を増やすだけでなく、質の高い人材を確保し、長期的に定着させることにもあります。
介護職の離職率は、近年改善傾向にあります。介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」によると、2024年の介護職の離職率は13.1%と報告されており、これは過去最低の数値です。過去のデータを見ると、2022年には14.4%、2021年には14.3%でした。
定着率についても同様に改善が見られます。離職率が低下している理由として、「職場の人間関係が良くなったため」とする事業所が63.6%を占めており、良好な人間関係が定着促進に寄与していることが示されています。また、介護職員の平均月給も上昇しており、2024年には24万1,296円となっています。
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この図から、以下のような傾向が読み取れます。
注目すべき点は、介護業界全体の離職率が全産業平均の15.0%を下回っているという事実です。これは、一般に考えられているほど介護業界の離職率が高くないことを示しています。
しかし、入職率の低下傾向は、新たな人材の確保が難しくなっていることを示唆しており、今後の課題となる可能性があります。人材確保に向けては、単に離職を防ぐだけでなく、新たな人材を業界に引き付ける取り組みも重要となってくるでしょう。
厚生労働省が発表した第9期介護保険事業計画によると、2040年に向けた介護人材確保の目標値は約272万人と推計されています。これは、2022年度の215万人と比較して、57万人の増加を必要とすることを示しており、年間約3.2万人のペースで介護職員を増やす必要があります。
この背景には、65歳以上の人口が今後も増加し続ける一方で、生産年齢人口は減少するという予測があります。
この図から、以下のような重要な傾向が読み取れます:
これらのデータは、今後ますます介護需要が高まることを示しています。同時に、生産年齢人口の減少により、介護人材の確保がさらに困難になる可能性も示唆しています。
この目標達成のためには、多様な人材の参入促進や職場環境の改善が重要です。具体的な施策としては、以下のようなものが考えられます。
しかし、これらの施策を実施する上では、介護の質の維持・向上との両立が課題となるでしょう。単に数値目標を達成するだけでなく、高齢者に寄り添った質の高い介護サービスを提供できる人材を育成することが重要です。
介護業界における人材確保の重要な取り組みの一つが、賃金水準の改善です。厚生労働省は、介護職員の処遇改善を目的として、介護職員処遇改善加算を導入しています。この加算制度は、介護サービス事業所が介護職員の賃金改善に取り組む場合に、介護報酬に上乗せして支給されるものです。
2019年10月からは、さらなる処遇改善を目的として、特定処遇改善加算が創設されました。この加算により、勤続10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行うことが可能となりました。また、2022年2月からは、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が実施されています。
そして2024年6月から、従来の「介護職員処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」が一本化され、新たに「介護職員等処遇改善加算」が創設されました。さらに、処遇改善の加算額も引き上げられています。
これらの加算制度の効果は徐々に現れており、介護職員の平均給与は上昇傾向にありますが、加算の取得率には課題も残されています。例えば、訪問介護や通所リハビリテーション、地域密着型通所介護などのサービスでは、他のサービスと比べて加算の取得率が低い状況にあります。
このため、厚生労働省は加算の取得促進に向けた支援事業を実施し、事業所に対する研修会や専門的な相談員による支援を行っています。
介護人材の確保・定着を図るためには、賃金水準の改善だけでなく、働きやすい職場環境の整備と労働条件の改善も重要です。厚生労働省は、この点に関して様々な施策を展開しています。
まず、介護職員の負担軽減と業務効率化を目的として、介護ロボットやICTの導入支援を行っています。これにより、介護職員の身体的負担を軽減し、業務の効率化を図ることができます。
また、介護職員の離職防止・定着促進のために、キャリアアップの支援や職場環境の改善にも取り組んでいます。具体的には、以下のような施策が実施されています。
さらに、介護職の魅力向上を図るため、介護の仕事の社会的評価を高める取り組みも実施されています。民間事業者によるイベントやテレビ、SNSを活用した情報発信を通じて、介護の仕事の魅力を全国に向けて発信しています。
ここで重要なのは、これらの取り組みを単発的ではなく、継続的に実施することです。また、各事業所の状況に応じて、最も効果的な取り組みを選択し、実施していくことが求められます。
介護現場における人材不足の解消と業務効率化を図るため、ICTや介護ロボットの導入が積極的に推進されています。厚生労働省は、「介護現場における生産性向上の推進」を重点施策の一つとして掲げ、さまざまな取り組みを行っています。
ICTの導入に関しては、介護記録・情報共有・報酬請求等の業務の効率化を目的としたシステムの導入支援が行われています。具体的には、以下のような取り組みが実施されています。
これらの取り組みにより、介護職員の事務作業の負担軽減や、情報共有の円滑化が図られています。
介護ロボットについては、以下のような分野で活用が進められています:
例えば、見守りセンサーの導入により、夜間の巡回頻度を減らし、介護職員の負担軽減と利用者の安全確保を同時に実現することが可能となっています。
ただし、導入にあたっては、職員への適切な研修や、利用者のプライバシーへの配慮など、慎重な対応も求められます。また、ICTや介護ロボットはあくまでも介護職員を支援するツールであり、人の温かみのある介護を代替するものではないという認識を持つことが重要です。
介護人材の確保に向けて、多様な人材の活用が重要な課題となっています。厚生労働省は、若者、中高年、外国人など、幅広い層からの人材確保を目指しています。
若者に対しては、介護の仕事の魅力を伝えるための取り組みが行われています。例えば、以下のような施策が実施されています。
中高年層については、介護未経験者向けの入門的研修の実施や、介護助手としての就労支援など、柔軟な働き方を提供することで参入を促進しています。特に、定年退職後の高齢者の活用は、豊富な人生経験を活かせる点で注目されています。
「令和6年版 労働経済の分析」によると、高齢者の就業率は国際的に高い水準にあり、特に60~64歳、65~69歳の就業率が大きく上昇しています。この傾向を介護分野にも活かすことで、人材不足の解消につながる可能性があります。
外国人材の活用も重要な施策の一つです。経済連携協定(EPA)に基づく外国人介護福祉士候補者の受け入れや、在留資格「特定技能」による外国人材の受け入れが進められています。
しかし、外国人材の活用に関しては、言語の壁や文化の違いなどの課題もあります。これらの課題に対応するため、以下のような取り組みが必要とされています。
これらの多様な人材の活用を進めるためには、それぞれの特性に応じた支援や環境整備が必要です。例えば、中高年層に対しては、体力面での配慮や柔軟な勤務形態の提供が重要となります。
介護人材の確保・定着を図るためには、明確なキャリアパスの構築と専門性の向上が不可欠です。キャリアパスの構築については、「介護キャリア段位制度」が導入されています。この制度は、介護職員の能力を評価・認定し、段階的なキャリアアップを支援するものです。
また、介護福祉士資格取得後のさらなる専門性向上のため、認定介護福祉士制度も設けられています。
専門性の向上に関しては、さまざまな研修制度が整備されています。例えば、以下のような研修が実施されています。
「令和6年版 労働経済の分析」によると、介護分野での人手不足緩和に効果的な取り組みとして、相談体制の整備が挙げられています。これは、職員の悩みや課題を早期に把握し、解決することで、職場定着率を高める効果があると考えられます。
また、介護職員処遇改善加算や特定処遇改善加算の仕組みを通じて、経験や技能に応じた処遇改善が行われています。これにより、キャリアアップと処遇改善を連動させ、介護職員の意欲向上と定着促進を図っています。
今後の課題としては、以下の点が挙げられます:
特に、ICTや介護ロボットの導入が進む中、これらの新技術を効果的に活用できる人材の育成が重要となってきています。また、医療と介護の連携が進む中で、多職種協働のスキルを持つ人材の育成も課題となっています。
キャリアパスの構築と専門性の向上は、介護職の魅力を高め、新たな人材を引き付けるとともに、既存の職員の定着率を高める効果が期待されます。これらの取り組みを通じて、介護職が「専門性の高い、やりがいのある仕事」として認識されるようになることが重要です。
介護の社会的価値向上とイメージアップは、介護人材確保の重要な課題です。
具体的な取り組みとして、「介護の日」(11月11日)を中心とした普及啓発イベントの開催があります。このイベントでは、介護の仕事の重要性や魅力を伝えるとともに、介護職員の努力や貢献を称える機会となっています。
また、若者向けの取り組みとして、中学生・高校生を対象とした介護の仕事体験や出前講座なども実施されています。これらの活動を通じて、若い世代に介護の仕事の魅力や意義を直接伝える機会を設けています。
メディアを活用した情報発信も積極的に行われています。テレビCMや新聞広告、SNSなどを通じて、介護の仕事の多様性や専門性、やりがいなどを紹介しています。特に、実際の介護職員の声を伝えることで、リアルな介護現場の姿を社会に発信しています。
さらに、介護職員の社会的評価を高めるための取り組みも行われています。例えば、優れた取り組みを行っている介護事業所や介護職員を表彰する制度が設けられています。これにより、介護職員の努力や専門性が社会的に認められる機会を創出しています。
今後の課題としては、以下のような点が挙げられます:
これらの取り組みを通じて、介護職のイメージを「きつい、汚い、危険」から「専門性が高く、やりがいがあり、社会に貢献できる仕事」へと転換していくことが重要です。
また、介護を受ける側の尊厳を守り、質の高いケアを提供することで、介護サービスの利用者やその家族からの評価を高めていくことも、介護の社会的価値向上につながるでしょう。
介護の社会的価値向上とイメージアップは、短期間で達成できるものではありません。しかし、継続的な取り組みによって、徐々に社会の認識を変えていくことが可能です。これにより、将来的には介護人材の確保がより容易になり、質の高い介護サービスの提供につながることが期待されます。

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