被災地の施設で「防災士育成研修」を実施 ― 防災体験型宿泊施設「KIBOTCHA」を起点に地域活性化を目指す

NTT ExC(エクシー)パートナーが主催する「防災士育成研修」が、11月14日・15日の2日間、宮城県東松島市の防災体験型宿泊施設「KIBOTCHA(キボッチャ)」にて開催される。

「防災に関する知識と実践力を身につけた、防災リーダーとなりえる人」に対して日本防災士機構(NPO法人)が認定する資格である「防災士」の育成研修が実施される「KIBOTCHA」は、2011年の東日本大震災によって津波被害を受けた廃校を利用した施設。復興の道を歩み続ける被災地の様子を実際に肌で感じながら防災士の資格を目指すことができるのが大きな特徴となっている。

昨年度に引き続き開催となる「防災士育成研修」。研修地である「KIBOTCHA」と研修を主催するNTT ExCパートナーを繋いだ、NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 担当部長の長屋洋平氏は、防災士研修の多くが首都圏にて開催されている現状を踏まえて、「やはり被災地である宮城県で、実際に被災された方々が講師となり、被災された体験などを、被災した施設で語ってもらうことによって、よりリアリティのある研修ができる」と、「KIBOTCHA」で開催することの意義を説明する。

「KIBOTCHA」は、東松島の廃校を利用した防災体験型宿泊施設。同施設を運営する貴凛庁 マネージャーの西舘保宗氏は「100年以上も続いていた学校で、地域の誇りにもなっていた場所だったので、弊社の(代表取締役である)三井が施設を始めた当初は、地域の方とのコミュニケーションが非常に難しかった」と振り返る。しかし、地域の人々と様々な活動をともに取り組んでいく中でコミュケーションを深めて、信頼を勝ち取ってきたという。なお、「KIBOTCHA」は「希望」「防災」「未来(フューチャー)」をあわせたネーミングである。

「防災体験施設である『KIBOTCHA』と『防災士研修』というのは非常にマッチしている」と続ける西舘氏。「実際に被災している場所なので、災害によって実際に何が起こったかを説明しやすいし、共有できる時間もある。その意味でも、ここで防災士研修を行うことは非常に有意義だと思います」と太鼓判を押す。

「以前から『KIBOTCHA』という施設があることは知っていたのですが、当初は地域活性化やまちづくりをしていくうえで、観光の文脈での活用を検討していた」というNTT東日本の長屋氏。「いかにしてこのエリアに人を呼び込むかを考えていく中で、それとは異なる視点で思いついたのが『防災士』。資格を取得する人が、コロナ禍以降、非常に多くなっている中で、この施設で『防災士研修』を行えば、人を呼び込むだけでなく、意味のある研修ができるのではないか」との着想から、「KIBOTCHA」、そしてNTT ExCパートナーに話を持ちかけたと振り返る。

NTT ExCパートナーが行う「防災士育成研修」には、「集合研修とオンラインでのeラーニングを使ったハイブリッド式」「集合研修での実体験をもとにしたリアルな講義」「AEDの使用など実技や演習を取り込んだ研修」「防災士の資格試験の実施」といった4つの特徴があるという同社 ラーニングソリューション事業部 部門長の山田昭彦氏。「KIBOTCHA」での研修では、研修メニューに加えて、オプションとして「語り部」と周辺施設を巡るツアーを用意。実際の被災者である「語り部」の方々が、被災時の状況を、ありのままに、リアルに伝えていくことで、研修参加者の防災に対する意識がより一層高まったという。

また、「KIBOTCHA」は防災体験施設なので、ロープワークや簡易的な担架づくり、避難誘導訓練などの防災体験プログラムがもともと用意されている。そのほか「防災士育成研修」は2日間の日程で行われるが、「KIBOTCHA」は宿泊施設でもあるため、遠方からの参加者も安心して参加することができるなど、「防災士育成研修」の会場としては大きなアドバンテージがある。

一方で、地方での開催となるため、いかに参加者を集めるかという「集客」が非常に大きな課題となっている。

「実際に防災・減災を学んでいただきたいターゲットは、宮城県内の方はもちろん、首都圏の方、さらには関西の方にも東日本大震災のことを学んでいただきたいと思っているのですが、そういった方々をどうやってこのエリアに呼び込むのかが大きな課題」だという長屋氏。昨年度はおよそ70名が参加したが、集客の問題については本年度も引き続き大きな課題になっている。

「災害が起こると、一般の方は“誰かが助けに来てくれる”と思っている方が多い。しかし、実際、公的な機関による支援や救助というのはそんなにすぐには来てくれません。その中で、もっとも大事なのが自分の命を守ること。そして、自分の家族を守ること。さらに、地域の人達がひとつになって行動できることが非常に重要となってきます」と話す山田氏。

防災士の資格を取ることによって、「災害時にどのようなことが起こるかという知識が身につくほか、災害による被害の拡大を食い止めるために地域の防災リーダーとして活動することができます。知識があれば、率先して正しい行動ができるようになりますので、自分の命、家族の命、さらに地域の安心・安全を守る行動が取れるようになります」と続ける。

そして「一番大事なのは被災する前。最近ではハザードマップなどが掲出されていることが多くなってきましたが、ただ眺めるだけでなく、どこが危ないのか、どこへ逃げればいいのかを事前に検討し、家族同士、友人同士、そして地域の人々と話し合って、共有していかないといけない。そのためにも、防災士の知識を身につけることは非常に重要なのです」と、防災士育成研修を受ける意義をあらためてアピールする。

昨年開催した結果、受講者からは「実際に被災された施設なので、身が引き締まる」「風化しかけていた記憶が思い起こされた」「実際に被災された語り部の方から話を聞くことができたので、よりリアルに意識が高まった」などの声が寄せられるなど、非常に高い評価を得ている。一方で、研修スケジュールの関係で、語り部と周辺施設を巡るツアーが夜間の開催になってしまうなどの問題もあったので、本年度はそのあたりの改善も進めているという。

また、「KIBOTCHA」で行われている人気プログラムである「無人島体験」などもオプションで組み込めたら面白いという西舘氏。「実際には起きないほうが良いことでも、やはり起こってしまう可能性は否定できません。災害だけでなく、交通事故だってそうです。そんなときの考え方を学ぶことができるエッセンスがあると非常に良いと思っています。座学だけではなく、実際に現場に出て体験し、みんなで意見を交わしあうことがとても重要になる」と今後の展開に希望を寄せた。

「今回は『防災士育成研修』ですが、実際のところ、研修というのは年に何回もできることではありません。その中で、我々の究極的な目的はこのエリアに人をたくさん呼んで、活性化させる、賑わいを創出していくことです」という長屋氏。

そのキーワードとして「ワーケーション」を挙げ、「ワーケーションが成功している事例というのは、実はあまり多くありません。しかし、『KIBOTCHA』には光るコンテンツがあります。防災体験はもちろん、無人島体験など人を呼べるコンテンツがある。そのコンテンツに合わせて、両親が仕事をしている間に、子どもたちはさまざまな体験をして一週間を過ごす。そして、それを起点に様々な産業が発展していけば良いなと思いますし、そこに我々も協力していければと考えています」と話す。

そのきっかけともなりうる「防災士育成研修」だが、今年の開催は11月14日・15日の2日間を予定(募集締切は10月7日)。「東日本大震災を伝承していくという意味でも、ぜひこの機会に宮城県のこの施設で防災を学んでいただきたい」と受講者の増加を期待。

「今年の夏は家族で防災体験に訪れる方が多かった」という西舘氏は、「1月の北陸はもちろん、ちょうど南海トラフの話題もあったので、非常に関心が高くなっており、大人だけでなく子どもにも防災に対して興味を持つ方が増えている」と分析し、「皆さんの防災に対する関心、そして防災士という資格に対するニーズも高くなっていますので、ぜひこの機会に、『KIBOTCHA』に防災士の研修を受けに来ていただければ」と締めくくった。

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