「選択的夫婦別姓」求め集団訴訟 最高裁は過去2度「合憲」判決も…「多くの学者によって批判されてきた」

選択的夫婦別姓を求める集団訴訟「夫婦別姓も選べる社会へ!訴訟」の第2回口頭弁論が、9月20日東京地裁で開かれた。
本訴訟は、現在の夫婦同氏(姓)制度は憲法に違反するものとして、別氏(姓)のまま結婚できるよう法改正を求めるもの。この日は、原告側の意見陳述が行われた他、国からは反対意見書が提出された。
同種の集団訴訟は、過去2回、2015年と2021年にも起こされており、いずれも最高裁で合憲と判断されている。3度目となる本訴訟では、過去の最高裁判例を覆せるかが焦点となる。
原告は「事情変更」「旧姓の通称使用の限界」を主張原告側の意見陳述は2つに分けて提出された。まず第一準備書面で主張されたのは「事情変更」について。
夫婦同氏(姓)制度は1947年に制定されたが、当時は3世代同居が一般的な時代。その後、核家族中心の時代となり、女性の就業率・管理職の割合も増え続けた。原告側は、仕事上のキャリアを維持するために氏の継続性の必要が高まっているとする。また、インターネット上で自己表現する機会も増え、氏の変更によりそのコミュニケーションが断ち切られてしまうこともあると主張している。
内閣府の世論調査では、2001年の時点で「選択的夫婦別姓に賛成」が「反対」を上回って以後も増加し続け、近年は別姓でも家族の一体感には影響しないとの回答も併せて増加傾向であるという。さらには、地方議会において、国に対して選択的夫婦別姓の実現を求める議決もこれまでに313の自治体で採択されている。
原告側はさらに、国際的な動向も同準備書面に盛り込んだ。夫婦同氏を義務付けているのは日本のみであり、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)からも是正勧告を受けている。同準備書面は、夫婦同氏が制定された当時から社会の事情はさまざまに変化しており、現在では同氏制度に合理性がなく憲法違反であることを幅広く主張するためのものだ。
続く第二準備書面では、「(旧姓の)通称使用の拡大と限界」という表題で主張がなされた。旧姓を通称として用いることができる機会は増えているものの、不利益の解消にはなっていないことを指摘。むしろ、夫婦同姓の不合理性を基礎付けるものだとした。
2015年の最高裁判決では、婚姻前の姓を通称で使用できる状況が広がっていることを根拠に、社会的信用を得る困難はある程度緩和しているとされたが、原告側は通称使用では根本的な解決にはならず、個人のアイデンティティーなど人格的利益の損害はぬぐえないと主張している。
さらには、利便性の課題もあるとする。不動産登記やマイナンバー登録、法人登記簿や特許庁の申請などはそれぞれ旧姓(通称)単独の表記は認められず本名との併記が求められる。金融取引においても、預金口座に開設時に通称が使用できないケースが多いという。
一方、金融庁のアンケートによれば、通称使用を認めないのは、マネーロンダリングなどの犯罪に使用されるリスクがあるからだとし、民間の取引においても、住宅ローンやクレジットカード、携帯電話の契約時にも旧姓使用が不可能なケースがあるという。
これらを受けて原告側は、夫婦同氏制度のもとでは、それぞれの場面で逐次、個人が交渉のコストを払わねばならない状態で、旧姓使用を認めようとする受け入れ側の管理コストも増加させていると主張。パスポートも、旧姓との併記は可能でも、パスポートに搭載されるICチップは国際規格によって定められており、一つの氏しか認識されないため、国外では通称でやり取りできないことが多い。
旧姓の通称使用そのものは、選択的夫婦別姓が認められない中で、それでも自己のアイデンティティーやキャリアを守るために当事者が勝ち取った権利だ。だが、その“緊急避難”的な制度があることを理由に、不利益が解消されていると主張するのはおかしいという趣旨で第二準備書面は提出された。
国の反論内容は?対する国側の反論について、原告側弁護団によれば、基本的に2015年と2021年の最高裁判決をなぞった内容だといい、「今回の訴状に正面から向き合っていない」と弁護団は批判している。
具体的には「夫婦が同氏を名乗ることは社会の構成要素である家族の呼称としての意義がある」「どちらの氏を称するかは夫婦の協議により選択可能であり不平等には当たらない」「旧姓の通称使用の拡大によって不利益が緩和されている」と主張しているという。
その他、今回の訴訟独自と思われる主張は、以下の3点。
①夫婦同氏の目的は、共同生活の実態の表現、家族の一体感の醸成ないし確保にあり、それは社会全体が夫婦同氏によって達成し得る
②婚姻制度の柱は嫡出子の仕組みであり、両親と子どもが同じ姓を持つつながりを持った存在としての嫡出子としての意義を重視すべきだ
③内閣府の世論調査(2021年)では「夫婦同氏制度を維持した方がよい」という回答と「旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」という回答を合計すれば69%になるから、夫婦別氏を是認する見解が大勢とは言えない
原告弁護団で団長を務める寺原真希子弁護士は、20日の口頭弁論後に行われた報告会で、こうした国の各主張に対し反論を行った。
「(①について)ある家族の一体感が他の家族が同氏でないと醸成できないという理屈は正直、意味不明だ。すでに事実婚の家族など別氏夫婦、別氏親子が多く存在している実態も無視している」(寺原弁護士)
また、②親と子どもが同じ姓を持つことの意義について寺原弁護士は、「これまでの最高裁の判断を踏襲したものだが、最高裁の判断自体多くの学者によって批判されてきた」と説明。「嫡出子か非摘出子かを氏が同じかどうかで区別して、周りから見えるようにするという差別的な扱いを支持している。日本にも多くいる非摘出子を守るべき国が、非嫡出子に対する差別を助長しており、大きな問題があると言わざるを得ない」と批判した。
③旧姓の通称使用を法制度化することについては、あらためて「通称使用の法制化が解決策になり得ない」と主張し、通称使用の限界と問題点から目をそらすものだと訴えた。
報告会に参加した原告らからは、国が時代の変化による「事情変更」を無視していることに失望する声が上がった。また、通称使用で不便を強いられている実態や、その実態に向き合っていない国の姿勢に怒りをにじませる人もいた。一方、自民党総裁選でも選択的夫婦別姓が論点となっていることに対し、与党内でも理解が進むことを期待する声もあった。
寺原弁護士は、裁判の今後について、「裁判官は過去の判例をできるだけ変えたくないものだが、今回は2度の最高裁判決をねじ伏せる必要がある。しかし、この訴訟で問うているのは、男女差別や個人の尊厳を守るという人権問題がその本質だ」と語り、「裁判官にもその本質に立ち返ってほしい」と訴えた。

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