「子どもたちに安全な町を残したい」液状化被害の地域で夏祭り “宅地液状化対策”の行方は?特殊な地盤で難航か【新潟】

能登半島地震で液状化被害を受けた新潟市江南区天野地区で、8月、自治会が主催する夏祭りが行われた。祭りに込められたのは「子どもたちに安全な町を残したい」という願いだ。
夏祭り当日。子どもみこしや屋台の設置のため早朝から自治会の役員が集まった。天野中前川原地区の自治会長・増田進さんは、「紆余曲折、震災の関係で色々ありましたが、ようやく夏祭りの開催にこぎつけました」と、これまで準備にあたってきた役員をねぎらった。約350世帯が暮らす天野中前川原地区。増田さんは、「広い自治会なので、被害にあった・あわないの違いはあるが、皆さんの気持ちを一つにするために、そして、震災復興祈念ということで開催する」と、夏祭り開催の意味を語った。
液状化は、再び地震が起きれば繰り返す恐れのある災害だ。今年5月、増田さんは自治会の役員に、街区単位で地盤を補強する必要性を訴えた。「次の世代の子供たち、孫子の世代に安心して住めるような地域にしてあげたい。私自身も安全安心になりたいということが切実な思い」「将来にわたり二度と液状化しない」という安心感を得るための施策が、新潟市が国の施策を活用し実施する「宅地液状化対策」だ。土地の調査・分析を行い、土木の観点からの技術的な確認を経て、工事を行う候補地と工法を選定。新潟市は、住民の同意が得られれば2~3年後をめどに工事を始めるという見通しを今年4月に示している。費用の一部については、住民に個人負担を求める考えだ。
増田さんは今年の夏祭りに「復興祈念」に加えて、自身の決意を込めていた。それは、「宅地液状化宅策」の実施を叶えるため、変わらずに邁進していくという思いだ。「一番大事なのは子どもたち。これからこの地区を支えていく子ども達が安心して住めるような地域にするため『おじいちゃん・おばあちゃん頑張るんだよ』ということを子どもたちに伝えたい」自治会の役員もそれぞれに、今年の祭りに意味を感じていた。ある役員は、「皆さんが地震で大変な思いをしているから、この時間だけでも忘れてもらえたらいい」と話し、他の役員は、「地域の防災力や防犯力を考えると、自治会で顔の見える関係性を作っていくことは大切」と、地域コミュニティの重要性を感じていた。地震発生から8か月、夏祭りは地域への思いを形にする場となっていた。
夕方を迎え、祭りの主役である20人ほどの子どもたちが公園に集まってきた。メインイベントである「みこし行列」の担ぎ手となる子どもたち。小学2年の男の子は、「みこしを担いでちょっと注目されたい」とはにかみ、小学5年の女の子は、「準備してもらえることに感謝して担ぎたい」と、開催に尽力してきた大人たちに思いをはせた。真っ青なはっぴをまとい、お祭り気分が高まると…「天野中前川原、頑張るぞ エイエイオー!」みこし行列のスタートを前に、子どもたちが気合いを入れる。その姿を見つめていた増田さん。「子どもたちの中には、穴の空いた道路を見ることで地震を思い出す子もいると思うが、少しでも楽しくいてもらいたいと思う」と目を細めた。「ワッショイワッショイ」液状化に襲われた町を元気いっぱいに進む「子どもみこし」。子どもたちの姿は、周囲を明るく照らしていた。
一方で、街区ごとに行う「宅地液状化対策」に向けた動きは、当初の予定よりも時間を要している。新潟市は、候補地と工法の選定を今年度中に行う方針を示していたが、専門家は「地盤や地下水位について追加調査が必要」と指摘。今年度中に候補地を選定することは困難となった。「2~3年後に工事を始める」という見通しは変えていないが、全体の見通しも不透明となったと言える。新潟市の担当者は、「新潟市の地盤は軟弱で、地下水を多く含むといった独自の特性を持っている。海抜0メートル地帯では、地下水位をくみ上げた場合の水の捨て場も懸案事項になる。他都市の液状化対策をあてはめて考えることはできない」と説明している。中原八一市長は、「スケジュールが遅れることは被災者の皆さんにとっても新潟市にとっても残念なことだが、場所や規模については地盤工学会の皆さんや委員と調整を続けているところ」だと述べ、理解を求めた。
被災地域が広範囲に及ぶ上、慎重な調査や確認が必要な大規模工事である「宅地液状化対策」。天野中前川原自治会の増田進会長は、「非常に難しい、大変な施策だということは十分分かる」とした上で、改めて訴えた。「今日一緒に歩いた20人くらいの子どもたちの将来のために、一刻も早く対策を講じてもらいたいという気持ちは変わらない」子どもたちに安全な地域を残したいという被災地の思い。それに応えるため、新潟市には、専門家の見方などから徐々に明らかになる「宅地液状化対策」の現在地について、情報を積極的に開示していく姿勢が求められている。

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