ペットも相続できる? お世話代の贈与や飼育団体との契約を遺言書に記す方法も

こんにちは、行政書士の木村早苗です。

今回は「ペットと相続」についてお話したいと思います。「ペットの相続」と言い換えると現実みがより伝わるでしょうか。

○加速する「ペットの高齢化」

平成から令和へと時代が移り、家の構造や家族構成が変化する中で、ペットも「家族」との認識になりつつあります。普段は家の中で過ごし、身体にいい材料でできたごはんとお水を欠かさず、おトイレの様子も確認しつつ、快適な室温を保つためクーラーはつけっぱなし。時期が来ればワクチンや健康診断を受けに行き、保険にもしっかり入って……と、この一文だけ見れば人間の赤ちゃんや子どもとほぼ同じです。

弊事務所にもねこの”くろ”相談役がいますが、完全室内飼いにしたのは、実は相談役が初めてです。実家ではいつも庭に迷い込んだ猫を飼っており、出入り自由にさせていたので、時にはケンカでひどいケガをしてくる子もいました。ただ、昔はその形が自然だったんです。

『サザエさん』のタマは、縁側から自由に出入りしていますよね。サザエさん一家はよく昭和の家族の象徴として扱われますが、ペットとの距離感も昭和のそれと言えるでしょう。

さて、完全室内飼いだと「弱い命は自然淘汰される」法則が、ペットには当てはまらなくなります。Instagramなどには15歳以上のシニア犬やシニア猫も多く表示されますが、そういった子たちが増えたと感じるのも無理はありません。2010年以来犬猫の平均寿命は伸び、犬14.76歳、猫15.62歳と右肩上がりの状態。うち高齢期となる7歳以上は犬54.3%、猫43.5%を占めているのです(「ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査2022年」より)。

理由としては、動物用フードを中心とした食生活の変化、医療の進歩、そして先にも書いた、完全室内飼いによる事故死や自然死の減少などです。飼育場所では、犬は61.4%が「散歩・外出時以外は室内」と増加傾向にあり、猫は80%以上が「室内のみ」ということからもわかります。
○飼育できなくなるケースを見越して対策を

動物は人より早く時間が進むので、ペットを看取る悲しみを経験したことがある方は多いことでしょう。ただし、当然ですが、人も歳を取ります。

WHOの定義では65歳以上がシニアとなりますが、例えば、ご自身が65歳で産まれたばかりの子猫を引き取るというのであれば、寿命が15年ならご自身も80歳までその子のお世話をできる元気と活力を保ち、さまざまな費用を負担できる金銭的余裕を蓄えていなければなりません。他の動物でもほぼ同じです。また犬やねこも人と同じく、認知症になる子や介護が必要になる子がいることは認識しておく必要があるでしょう。

シニア世代になると体力や経済力の個人差が大きくなりますし、いつ、どこで、何が起こるかは、ご本人を含めて誰にもわかりません。子猫と言わずとも、動物を飼っている一人暮らしの方が突然倒れて、一カ月の入院を余儀なくされる可能性はないとは言いきれません。

もし、彼らが夏の屋内に一カ月も閉じ込められていたとしたら? 真冬に野生の勘のない子が外に飛び出していたら? 家族がいたとしても、何かの拍子に外に出て迷ってしまうかも? どの状況でもゾッとしますよね。私ももし”くろ”相談役が……と思ってちょっとゾッとしました。

そんなわけでまずオススメしたいのが、何か問題が起こったり、どうしても飼い続けられなくなったりした場合には、家族のAに(ここは「友達のBさん」でも「知人のCさん」でも構いません)お世話をお願いする、といった約束をしておくことです。

特に、プレシニアやシニアにあたる年代で、動物を飼われている方はなるべく早く考えられたほうがよいでしょう。どうしても家を空けなければならない用事など、普段からお願いできる関係性が築けていると、もしもの時の安心感も段違いに高まります。また先に慣れてもらっておくことは、犬やねこ自身の緊張を和らげることにも繋がってくれます。

こうしたお願いを快く引きうけてくださる方はきっと動物好きの方でしょう。慣れている方や好意的な方が多いかと思いますが、一方でお世話をお願いする側としては、先方の負担を軽くするような準備も多少はしておきたいものです。

ちなみに、ペットの飼育を諦める理由で最も多いのが「フードと医療費の支出」(犬)や「飼育費用とお世話の負担」(猫)という費用面。そう考えると、一年にかかるフードやトイレ、医療費などを計算した上で、「もし長期に預かってもらうことになった場合は、1年分のお世話代をお渡しする」といった項目なども加えてお伝えすれば、お願いはかなりしやすくなるのではないかと思います。
○ペットの相続にも「遺言書」が有効

そしておなじみ、元気なうちにできる約束事といえば遺言書。もちろんこの遺言書にもペットの飼育に関する要望を記すことができます。家族と考えている方には申し訳ないのですが、法律上ペットは動産(もの)となるため、文言は時計や貴金属を譲る時と近い形になります。

と言っても「ペットの●●は娘の△△に托します。そのお世話代として●●円と●●を贈与します」といった財産の贈与は可能ですし、関係性の遠い方などでなんとなく心配が残るというのであれば「ペットの●●の飼育をお願いする代わりに●●円を托します」といった、負担付贈与の形にすることもできます。

また身近にお願いできる方が見つからなかったとしても、終生飼育活動に取り組む団体と契約しておけば、その団体名との契約事項として記載できます。本記事では団体の詳細は省きますが、興味のある方はぜひ検索してみてください。弊事務所のブログにもリストアップしていますので、よろしければどうぞ。

人の言葉は話せなくても、動物たちは自分が家族の一員だときちんとわかっています。信頼してくれる彼らを悲しませたり、苦しませたりしないように、きちんと準備をしておきたいものですね。

行政書士/木村早苗 きむらさなえ 1975年滋賀県生まれ。立命館大学大学院卒業。出版社勤務を経てフリーランスライターとして幅広い分野で執筆する。2020年に地元にUターンし、2024年に行政書士登録。行政書士川木清事務所を開設し、障害福祉サービス施設申請業務や遺言書作成や相続サポートを専門に活動中。「川木清(かわきせ)」とは曾祖父の代から使われてきた目印。ねこと音楽と洋裁が好き。 この著者の記事一覧はこちら

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