「オーバードーズ」、最近ニュースなどでよく耳にする言葉ですが、決められた量を超えて飲み薬などを過剰に摂取することで、 若い世代を中心に深刻な問題になっています。国立精神・神経医療研究センターの調査によると 高校生の60人に1人が市販薬の乱用の経験があり、特に10代~20代の若い女性に乱用をする人が多いという報告があります。本来、風邪を治すためや、せきを止めるために販売されている薬ですが、誤った量を飲むことで最悪の場合、死に至る可能性もある大変危険な行為です。
かつてオーバードーズに陥った過去から社会復帰し、 現在は依存症の更生施設 一般社団法人「千葉ダルク」で生活支援員を務める田畑聡史さんは 大学生の頃、オーバードーズを始めてしまったきっかけをこう振り返ります。
一般社団法人「千葉ダルク」生活支援員の田畑聡史さん
「先に大麻を始めてからすごく罪悪感があって、市販薬…こういうものがあって、たくさん飲むと気持ちよくなるよっていうので勧められて、市販薬に切り替えました。とりあえず1箱飲んでみなっていうところで、その友人も1箱飲んでいたんで僕も1箱飲んでみて、最初はなんかちょっと不安はあったんですけど捕まらないっていう一つのすごく安心感があるのと、あとやっぱり薬の高揚感があったのでハマっちゃいましたね。」(一般社団法人「千葉ダルク」生活支援員の田畑聡史さん)
田畑さんは友人の勧めで始めてしまった大麻の使用は自力でやめられたものの、その後、就職活動への不安感などからオーバードーズに陥ったと言います。市販薬は簡単に低価格で手に入ってしまう手前、自分の意思で完全に終わらせるのが難しいというオーバードーズの怖さについて田畑さんはこのように話しました。
「今日使って明日やめよう、明日だったらやめれるからいつでもやめれるからいつでもやめられる、ってよくみんな言うんだけど、それが本当ずっと連続で何年間も続いてるのが怖いところかなっていうか、結局なんかやっぱり違法薬物と違って市販薬は売ってるので、結局違う薬局行ったら買えるし。あくまでも薬からの回復はできてもその人間としての成長ができてないというか、よく言われるのがその薬を使ったときからやめたときってその時間が止まってるような状況になるので、1回やっぱちょっと少し距離を置いちゃうと難しいというか、大変だったなと思います。」(一般社団法人「千葉ダルク」生活支援員の田畑聡史さん)
田畑さんが市販薬の乱用をやめて社会復帰できたのは、ご両親が田畑さんの部屋から大量の薬の空き瓶や空き箱を見つけたことで異変に気づき、様々な機関に相談した結果、現在田畑さんが勤めている「千葉ダルク」を訪ねたことがきっかけです。精神病院に入院の末、千葉ダルクでの更生プログラムで回復しました。
一般社団法人「千葉ダルク」パンフレット
また大阪にある更生施設「大阪ダルク」ではオーバードーズに特化したグループミーティング「O D倶楽部」を新たに設け、参加費無料で誰でもオンラインで参加することができます。
若い世代に広がるオーバードーズの恐ろしさを小学校の「薬物乱用防止教室」で伝えている東京・中央区の「越前堀(えちぜんほり)薬局」の薬剤師・犬伏 洋夫(いぬぶせ ひろお)さんは、最近では、市販薬の過剰摂取が薬物依存の入口になっていると危機感を募らせました。
「越前堀薬局」の薬剤師・犬伏 洋夫さん
「薬物をやっているいわゆる依存症患者の中で、市販薬がゲートウェイになっている子が7割というデータが出ているんですね。それがもう年々上がってきているんですよ。2014年のデータから2022年のデータまでチェックをすると、最初2014年の段階では市販薬っていうのはゼロだったのが、2年ごとに倍々に今増えてきているんですよね。結局それは市販薬がゲートウェイになったっていうだけで、そこから先いろんなものに手を出してるっていう子も非常に多いようなので、そのはじめの一歩をやっぱり止めなきゃいけないっていうところですね。」(「越前堀薬局」の薬剤師・犬伏 洋夫さん)
犬伏さんが「薬物乱用防止教室」でこどもたちに伝える内容は講師を始めた15年前は、覚醒剤、麻薬、シンナーなどだったところから現代にいくに従って、徐々に危険ドラッグに代わり、今では市販薬の話へと、時代とともに伝えるべきことが変わってきていて、毎年内容を変えているそうです。犬伏さんは、こどもたちから寄せられた感想でハッとしたことがあると話しました。
薬剤師・犬伏 洋夫さんがこどもたちに伝える「薬物乱用防止教室」
「1人ずつメッセージカードみたいなのをくれるんです、授業が終わった後に。本当に単純に怖いっていうことを書いてくれる子が一番多いんですけど、一番心に残ってるのが、「薬は車と一緒で、うまく使えば、人を生かせるけど、人を殺すこともある」みたいなことを書いてくれた子がいて、それを聞いたときにやっぱり怖い怖いだけを伝えていては駄目だなってはっとして、いいところもあるし、その有用性と悪いところをバランスよく伝えてあげなきゃいけないなって思ったんですよね。」(「越前堀薬局」の薬剤師・犬伏 洋夫さん)
悩み事を抱えている人が、薬に逃げるのではなく、周りの人にその声を聞いてもらうことや、 全国にあるダルクや各地の相談窓口などで気軽に話せる環境づくりが解決の第一歩だと感じました。
(TBSラジオ『人権TODAY』担当:久保絵理紗 (TBSラジオキャスター))