77歳の水彩画家、柴崎春通氏。息子の勧めによって動画投稿を始めたYouTubeチャンネルは、7年で181万人以上の登録者を獲得。YouTuberとしての才能を開花させた背景には、講談社フェーマススクールズ講師時代の40年に渡る努力と絵に対する熱い思いがあった。心臓手術での出来事や、息子さんとのエピソードなど、柴崎氏が語る人生100年時代を魅力的に生きる極意とは。
―― さまざまな表現方法に親しみつつも“水彩画家”として活動されていますが、水彩画を始めたきっかけについてお聞きできますか?
柴崎 今は水彩画家として活動していますが、最初は油絵ばかりを描いていました。就職しないまま大学を卒業したあと、大学の先生から紹介された講談社のフェーマススクールズで仕事をするようになったんです。そこで、水彩画を描くようになりました。
フェーマススクールズは、講談社の社長がアメリカのFamous Schoolの教育指導ノウハウに惚れこみ、日本に開校した通信制の絵の学校です。最も多いときには14,000人ほどの受講生が在籍していました。
僕がフェーマススクールズで働き始めたのは、開校して2年目のこと。僕は、最年少の新人アシスタントとして、油絵を担当しました。
―― それから水彩画の担当になったのですか?
柴崎 当時は、インストラクターたちが絵の教育の仕方を学んでいる最中でした。アメリカンフェーマススクールの講師が来日して教えてくれたのですが、ときには水彩画を専門とする講師が来日してデモンストレーションをしてくれたんです。
そこで僕は、今までの水彩画の概念を覆すような描き方を目の当たりにし、強く感動しました。その後は、僕も水彩画担当の仕事をする機会が訪れ、油絵と二つの仕事をするようになりました。
―― 実践的な現場だったんですね。
柴崎 そうなんです。ほかのインストラクターたちは、藝大の大学院や大きな団体出身者ばかりでしたので、私にとって雲の上の存在で……毎日、緊張に包まれた中での仕事が始まったわけです。
当時、私は弱冠25歳の社会経験も皆無の若者でしたし、画家としてのキャリアも持ち合わせていませんでした。当時は結婚して息子もいたので、何とかしてこの環境でやり抜かなければと必死でした。
―― 実践主義で学び、実力を伸ばせる職場だったからこそ力を発揮できたんですね。
柴崎 そうですね。その後は、とにかく絵を描き続ける毎日でした。アメリカのシステムで、たくさんの教材や絵の見本を使って学べたのは、とてもありがたかったです。
それに、先輩インストラクターたちとの出会いから学ぶことも多かったですね。当時インストラクターとして来られていた先輩方は、美術界の中でもそれぞれ傑出した専門の力を持っているスペシャリストでした。
例えが変ですが、私としては宝の中にいるようなもので、ここでしか得ることの出来ない学びと実践の毎日でした。
そのお陰で、いつの間にか私自身も、さまざまな画材を使いこなし、あらゆるモチーフを描く術を身につけることができました。毎日大変ではありましたが、仕事だけではなく人生にとっても貴重な経験を積むことができたと思っています。
―― 現在YouTubeチャンネルの登録者が181万人を超えていますが、多くの人を惹きつけている理由はどのような点だと考えていますか?
柴崎 正直、こんなに増えるとは思ってもみませんでした。実際、YouTubeを始めて1年ほどはそれほどチャンネル登録者も多くなかったんです。
―― チャンネル登録者が急増したきっかけは何だったのですか?
柴崎 『木の描き方』を紹介した3分ぐらいの短い動画がアメリカで話題になったんです。「日本にもボブ・ロスのような画家がいる」って。アメリカで注目されたことで、日本でも登録者が増え始めました。特に狙っていたわけではないので驚きました。
―― YouTubeを始めたきっかけは、息子さんの提案だったそうですね。
柴崎 そうです。息子が「YouTubeを活用すれば、展覧会よりもっと多くの人に絵を見てもらえるよ」と提案してくれたんです。
そもそも「YouTubeは若者のもの」というイメージが強かったので、まさか自分がYouTuberになるとは思ってもいませんでした。YouTubeを始めた当時は、70歳になっていましたから。
息子はIT関係の仕事をしていたこともあり、動画の編集を担当してくれていますし、今では良きパートナーですね。
―― それぞれの得意分野を生かして動画が出来上がっているということですね。
柴崎 そうですね。でも、実は結構仲が悪いんですよ。
―― えっ?そうなんですか?
柴崎 冗談です(笑)。
でも、ものづくりとなると、彼は彼なりの考えがあり、僕は僕で絵描きとしての考えがあるので、意見がぶつかることもあります。息子は僕とは全然性格が違うので、意見が違うからこそ足りないところを補え合えていると思いますね。
息子とは、長い間別々に暮らしていたので、年を取ってから一緒に動画をつくることになろうとは思いもしませんでした。
―― YouTubeで動画に出演することに抵抗はなかったですか?
柴崎 全くなかったんです。というのも、フェーマススクールズではビデオ撮影しながら絵を描く仕事が多かった。頭上と正面にカメラを設置して、絵を描いている風景を映すんです。自分でカメラを操作しつつ、話をしながら添削もしていました。
―― その経験があったから、動画での活動にもすぐに対応できたんですね。
柴崎 そうですね。講座でも大勢の前で話すことには慣れていましたし、会場を盛り上げるのも得意でした。普段から人前で講義をしていて、自分のキャラクターも自然に出せていたので、特別なことはしていない感覚です。
―― 教えることで身に付くことも、たくさんありそうです。
柴崎 フェーマススクールズでは、厳しい環境で学びつつ仕事をこなしたおかげで、教える技術も磨かれました。
添削という形で絵を見て指導するのですが、まずは相手から送られてくる絵の良い点を見つけて褒めることが第一歩でした。そして、絵の問題点を抽出し、それを具体的にビジュアルで示す。そうすることで、相手も納得しながら成長していけます。
この教え方は今のYouTube活動にも活かされていて、相手を尊重しながら教えることで、自然とコミュニケーションが取れるんです。
教え方については父からの影響が強いです。父は物事を教えるとき、「相手の立場になって、噛んで含めるように教えるんだ」と言っていました。自分が知っていることをそのまま伝えるだけでは相手に響かないんですよね。父から受け継いだ考え方が、大いに役立ちましたね。
―― フェーマススクールズでの経験が、今のYouTube活動に大きな影響を与えているんですね。
柴崎 そう思います。YouTubeを通じて、今までより多くの人に絵の楽しさを伝えられるのは嬉しいことですし、これまでの経験がすべて今に活かされていると感じます。
―― YouTubeでは外国からの視聴者もいるように見受けられますが、コミュニケーションの壁は感じないでしょうか。
柴崎 フェーマススクールズでの仕事やアメリカ留学などによって、さまざまな国の人と接してきたので、外国人とのコミュニケーションにも抵抗がありません。生まれた環境や人生経験などの違いがあっても、絵を描く楽しさでは響き合えると思いますから。
YouTubeでは、年配の方、体の不自由な方、子どもたち、海外の人たちみんなが一緒になって絵を楽しんでくれるのが嬉しいですね。
講座をしていたときもそうですが、頭の中では常に幅広い層の人々に向けて語りかけています。
取材に答える柴崎氏
―― 柴崎さんの動画を見て、年齢を重ねてから絵を描くようになったという声もありますか?
柴崎 そういうエピソードはたくさんありますよ。コメントでも「昔、絵が苦手だったけど、柴崎先生の動画を見て描きたくなった」とか、「今からでも遅くないと思って始めました」という方が多いです。
子どもの頃に学校の先生から「色が違う」とか「形が違う」と怒られて、絵が嫌いになったというエピソードを聞くこともあります。そのような体験をした方々が、「もしあの時代に柴崎先生に出会っていたら、もっと楽しく絵を描けていたはずだ」と言ってくださるんです。
―― 関わる人によって、そのものの印象が変わったりしますよね。
柴崎 そうですね。みなさんがよくコメントくださるのは、僕が楽しそうに絵を描いていることについてです。僕自身、絵を描くのが本当に楽しいんですよ。それが伝わって、「こんなに楽しいなら自分もやってみたい」と思ってくれるみたいです。
実際に描かなくても、動画を見ているだけで楽しいと言ってくれる方もいますし、柴崎の喋りが心地良いので寝落ちするために聞いているという方もいらっしゃいます。
―― 絵で食べていくことは難しいのかもしれませんが、YouTubeを通しての柴崎さんの活動は、絵描きとして生きる新たな道を切り開きましたね。
柴崎 たしかに画家として生きていくためには、団体に所属して、そこで評価されて絵が売れるという仕組みが一般的かと思います。僕の場合、SNSを活用して、直接世界中の人たちに作品を見てもらうことができています。
そこからオリジナルグッズが売れたり、広告収入などで支援を受けたりと、自然な形で経済活動にもつながっています。
無理して何かを売ろうとはしているわけではないのに、楽しく絵を描いている延長で、そうした流れが生まれているのはありがたいことです。
―― 絵を描くことを続けていくことで、日常生活への変化はありますか?
柴崎 絵を描くと、世界がまるで新しく見えてくるんです。絵を描くということは、物事をじっくり観察し、どのようにつくられているのかを自分で理解することが大切です。
例えば、草を20種類描いてみてと言われたら、どんな草があるのかしっかり観察しないと描けませんよね。そうやって、普段見逃している細部を見つめることで、僕たちの周りにはこんなに多様な生物が存在しているんだと実感できるんです。
―― 私たちが普段見ている世界は、実は本当の姿を捉えられていないのかもしれないですね。
柴崎 その通りです。大人になると、経験が邪魔をして、物事を深く考えたり観察したりしなくなるんです。小さい子どもが「なんで?」とたくさん質問するのは、何もかもが新しくて、常に感動しているからですよね。
でも、大人になるとその感覚が薄れてしまいます。しかし絵を通して世界を見ると、日々の変化や美しさに気づくことができるんです。
柴崎氏の描いた絵
―― 柴崎さんが教えている透明水彩画の魅力について、改めてお聞きできますか?
柴崎 透明水彩画の特徴は、下に塗った色を隠せないことにあります。例えば、油絵やアクリル絵の具、クレヨン、鉛筆などは不透明な画材です。下に塗った色を上に塗った色で隠すことができます。
しかし、透明水彩は違います。下に塗った色が透けて見えるんです。これが水彩画特有の美しさでもあり、難しさでもあります。
―― 失敗がそのまま残るというのは、ハードルが高く感じてしまいます……。
柴崎 下に塗った色を隠せる不透明水彩画もあります。しかし、下の色を隠せない制約があるからこそ表現できる美しさがあると思うのです。
透明水彩画は、明るい色をあとから塗ると、下の暗い色が透けてしまって明るさが表現できません。だから、最初に明るい色から塗り、あとから暗い色を重ねるという手順が求められます。
しかも、最も明るい色である白は絵の具ではなく紙そのものですよね。白を残すために、最初から細かく計画を立てて描く必要があります。
それを踏まえて水彩画を楽しんでいただけたらと思います。
―― その制約があるからこそ、深い表現ができるんですね。
柴崎 水と紙という、とても繊細で弱々しいものが織りなす表現が大事なんです。自分がコントロールする以上に、水が紙に滲んだり広がったりする自然の力を活かして描くことが重要なんですよ。例えば色を滲ませたり流したりして、他の画材では表現できない独特な魅力が表現できます。
多くの人が「水彩なら簡単そうだ」と思って始めますが、実際にやってみるとその奥深さに驚くとともに、ハマってしまいます。さらに、年齢や身体の状態に関係なく誰でも始められるのも魅力です。自宅にあるものを題材にしたり、写真を見て描いたり、自由に自己表現ができますので。
柴崎氏のアトリエ
―― これからの趣味として絵を始めようとする方は、どのような準備が必要ですか?
柴崎 最初は、お金がかからない道具で十分です。紙と水のほか、100円ショップでも水彩絵の具や筆などを購入することができるでしょう。
初めてだからといって高価な道具を揃える必要はありません。水彩画は非常に手軽で、油絵のように家の中を汚すこともなく、小さな机で簡単に始められます。
―― 最初は何を描くのがいいのか、アドバイスをいただきたいです。
柴崎 最初は果物など、シンプルなモチーフから描くと良いでしょう。
難しいことに取り組んで挫折するより、「これなら私にもできるかも」と実感することが大切です。例えば、リンゴやバナナなんて形がそんなに難しくないですよね? 少し形が歪んだって、全然問題ないし、誰でも手に入るものですから。
それに、リンゴやバナナの色ははっきりしていて描きやすいし、描いた満足感も得られます。次はこうしたいという見通しも立てやすいです。
大半の人は、最初からそんなに上手に描けるわけではありません。上手じゃないことが普通なんですよね。でもね、人間って難しいことに挑戦しようとして、逆に収拾がつかなくなることがあるじゃないですか。
―― 簡単に絵を始められる手段として、クレヨンを使うことも勧められていますよね。
柴崎 クレヨンは不透明な画材なので、重ね塗りがしやすく、初心者でも簡単に取り組めます。
コロナ禍で、誰でも手軽に始められる画材としてクレヨンを推奨しました。子どもたちにも馴染みがあり、扱いやすいことも理由の一つです。実際に多くの方が楽しんでクレヨンを使って絵を描いていますし、親子で一緒に絵を描く方も増えています。
―― 幅広い年齢層に受け入れられているんですね。
柴崎 そうです。YouTubeの視聴者も、小さなお子さんからご高齢の方まで多くの方が楽しんで絵を描いてくれています。絵を通して自己表現することが、誰にでもできる素晴らしい体験だということを伝え続けていきたいです。
取材に答える柴崎氏
―― SNSでの活動は、自己実現や社会とのつながり、社会貢献などいろいろな可能性があると感じます。ただ「自分には発信するものがない」と思っている方も多いかもしれません。
柴崎 そんなことはありません。何十年も生きてきたなかで、誰にでも素晴らしい経験があります。
僕は、人から話を聞き出すのが大好きなのですが、お話を伺うと皆さんそれぞれご自分の中に、これまでの経験や考えがたくさん詰まっているんですね……。
僕自身も今まで培った技術と経験を生かして動画投稿をしていますが、これまで人生で培ってきたものを、自分の中だけで終わらせてしまうのは惜しいことです。
例えば、会社で役職に就いていた人も、退職すると自己表現する機会が少なくなるんですよね。そこで、仲間を見つけることが大事だと思うんです。前職の役職関係なしに向き合える仲間なら、話しやすいですからね。
できれば、お酒やお茶を飲んだりしながら、ざっくばらんに話せる仲間をつくれたらいいと思います。
―― 人と話すなかで、自分の長所に気づくことってありますよね。
柴崎 年を取って家に閉じこもってしまうのは本当にもったいない。自分の人生で得た知識や経験を探して発信していくべきです。
何かを発信することで、周りからの反応を得たり、新しいことに気づいたりします。絵を描くときも同じです。毎日描いていくなかで発見があって、自分が成長していくんです。発信することによっても、成長のきっかけが生まれます。
―― 今までの人生経験は大切にしつつ、プライドを捨てて初心者から始める勇気も大切かもしれませんね。
柴崎 そうなんです。特に男性は一度つけた「鎧」を脱ぐのが苦手です。特に会社で役職についていた人は、その肩書きに縛られてしまい、定年後も“過去の自分”を引きずってしまうことが多い。でも、そういう「鎧」は早めに脱いで、裸の自分としてほかの人と繋がることが大事です。
かつて僕の元に学びに来た先輩の方たちも、鎧を脱いで「先生」と呼んでくれました。その姿勢には僕も学ばせてもらっています。鎧を脱いで、自分自身を解放することが、新しい人生を切り開くための第一歩です。
―― 絵を描き始めたものの、うまくいかないと挫折してしまう方もいるかもしれません。長く続けるための秘訣は何でしょうか?
柴崎 絵を描くと、自分の姿がはっきり見えてしまいます。例えば、「リンゴを描いたけど、思うように描けなかった」となると、その失敗が嫌でやめてしまうことが多いんです。
でも、そこで自分を褒めてあげることが大事です。「ここまで描けた自分はすごい」と考えたり、仲間と一緒に楽しんだりすることが、絵を続ける秘訣です。
最初から完璧を目指すのではなく、1歩でも前に進んだ自分を認めてあげることです。
―― 高齢者にとって、絵を描くことはどのような効果をもたらしますか?
柴崎 僕は長年、多くの年配の方々と一緒に絵を描いてきましたが、絵を見れば認知症の進行具合がある程度わかります。絵の形や構図に変化が出てきますからね。
もちろん、病的な認知症の治療は医療従事者に任せるべきですが、自分で脳を活性化させて血流を良くするためには、脳を使い続けることが重要かと思います。
絵を描くことは外に出かけたり、仲間が増えたりするきっかけになります。それに、自分の作品を見てもらうことで喜びを感じられます。そういう面でも、絵を描くことは認知症予防にも大きく貢献しているのではないでしょうか。
―― 絵を描くことは、人生100年時代において、重要な意味を持つ趣味の一つになりそうですね。
柴崎 これからの時代は、AIが多くのことを自動化していくでしょう。世の中のシステムは2~3年のうちに大きく変わって、若者も中高年もAIに仕事が取って代わられかねない。今まで生きていた社会での「自分」という存在が、置き去りにされる可能性があります。
そのときに、自己確認できるものが絶対に必要なんです。そして、自分しか表現できないものが絵だと思うんですよ。
―― 自己表現としての絵ということですね。
柴崎 そうです。絵というのは自分の“選択”と“決断”の連続で完成するものです。だからこそ、多くの人にその楽しさや価値を伝えたいと思っています。
―― すべて機械でできるようになるからこそ、ですね。
柴崎 ええ。世の中のシステムがAI中心になるからこそ、自分自身で描く絵には大きな価値があります。昔は靴も手作業で縫っていましたが、今ではすべて大量生産されて、お店で売られています。だからこそ一点ものの価値が際立つんです。
いかにAIに取って代わられない仕事、AIに取って代わらない生き方をするかですね。
取材に答える柴崎氏
―― 柴崎さんは、今後、水彩画を通じてどのような社会貢献や活動をしていきたいですか?
柴崎 社会貢献なんて大それたことはできないと思っています。ただ、SNSや展覧会を通して、みなさんに元気を与えるような活動を続けていきたいですね。例えば、展覧会を開いて楽しく生きている姿を見せることで、「自分もやってみよう」と思ってくれる人が増えたら、それが一番の喜びです。
―― 展覧会にも多くの人が集まるそうですね。
柴崎 そうなんです。展覧会には3,000~4,000人の方が来てくれます。一人ひとりと握手したり、話をしたりするのが大好きで、来てくれるファンの方々を大切にしています。僕にとっては、人生はお祭りのようなもの。みんなで一緒に楽しむことが大事なんです。
―― 「人生はお祭り」という言葉が印象的です。
柴崎 人生はできるだけハレの日が多い方がいい。「明日は月曜日だから辛い……」とカウントダウンするのはもったいないです。毎日が楽しいお祭りであるべきだと思います。好きなことをやって、思いついたらすぐに行動に移す。そんなふうに生きていると、毎日が日曜日のように楽しくなるんですよ。
―― そのように楽しく過ごすためには、どのような心持ちでいればいいのでしょうか?
柴崎 まずは好きなことをやることです。「これをやりたい」と思ったら、すぐにやってみるんです。僕は心臓を手術をするまで大きな病気もなく、ずっと元気でした。病気というのは突然やってくるものです。
―― 心臓の手術もされているということですか?
柴崎 もう11年ほど前のことです。急に突然具合が悪くなったので、病院に行ったところ「このままでは命が危ない」と言われて、初めて心臓の手術を受けました。その後、何回か手術を繰り返してきましたが おかげさまで今は普通の生活を送っています。
―― 心臓の手術は1回だけでもかなり大変なイメージです……。
柴崎 でも、慣れました(笑)人間って本当にすごいんです。最初の手術で、ストレッチャーに乗せられて手術室に運ばれるときには、「これから何が起こるんだろう」と不安でいっぱいでね。でも、何度も手術を経験すると、「また来たな」という感じで、慣れてしまうんです。自分でも驚きましたね。
―― 精神的に辛くなったりすることはありませんでしたか?
柴崎 今は許可されないと思いますが、病院の個室に絵の道具を持ち込んで、手術の直前まで絵を描いていたんです。そうすると不思議なことにとても心が落ち着いてきて 直前の手術の不安よりも絵を描くことに夢中になっていました。
絵を描いていて、看護師さんに「手術の時間です」って言われて、急いで片付けてストレッチャーで手術室に向かう。そんな感じでしたね(笑)。
―― 好きなことがあることが、病気の辛さを乗り越える力になってきたのですね。
柴崎 そうですね……。だからこそ思うんです。人生には安定なんてないし、待ったなしだということを。3年後にあそこに行こうとか、これを食べようなんて先送りにしないで、思い立ったらすぐやることが大切です。
それによって、「今日はこれを成し遂げた」という気持ちを持つことが、元気の源になります。
―― 柴崎さんの元気の秘訣は、やはり好きなことを続けてきたからでしょうか?
柴崎 もちろんです。嫌なことは無理してやりません。もし追い詰められて嫌なことをしなきゃならない状況があれば、その前に何か別の道を見つけるんです。面白いことを次々にやっていけば、人生が自然とつながっていくと思います。
重く考えず、身軽に生きることが大事ですね。昔は、いい大学に入って、いい会社に就職すれば安泰だと言われていましたが、今はそんな保証はどこにもありませんから。
―― 最後に、水彩画を始めたいと思っている方へメッセージをお願いします。
柴崎 ここまでもお話をしてきましたが、思い立ったらすぐに取り組むことが大切です。絵は誰でも描けるし、描いてみると楽しいですよ。そして、絵を描くことで自分が変わり、世の中の見え方も変わる。何かを考えるよりも、まずは行動してみてください。
どうしても分からなければ、僕の動画を見て、ヒントを見つけてください。やってみたらきっと何かが変わるはずです。
―― まさに「思い立ったが吉日」ですね。「好きなこと」を持ち、夢中で取り組むことが年齢を重ねてからも素敵な生き方をすることにつながっていることを感じました。本日はありがとうございました。
取材/文:谷口友妃 撮影:熊坂勉