地域包括ケアシステムとは、日常生活圏域(おおむね30分以内に必要なサービスが提供される範囲)を単位として、医療、介護、予防、住まい、生活支援のサービスが切れ目なく提供される体制のことです。このシステムが実現すれば、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるようになります。
この概念は2005 年の介護保険法改正の第3期介護保険事業計画において提唱され、2025年目途で構築することを目標としていますが、現状はどうなのでしょうか。先進自治体を紹介しつつ、今後の展望についても検討していきます。
地域包括ケアシステムは、日常生活圏域(おおむね30分以内に必要なサービスが提供される範囲)を単位として、医療、介護、予防、住まい、生活支援のサービスが切れ目なく提供される体制のことです。このシステムが実現すれば、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるようになります。
地域包括ケアシステムの特徴は、地域の実情に応じて、市町村や都道府県が主体となって作り上げていく点です。全国一律のサービスではなく、それぞれの地域の特性や課題に合わせたシステムを構築することで、より効果的な支援が可能になります。
地域包括ケアシステムが必要とされるようになった背景には、複数の要因が絡み合っています。
高齢者人口の増加は最も大きな要因の一つです。2025年には65歳以上の高齢者が総人口の30%を超えると予測されており、医療・介護のニーズが急増することが見込まれています。
同時に、単身高齢者と高齢者のみ世帯の増加も進んでおり、従来の家族による支援だけでは十分な介護を提供できない状況が増えています。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、65歳以上の一人暮らし高齢者の増加率は男性で400%以上、女性で300%以上となっています。地域包括ケアシステムとは? 2025年問題到来目前の現状と先…の画像はこちら >>
また、認知症高齢者の増加も大きな課題となっています。厚生労働省研究班の推計によると、2025年には認知症の人が約700万人に達すると予測されており、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。
今後はより認知症の人とその家族を地域全体で支える体制づくりが急務となっています。
加えて、地域間格差の問題も顕在化しています。都市部では急速な高齢化が進む一方、地方では人口減少と高齢化が同時に進行するなど、地域によって課題が異なります。
このように大きな、そして各地によって実態の異なる課題に対応するためには、従来の全国一律の制度では限界があります。そこで、地域の実情に応じた柔軟なサービス提供体制として、地域包括ケアシステムの構築が進められることになったのです。
地域包括ケアシステムは、「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」の5つの要素で構成されています。これらの要素が有機的に連携することで、高齢者の包括的な支援が可能になります。
1. 医療
医療面では、急性期の対応から在宅医療まで、切れ目のないサービスが求められます。具体的には、かかりつけ医による日常的な健康管理、病院による専門的な治療、訪問診療や訪問看護による在宅医療などが含まれます。
2. 介護
介護面では、要介護状態になっても自立した日常生活を送れるよう支援するサービスが提供されます。例えば、訪問介護(ホームヘルプサービス)、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)、小規模多機能型居宅介護などがあります。
これらのサービスを、医療や予防、生活支援と連携させながら、高齢者一人ひとりの状況に合わせて包括的に提供することが、地域包括ケアシステムにおける介護の役割です。また、家族介護者への支援も重要な要素となります。
3. 予防
予防には、介護予防と疾病予防の2つの側面があります。具体的な取り組みとしては、運動教室や体操教室の開催、栄養指導や口腔ケアの推進、認知症予防プログラムの実施、社会参加の促進などがあります。
栄養指導や口腔ケアの推進、認知症予防プログラムの実施、社会参加の促進などがあります。
地域によっては、地域包括支援センターが主導して実施している場合が多いです。
4. 住まい
住まいは、地域包括ケアシステムの基盤となる重要な要素です。自宅、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、認知症高齢者グループホームなど、多様な選択肢が含まれます。
5. 生活支援
生活支援は、高齢者の日常生活を支える様々なサービスを指します。配食サービス、買い物支援、見守り・安否確認、外出支援、家事援助などが含まれます。
これらの5つの要素が連携することで、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることが可能になります。
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地域包括ケアシステムを支える基本的な考え方として、「自助」「互助」「共助」「公助」という4つの「助」があります。これらは、高齢者の生活を多角的に支える重要な概念です。
1. 自助
自助とは、自分自身や家族による支援を指します。具体的には、健康維持のための運動や食生活の改善、将来に備えた貯蓄などが挙げられます。高齢期の暮らしを自分らしく過ごすためには、この「自助」の力を最大限に活用することが重要です。
2. 互助
互助は、地域住民やボランティアなどによる支え合いを指します。近所の高齢者の見守りや、地域行事への参加などが該当します。少子高齢化が進む中で、互助の重要性が高まっています。
3. 共助
共助は、介護保険制度などの社会保険制度を通じた支え合いを指します。みんなで保険料を出し合い、必要な人が必要なサービスを利用できる仕組みです。
4. 公助
公助は、税金を財源とした行政による福祉サービスなどの支援を指します。生活保護や障害者福祉サービスなどが該当します。
これらの4つの「助」が相互に関連し合いながら、高齢者の生活を支えていきます。今後の超高齢社会では、「自助」「互助」の重要性がさらに高まると考えられています。特に「互助」については、地域のつながりの希薄化が進む中で、いかに地域の支え合いの力を高めていくかが課題です。
地域包括ケアシステムの構築は、各市町村が地域の特性に応じて進めていきます。その構築プロセスは、大きく分けて以下の3つのステップです。
まず、地域の課題把握と社会資源の発掘では、地域ケア会議の実施や日常生活圏域ニーズ調査などを通じて、高齢者のニーズや地域の課題、既存の社会資源の状況を明らかにします。この段階では、地域資源の発掘、地域リーダーの発掘、住民互助の発掘も重要な取り組みとなります。
次に、把握した課題に対する対応策を地域の関係者で検討します。この過程では、医療・介護情報の「見える化」を進め、他市町村との比較検討も行います。また、都道府県との連携や関連計画との調整、住民参画の促進など、多角的な視点からの検討が求められます。
最後に、検討した対応策を決定し、実行に移します。この段階では、介護サービスの基盤整備、医療・介護連携の強化、住まいの確保、生活支援・介護予防の推進、人材育成などの具体的な施策を展開します。
これらのプロセスは、PDCAサイクルを通じて継続的に改善されていくことが重要です。また、地域ケア会議等を通じて地域課題を共有し、年間事業計画に反映させていくことで、より効果的なシステム構築が可能となります。
地域包括ケアシステムを効果的に機能させるために、重要な役割を果たしているのが地域包括支援センターと地域ケア会議です。
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行う、地域包括ケアシステム上、中核的な機関となります。主な業務には総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務、介護予防ケアマネジメントなどがあります。厚生労働省の調査によると、2021年4月時点で全国に5,351か所の地域包括支援センターが設置されています。
一方、地域ケア会議は、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備を同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法です。
具体的には個別課題解決機能、ネットワーク構築機能、地域課題発見機能、地域づくり・資源開発機能、政策形成機能などを持っています。地域ケア会議では、多職種の専門家や地域の関係者が集まり、個別のケースについて検討を行います。そこで見えてきた地域の課題を整理し、必要なサービスの考案や政策の立案につなげていきます。
これらの仕組みにより、地域の実情に応じた柔軟なサービス提供や、多職種連携の強化が図られています。地域包括支援センターと地域ケア会議は、地域包括ケアシステムの要となる存在です。
地域包括ケアシステムの構築は、各自治体の実情に応じて進められています。ここでは、先進的な取り組みを行っている自治体の事例を紹介します。
東京都世田谷区では、医療と介護の連携強化に力を入れています。
医療連携推進協議会の設置により、医師会や歯科医師会、薬剤師会、介護事業者などが参加し、在宅医療の推進や多職種連携の強化を図っています。また、定期巡回・随時対応型訪問介護・看護の推進により、24時間365日のサービス提供体制を整備し、在宅生活の継続を支援しています。
さらに、社会参加を通じた介護予防として、高齢者の居場所づくりと社会参加の促進を目的に、「まちづくりセンター」を拠点とした住民主体の活動を支援しています。世田谷区の取り組みの特徴は、既存の地域資源を最大限に活用しながら、新しいサービスを導入している点です。
新潟県長岡市では、小地域ごとの包括的なサービス提供体制の構築に力を入れています。
長岡駅を中心に13カ所のサポートセンターを設置し、医療・介護・予防・生活支援・住まいのサービスを一体的に提供しています。また、小規模多機能型居宅介護事業所を地域交流の場として活用し、高齢者と地域住民の交流を促進しています。
さらに、町内会や民生委員、ボランティアなどと連携し、見守りや生活支援の体制を構築する住民参加型の支え合い活動を展開しています。長岡市の取り組みの特徴は、「顔の見える関係づくり」を重視している点です。
地域包括ケアシステムの構築には、さまざまな課題があります。
医療・介護の連携不足は大きな課題の一つです。医療機関と介護事業所の連携が不十分で、情報共有が不足し、切れ目のないサービス提供が難しい状況があります。
中医協総会によると、医療機関における、サービス担当者会議への参加は地域包括診療料・加算の届け出がある施設では54.0%、届け出がない施設では33.9%にとどまっているようです。
なお、約4割のケアマネがが主治医に対し、ケアプランを提出しているが、活用されているのかが不明であると感じているようです。
ケアマネから見た医療機関との情報共有の課題
この課題に対して、千葉県柏市では行政が中心となって多職種連携を推進しています。柏市では在宅医療多職種連携研修会の開催や情報共有ツールの開発と普及、医療・介護関係者の顔の見える関係づくりなどを行っています。これらの取り組みにより、医療と介護の連携が強化され、在宅医療の推進につながっています。
地域によって構築や浸透に格差が生じることも課題です。都市部と地方、また同じ自治体内でも地域によって、サービスの充実度や住民の理解度に差が生じています。
この課題に対して、鹿児島県大和村では地域支え合いマップの作成や住民ワークショップの開催など、住民主体の取り組みを促進することで、地域の特性に合ったシステム構築を進めています。小規模な地域ごとの支え合い活動の支援を行うことで、住民の主体性が高まり、地域の実情に合ったサービスが生まれています。
高齢化にともなう人材の不足も深刻な課題です。介護人材の不足が深刻化しており、サービスの質と量の確保が難しくなっています。この課題に対して、大分県竹田市では介護予防ボランティアの育成と活用に力を入れています。竹田市では介護予防サポーター養成講座の開催やボランティアポイント制度の導入、高齢者の社会参加を促進する場の提供などを行っています。元気な高齢者が支え手として活躍し、人材不足の解消と介護予防の両立を図っています。
上記でお伝えした課題に対する取り組みから、以下のような対策の手段が見えてきます。
各自治体が、これらの手段を参考にしながら、自地域の課題に応じた対策を講じていくことが重要です。
以上、地域包括ケアシステムについて、その定義から構成要素、実践例、課題、そして今後の展望まで幅広く解説しました。このシステムが円滑に稼働するためには、行政、医療・介護の専門職、そして地域住民一人ひとりの理解と協力が不可欠です。私たち一人ひとりが、このシステムの担い手であることを認識し、地域づくりに参加していくことが大切です。