背中にコブがついた「珍仕様のF-35」があるだと…? ノルウェー空軍だけの特別仕様のワケ 性能落ちそうなのに

20か国で採用されているF-35「ライトニングII」戦闘機ですが、ノルウェー空軍向けのものは、胴体後部にコブが付いている特別仕様です。なぜ、このような機構が採用されているのでしょうか。
いわゆる「第五世代戦闘機」としてアメリカや日本(航空自衛隊)などで配備が進んでいるロッキード・マーチン製のステルス戦闘機F-35「ライトニングII」は、前出の2か国を含め20か国で採用されており、早くもベストセラー機になりそうなほど生産数が増えていっています。各国に引き渡されたF-35Aを見ると、国籍標識を始めとしてマーキングが異なる以外は全く同じ外観に見えますが、ノルウェー空軍向けの機体だけは例外のように、胴体後部にコブが付いており、大きく異なっています。コブがあると逆にステルス性を損ねそうにも見えますが、なぜこのような形状になっているのでしょうか。
背中にコブがついた「珍仕様のF-35」があるだと…? ノルウ…の画像はこちら >> フィンランド国内の高速道路で離着陸訓練を行うノルウェー空軍のF-35A戦闘機(画像:フィンランド空軍)。
ノルウェーを含む北欧には、気温が著しく低い厳冬期が存在します。そうなると滑走路が氷結してしまい、滑りやすい状態になります。そのため、同国空軍の戦闘機では、歴代の機種のほとんどで着陸時に「ドラグシュート」という機構を使用して減速する方法が採られてきました。
「ドラグシュート」の原理はパラシュートと同じで、大きな傘を曳いて空気抵抗により着陸した機体を減速させる仕組みです。ノルウェー空軍では、前出したような理由から、最新型のステルス戦闘機F-35でも同様にドラグシュートを搭載することが求められました。
ただ、ステルス性能が重要な第五世代戦闘機にドラグシュートを搭載することは簡単なことではありません。そこで、アメリカ、ノルウェー両国の政府関係者、ロッキード・マーチンの合同チームが結成され開発が行われ、胴体後部の2つの垂直尾翼の間にコブ状のポッドを取り付けて、ドラグシュートを収納する方法にしたのです。しかも、一見して後付けしたとわかるような形では、レーダーに映りにくいというステルス性能を大きく損なってしまう恐れがあったことから、その影響を最小限に抑える形状にすべく専用設計が採られています。
また、このポッドは短時間かつ簡単な作業で着脱が可能で、油圧により開閉します。このポッドのなかに、強度の高いケブラー繊維製のドラグシュートが収納されるというわけです。
ドラグシュートの操作はコックピットの計器パネル左側に取り付けられたスイッチにより行われますが、パイロットがこのスイッチを上に倒すとポッドが開き、パラシュートが展開されます。また、接地後、十分に減速したところで同じスイッチを下に戻すことによりドラグシュートを切り離すことが可能です。これは、地上で風などによりドラグシュートが機体に絡まることを防止するためです。
ノルウェー空軍では、戦闘機が装備するドラグシュートの故障率は1万分の1以下という規定を定めています。同空軍は、F-35A用に開発されたドラグシュートはこの要求仕様を満たしていて、厳冬期のF-35着陸性能には満足していると発表しています。
ちなみに、このシステムの開発には、オランダ空軍も1100万ドル(日本円で約15億4000万円)を拠出したと発表されていますが、システム自体は2024年8月時点では未発注のようです。なお、発注こそされていないものの、ドラグシュートはノルウェー空軍だけでなく、オランダとデンマーク空軍のF-35Aでも搭載が想定されているとのことです。
ノルウェー空軍では過去にF-16戦闘機を導入した時にもドラグシュートの装備を要求しました。そのためこの機でも、垂直尾翼の付け根にドラグシュートを収容するケースが追加されています。同軍にとってこの装備は、いわば長年のあいだ「必需品」というわけです。
なお、航空自衛隊のF-2もノルウェー空軍のF-16と同じ手法でドラグシュートが搭載されています。ただ、航空自衛隊のF-35Aは50機近くもの機数が導入されているにもかかわらず、いまのところドラグシュートを搭載する計画はないようです。

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