2024年9月、記録的な大雨被害を受けた能登半島へ大型水陸両用車「レッドサラマンダー」が出動しました。しかし、総務省消防庁はこれ以外にも多数の水陸両用車を全国に配備しています。
2024年9月下旬、大雨によって甚大な被害が出た石川県能登地方に、全国から消防、警察、自衛隊などの災害派遣部隊が続々と集結しています。 そのようななか、消防が持つ水陸両用車の代表的存在、「レッドサラマンダー」も被災地へ向け出動している姿が確認されました。
「レッドサラマンダー」だけじゃない! 消防の“水陸両用車”実…の画像はこちら >>岡崎市消防本部の大型水陸両用車「レッドサラマンダー」。写真は防災訓練でのもの(画像:中部運輸局)。
「レッドサラマンダー」は全長8.2m、全幅2.2m、高さ2.6m、重量約12t。最大積載量は4400kgで、車両の前部に4人、後部に6人が搭乗可能です。足回りにはゴム製クローラー(いわゆるキャタピラ)を採用し、最高速度は50km/h、登坂傾斜角度は約27度、最大60cmの段差や最大2mの溝を乗り越えられ、水深1.2mまでなら走破可能です。
上述のように水に浮くこともでき、その際はクローラー部分が水かきの役割を果たします。製造元はシンガポールの軍需関連企業であるSTキネティクス、国内販売代理店は消防車両最大手のモリタ(兵庫県三田市)です。
同車を運用するのは、愛知県の岡崎市消防本部。なぜ、東京や大阪、名古屋といった大都市の消防機関ではなく岡崎市なのでしょうか。それは同市が日本のほぼ中央に位置するからです。高速道路のインターチェンジや航空自衛隊小牧基地に近く、東・西日本両方に出動しやすいという観点から岡崎市消防本部に2013年3月、消防庁が約1億円を投じ配備しました。
「レッドサラマンダー」はこれまでに、2017年7月の九州北部豪雨や2018年7月の西日本豪雨などで出動しています。ただ、この10年で性能的な欠点や運用上の限界なども洗い出されているようです。
だからか、その後消防庁が「レッドサラマンダー」を購入することはなく、別車種の導入に舵を切っています。では、消防が装備する水陸両用車には「レッドサラマンダー」以外、どのようなものがあるのでしょうか。実は、よく似たものから、もっと小型のトラック積載タイプのものまで、そのバリエーションは増えており、それらの配備先は全国に広がっています。
消防庁が導入を進めている水陸両用車は「大型」「中型」「小型」の3種類あり、前出の「レッドサラマンダー」は「大型」にあたります。そして同車とともに消防が運用するもう1つの大型水陸両用車、それが「レッドヒッポ」です。
「レッドヒッポ」は、2022年4月に大阪市消防局で運用が始まった水陸両用車です。岡崎市の「レッドサラマンダー」と同じく、前部ユニットと後部ユニットを連結した屈折式と呼ばれる構造で、足回りもゴム製クローラーとよく似ていますが、車体は全長7.87m、全幅1.98m、高さ2.54m、重量約7.03tと一回り小型です。一方で、乗車定員は14人(前部ユニットに4人、後部ユニットに10人)と「レッドサラマンダー」よりも増えています。
最高速度は65km/h、登坂傾斜角度は31度、最大1mの溝を乗り越えられるほか、水に浮くことで最大35km/hで航行可能です。この浮航能力は「レッドサラマンダー」にはないため、「レッドヒッポ」の最大の特徴といえるでしょう。
ちなみに「レッドヒッポ」も、今回の能登半島の大雨災害では現地へ派遣されています。
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奈良市消防局の中型水陸両用車。徳島県や千葉県、愛知県、熊本県、宮城県にも同様のものが配備されている(画像:陸上自衛隊)。
一方、中型水陸両用車といわれるのが、2019年から全国に配備が始まっている全地形対応車です。ベースはアメリカ・ハイドラトレック社製の車両で、足回りはゴムクローラー式であるものの、「レッドサラマンダー」や「レッドヒッポ」のように連結式の屈折仕様ではなく、単車構造のため小回りが利き、運転もしやすいのが特徴です。トーハツ(東京都板橋区)が輸入し、消防向けとして追加の艤装を行っています。
車体サイズは全長4.93m、全幅2.36m、高さ2.94m。アルミボディのため重量は約3.6tと軽いです。陸上では最大20km/h、水上では車体後部のプロペラ(スクリュー)を回すことで最大5.6km/hで航行できます。乗車定員は陸上8名、水上6名と前出の2車よりも少ないものの、車体が軽量コンパクトなため、専用の搬送車も2軸4輪の小型のもので対応可能であり、その点でも「レッドサラマンダー」「レッドヒッポ」より運用しやすくなっています。
配備先も多く、すでに徳島県(板野東部消防組合)や千葉県(山武郡市広域行政組合消防本部)、奈良県(奈良市消防局)、愛知県(豊橋市消防局)、熊本県(宇城広域連合消防本部)、宮城県(大崎地域広域行政事務組合消防本部)などに引き渡されています。
これら「大型」および「中型」の水陸両用車が、限られた消防組織への配置なのに対し、47都道府県すべてに配備が進められているのが「小型水陸両用車」です。ベースはカナダ製の8輪バギー「アーゴ(ARGO)」。これに消防車両として必要な艤装を施しています。
車体サイズは全長3.02m、全幅5.525m、高さ1.17m。重量は約600kgで、定員は陸上6名、水上4名です。陸上であれば32km/h、水上なら最大4km/hで移動できます。
この小型水陸両用車は警視庁をはじめとした警察も独自に導入しているほか、地方自治体や民間企業も万一の時に備えて調達しているケースが見受けられます。
なお、大阪市消防局には大型水陸両用車である「レッドヒッポ」とは別に、この小型水陸両用車も配備されています。
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大阪市消防局の小型水陸両用車。同様の車両は警察も導入している(画像:大阪市)。
これらは、そのほとんどがここ10年のうちに導入されたもので、逆にいえば2011年の東日本大震災以降、消防組織の水害に対する救出救援能力は飛躍的に高まったといえます。
確かに消防車は金額だけで捉えると、高く感じてしまうかもしれません。しかし、万一の際にひとりでも救うことができたら、整備にかかったコストは賄えるともいわれています。それだけ人命は尊いということ。出動しないに越したことはありませんが、いざという時のために備えるという点では、「はしご車」や「大型化学車」も同様です。
「助けられる命は必ず助ける」――今回の能登半島における大雨災害でも、そのために全国の消防組織は、装備をそろえ現地で活動しているといえるでしょう。