[社説]石破首相の所信表明 地位協定改定なぜ封印

自民党総裁選や首相就任会見で意欲を示していた日米地位協定の改定は語られなかった。「石破カラー」は早くも消えつつある。
石破茂首相が就任後初の所信表明演説を行った。
「外交・安全保障」分野で沖縄について触れたが、県民が最も聞きたかった日米地位協定改定への言及はなかった。語られたのは、日米同盟による抑止力・対処力の一層の強化である。
石破氏はこれまで「党内野党」的スタンスで、時の政権批判もいとわなかった。歴代首相が手を付けなかった地位協定改定に踏み込み「運用の改善で事が済むとは思わない。見直しに着手する」と明言していた。
県が求める地位協定改定に近づくのではとの期待もあったが、早くも持論を封印した形だ。
所信では、沖縄戦で多くの県民が犠牲になり、戦後27年間米国の施政下に置かれたことを「私は決して忘れない」とし、基地負担軽減に取り組むと言いつつも「辺野古への移設工事を進める」とこれまでの政権と変わらない姿勢を示した。
沖縄振興の経済効果について「十分に域内に波及しているのだろうか」と問題提起したが、私たちが聞きたかったのは具体的な解決策である。
石破氏は、岸田文雄前首相の派閥の支援で総裁選を勝ち抜いたとされる。党内基盤の弱さゆえ石破カラーを捨てざるを得なかったのか。党内運営と自身が目指す政策の溝をどう埋めるのか。石破氏にはその手腕が問われる。
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所信の冒頭で石破氏は「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と宣言。「ルールを守る」として自民党派閥裏金事件に触れた。
だが「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と抽象論にとどまり、演説後、裏金事件の関係議員を公認するかどうか問われても「何も決まっていない」と濁した。
総裁選で前向きな姿勢を示していた「選択的夫婦別姓制度導入」にも触れず、発言は後退している。
演説で最も分量を割いた地方創生は、当初予算ベースで交付金の倍増を目指し、今後10年間集中的に取り組む基本構想を策定する方針を示した。
だが2014年から10年間の取り組みで目立った成果は出ておらず、前途は多難だ。
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来週、衆参両院で各党代表質問や党首討論が開かれる。
今回の所信表明では、新政権が何を目指し、何をするのかがいまひとつ見えてこなかった。
本来なら、予算委員会を開催し、持論の地位協定改定や「政治とカネ」を巡る問題について具体的に語るべきだ。
説明を果たさなければ、国民にそっぽを向かれ、衆院選にも影響を与えかねない。そうなれば党内基盤はますます弱まり、政権の維持さえ難しくなるだろう。石破氏は逃げずに正面から向き合うべきだ。

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