神奈川地方協力本部のトップに女性自衛官が就任しました。その本部長は、イージス艦や練習艦の艦長も務めてきた経験豊富なヒトだとか。そこで海上自衛隊大好き漫画家が突撃取材してきました。
自衛隊神奈川地方協力本部で、大谷三穂1等海佐に突撃取材をしてきました。防衛大学校の女子第1期生であり、海上自衛隊初の女性護衛艦長などの経験を持つ大谷1佐は、現在こちらで本部長を務めています。複数回に分けてお伝えするインタビューの第2回は、艦乗りとしての体験談です。
大谷1佐が神奈川地方協力本部長に就任する前に担っていたのが練習艦「かしま」の艦長です。2022年12月から2023年12月までの1年間、そのポストに就いていました。
「かしま」は江田島の幹部候補生学校を卒業したばかりの初任幹部を乗せて、実に150日という長期にわたる遠洋航海に出ます。そこで航海期間をカウントするのに使われるのが、海上自衛隊名物のカレーです。
自衛艦ならでは? 謎の「カレー」カウントダウン “女性初の練…の画像はこちら >>遠洋練習航海中に行われた赤道祭での様子。向かって左が「かしま」艦長時の大谷1佐(画像:海上自衛隊)。
海上自衛隊では、毎週金曜日の昼食にカレーが出ます。そこで、帰国までの日数を表すのに「かしま」では「あと〇〇カレー」というカウントダウンが用いられるのだとか。艦内には実際に掲示までされるそうですが、日付変更線を越えて曜日が修正されてしまうと1日早くカレーが提供されるため、乗員たちが「ん?」と妙な感覚に襲われるのも遠洋航海ならではなんだとか。
ほかにも艦長は常に身だしなみを整えていつでも艦橋に上がれるようにしておかなければならないため、化粧のタイミングなどにも気を配ったそうです。女性ならではの工夫ですね。
また、「かしま」艦長時代に印象深かった経験を聞いてみると、大谷1佐が艦長を務めたときの遠洋航海では、なんと旧日本海軍も含め、遠洋練習航海で初めてマゼラン海峡を西から東へ抜ける航路をとったのだとか。ただ、この海峡は世界的にも海の難所として知られるポイントであることから、どう攻略するかで苦心したそうです。
そこで「かしま」では、専門の「マゼラン研究会」、通称「マゼ研」を立ち上げ、メンバーはひたすら研究を重ねたそう。その甲斐あって当日は海峡を無事に航行でき、備えることの大切さを感じたと語ってくれました。
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過去に大谷1佐が艦長として乗艦していた練習艦「かしま」(画像:海上自衛隊)。
ほかにも海の難所があったか尋ねると、以外にも浦賀水道という身近な答えが返ってきました。船の航行が多く、大型船は通過するのにとても神経を使うとのことで、他国のどんな水路や運河よりも、東京湾の方が気を遣うと話してくれました。
艦艇によっても操艦の癖があり、たとえば「みょうこう」だと少し重たい感じ、「かしま」だと軽く感じるのだとか。それらの癖を見極めながら難所を潜り抜ける技術は、海上自衛隊が世界に誇る練度の高さだと、日本人ながら感じた次第です。
なお、艦長には全ての権限と責任があるため、港への入港時にもかなり気を遣うそう。特に海外では、「かしま」は外交の一端を担っているということもあり、よりしっかりとしたふるまいが求められるといいます。
乗員にも艦にも、海も守らなければならない重い責任があります。南米では日系人の出迎えもあり、中には涙しながら「よく来てくださいました」と迎えてくれる方も。大谷1佐も、日本の代表として訪問しているのだという意識を常に持ちながら任務に当たったと述べていました。
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海幕勤務時代の大谷1佐。当時は3等海佐(画像:本人提供)。
ただ、そのような重責を感じる中でも遠洋航海ならではの楽しみもあるようです。寄港地での楽しみというと、やはり現地での食事やお酒は格別だそう。特にお酒は自衛艦では飲めないので貴重な機会でもあります。
チリなどワインの産地でいただくお酒の味は、日本に輸入されたものよりも美味しく感じるのだとか。食事の場はコミュニケーションの場でもあるので、現地の食を通して交流するのも豊かな経験になったそうです。ちなみに、イギリス海軍やカナダ海軍は艦内でお酒が飲めたそうで、お国柄の違いには驚きました。
海だけでなく、食でも繋がれる世界との交流は、聞いているこちらも笑顔になれるハナシで、練習艦で世界各地を巡った大谷1佐ならではでした。次回は家族との絆についてお送りします。