[社説]海自の逮捕非公表 防衛相も責任免れない

「うみを出し切る」と公言して大量処分を発表した直後だ。「ミスだった」との言い訳では済まされない。
海上自衛隊の潜水手当不正受給問題で、潜水艦救難艦の元ダイバー4人が昨年11月、詐欺と虚偽有印公文書作成などの容疑で、海自の警務隊に逮捕されていたことが明らかになった。
自衛隊を巡ってはこの間、不祥事が相次ぎ発覚。防衛省は12日、特定秘密の不適切運用や幹部のパワハラ、海自の不正受給、自衛隊施設での不正飲食の4項目を対象に218人の大量処分を発表した。
海自は不正受給で計65人が同日付で懲戒処分を受けたと発表したものの、その中に逮捕者が含まれていることには触れなかったのである。
事態が判明したのは発表から1週間後のことだ。野党の追及が発端だった。
海自は、記者などの問い合わせを受ける形で、逮捕されたうち3人が昨年4月と11月に免職の懲戒処分を受けていたと訂正。残る1人は依願退職し、処分を受けていないことを明らかにした。
これに伴い当初は計4300万円としていた不正受給額についても、最大約5300万円に上るとした。泥縄式の対応では隠そうとしたと疑われても仕方がない。
逮捕者については、木原稔防衛相にも報告がなかったという。木原氏は適切な発信ができなかったと陳謝。「文民統制の要諦が守られていない恐れがあるなら、由々しいことだ」と述べた。
大臣自ら文民統制に懸念を示したわけだが、組織のたがが緩んでいるというほかない。
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文民統制は、軍部が暴走した戦前の反省を踏まえ、自衛隊を律する大原則だ。
過去には陸上自衛隊の国連平和維持活動(PKO)の妥当性を巡り、焦点となっていた陸自の南スーダンとイラク派遣部隊の日報隠(いん)蔽(ぺい)が相次ぎ発覚した。
今回、海自の非公表問題を受け木原氏は、公表の経緯や事実関係を調べるよう事務次官に指示したと述べた。
だが、過去の事例を見ても身内の調査による真相究明は難しい。
逮捕について組織的隠蔽はなかったのか。他に隠していることはないのか。国会で明らかにすべきだ。
一連の不祥事を受け、海自トップの海上幕僚長が19日付で事実上更迭されたほか、逮捕を非公表とした責任を取って同日付で防衛省の人事教育局長も辞職した。
国民の信頼を損ねる問題が次々と発覚しているのである。防衛省のトップである大臣の責任も免れまい。
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一連の不祥事を巡り、野党は閉会中審査を要求。自民もこれに応じる構えだ。木原氏はそこでしっかりと説明責任を果たすべきだ。
昨年12月に県内で起きた米兵による誘拐暴行事件を巡っても、外務省による隠蔽が判明したばかりである。
政府全体に情報を都合の良いようにコントロールしようとする雰囲気があるのではないか。米兵事件の隠蔽問題も国会で明らかにすべきだ。

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