日に日に世間の批判が高まっている、兵庫県の斎藤元彦知事の「パワハラ疑惑」。今月7日、斎藤知事のパワハラなどを告発した元西播磨県民局長のA氏が自ら命を絶ったことが判明し、昨日12日には右腕だった片山安孝副知事が辞職の意向を表明したが、それでも斎藤知事は「県職員などとの信頼関係を再構築して県政を立て直す」などと宣言。この期に及んでも知事の座にしがみつこうとする姿勢に、ネット上では大きな非難の声があがっている。
そもそも斎藤知事はこれまでも、強権的なパワハラ体質を全開にしてきた。実際、聞き取り調査もおこなわれていない段階から記者会見で告発文書について「嘘八百」「事実無根」とがなり立てた上、「当該文書をSNSなどを通じて公然に流布することが法的な措置の対象になるのでご注意いただきたい」と記者たちを“恫喝”。5月には内部調査の結果として「文書の内容は合理的根拠がなく、誹謗中傷に当たる」と認定し、A氏に停職3カ月の懲戒処分を下したが、その後、内部調査に協力した弁護士が、じつは告発文書内で斎藤知事の政治資金疑惑を指摘された県信用保証協会の顧問弁護士だったことまで発覚した。ようするに、利害関係者に内部調査を担わせていたのだ。
斎藤知事といえば、2018年に総務省から大阪府へ出向し、財政課長として当時大阪府知事だった松井一郎氏や吉村洋文氏に仕えてきた人物で、2021年の県知事選では維新と自民が斎藤氏を推薦、大阪以外では初の「維新系知事」となった人物。裏付けもないままに「事実無根」などと言い放つ姿勢や、記者への恫喝、パワハラ隠蔽といった言動は、まさしく吉村・大阪府知事や松井氏を彷彿とさせるものだ。
だが、今回の「パワハラ自殺」事件についていうと、斎藤知事と維新は単に体質が似ているというレベルの話ではない。自殺した元幹部職員A氏は、パワハラ以外に、吉村知事がぶちあげた施策にからむ県の疑惑を告発しており、維新の県議らが斎藤知事と一体となって、A氏の口封じをしようとしていたのではないか、という見方が流れているのだ。
実際、ここにきて、維新の県議らが、告発をおこなったA氏を追い込んでいた問題が報じられている。
10日付の「デイリー新潮」と13日付の「AERA dot.」の記事によると、告発文書が関係各所に送付されたあとの3月25日、副知事と人事課長がA氏のパソコンを押収。6月14日に実施された疑惑の真偽を調査するための百条委員会の初会合では、そのパソコンに残っていた告発文書とは関係のない、A氏にとって他人に知られたくない「ごく私的な内容」の文書までをも、百条委で開示しようとする動きがあった。このことに、A氏は「かなりナーバスになっていた」といい、7月初旬に弁護士を通じ、内部告発と関係のない部分は百条委で開示しないよう求める申入書を提出していたという。
では、いったい誰がA氏のプライバシーにかかわるような資料まで開示しようとしたのか。「AERA dot.」では、それが「維新の県議」であると指摘。このころ、維新の県議から「元局長をつるし上げてやる」といった発言を聞いた、という証言もあったという。
その上、7月8日に開かれた百条委の臨時理事会では、維新の県議はこのように主張したのだという。
「告発文書には、斎藤知事の自宅や好き嫌いなどの記述がある。プライベートなことを取り上げているのだから、(元局長が)自らの調査結果はプライベートな問題だから公開しないでとは、あまりに都合のいい身勝手な論理ではないか」
結果として、この日の臨時理事会ではA氏の申し入れが認められ、告発文書とは関係のない資料については開示しないことが決定したというが、すでにこのときA氏は亡くなっていた。
本来、公益通報者であるA氏は保護されるべき対象だ。何度もA氏を取材してきたというジャーナリストの今西憲之氏は「AERA dot.」の記事のなかで、6月末にA氏を直接取材した際、「百条委員会で語ることが兵庫県の未来のためになると信じている」と前向きに語っていた、と記している。維新の県議が、プライバシーを含むすべての情報の開示を求めるという脅しのような暴挙に出ていなければ、A 氏は自死に追い込まれていなかったのではないか。
そもそも、県議会で百条委の設置を求める動議が提出されたときも、維新の県議は揃って反対に回った。少なくとも、斎藤知事と維新の県議が真実の追及に後ろ向きな言動をとってきたことは、たしかな事実だ。
斎藤知事だけでなく維新の県議までがなぜ、ここまでして真相を明らかにするのを妨害しようとしたのか。それは、A氏が斎藤知事と維新にとって暴かれたくない、もっと大きな問題を告発しようとしていたからではないのか。
テレビでは斎藤知事によるパワハラ疑惑やおねだり体質ばかりにスポットを当てているが、それらはA氏の告発の一部にすぎない。じつは、さらに重大な問題をA氏は告発していた。
A氏が作成した告発文書では、斎藤知事のパワハラやおねだり体質のほかにも、2021年の知事選で斎藤氏の当選のために事前運動をおこなった4人の県職員が論功行賞で昇格した疑惑や、商工会議所に圧力をかけて斎藤知事の政治資金パーティ券を大量に購入させた疑惑など、7項目を設けて問題を指摘。そのなかでも目を引くのが、「優勝パレードの陰で」と記された項目だ。
ご存知のとおり、吉村知事は昨年、斎藤知事らとともに、大阪万博の機運醸成を狙って阪神タイガースとオリックス・バッファローズの「優勝パレード」の開催をぶち上げた。その際、開催にかかる資金に公費は投入しないとし、資金確保のためクラウドファンディングで5億円を集めることを目標に掲げたが、集まった金額は1億円程度。最終的に大阪府と兵庫県が地元企業から約5億円の協賛金を集めて賄った。
だが、告発文書では、その裏側でとんでもない協賛金集めがおこなわれていたと記されているのだ。
〈信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバックさせることで補った。幹事社は■■信用金庫。具体の司令塔は片山副知事、実行者は産業労働部地域経済課。その他、■■バスなどからも便宜供与の見返りとしての寄附集めをした。パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、うつ病を発症し、現在、病気療養中。〉(編集部注:伏せ字部分は原文では実名)
県が補助金を増額し、それを協賛金としてキックバックさせていた。これがもし事実であれば、違法性も問われかねない公費の不正支出だ。「まさか、そんなことまでするだろうか」と、にわかには信じがたい話ではある。
しかし、実際には「まったく根拠のない話」でもないようだ。たとえば、丸尾牧・兵庫県議(無所属)が5月15日付で斎藤知事に宛てた申入書では、この優勝パレードに絡んだ告発について、こう言及している。
〈私が、地域産業経済課に確認したところ、10月頃に中小企業への事業継続支援として、事業者への伴走支援を実施する金融機関に対する補助を継続することを決め、実際の支出はまだ先ですが、既に4億円の交付決定が行われています。その補助を受ける金融機関20社中12社が優勝パレードで寄付をした金融機関です。「前年度よりも補助総額が下がったから問題なし」ではなく、翌年度に継続が決まっていない事業が、なぜ継続されるようになったのか、その経緯について、もう少し掘り下げた調査が必要です。〉
また、鹿児島県警の不正を追及し、内部告発問題で不当な家宅捜索を受けたことで一躍注目を集めているニュースサイト「HUNTER」では、兵庫県内の会社経営者で地元商工会でも活躍するという人物が、こんな証言をおこなっている。
「優勝パレードに寄付した信用金庫がうちの会社の取引金融機関です。昨年12月の忘年会で信用金庫の幹部と話した時に、『兵庫県は、小さな信用金庫にまで寄付を求めてくる。すぐ返事しないでいると補助金がついた。そのお礼で寄付した。いい宣伝にはなったが、露骨だ』とぼやいていました」
さらに問題なのは、告発文書のなかで「病気療養中」と記載されている、パレードを担当した課長についてだ。5月16日の県議会では、このパレード担当課長について「お亡くなりになったのではないか」という旨の質問がおこなわれたのだが、答弁に立った県側の職員は「亡くなったかどうか、現時点ではお答えできません」と回答。斎藤知事も個人情報を理由にしてノーコメントを貫いている。
だが、「FRIDAY DIGITAL」5月27日付記事では、捜査関係者が「今年4月20日、たしかに当該の総務課長さんが遺書を残して亡くなられています」とコメント。同様に「現代ビジネス」や日刊ゲンダイでも「亡くなったことはまず間違いない」「4月20日に自宅で自ら命を絶ったと聞いています。パレード直前は相当な超過勤務を強いられていたようです」という証言が掲載されている。
優勝パレードを担当した課長がなぜ自死を選んだのか、その理由はわかっていない。しかし、告発文書の記述がもし事実であったとすれば、とんでもない不正行為を強いられていた可能性もある。
吉村知事が大阪万博のPRのためにぶち上げた「優勝パレード」の裏側で、どのような協賛金集めがおこなわれていたのか。不正に手を染めさせられたかもしれないパレードの担当課長、そして強い覚悟で告発をおこなったにもかかわらず、自死に追い込まれたA氏の思いを無駄にすることは、けっして許されない。
斎藤知事は辞職することはもちろんのこと、A氏が遺した告発の真相究明をおこなうことこそが課せられた責任だ。そして、斎藤氏を知事に推薦した維新にも責任は伴う。吉村知事は斎藤知事の進退について、「政治家なので、最終的には政治家本人が判断することだと思う」などとコメントしているが、吉村知事は他人事のフリなどできない立場であると指摘しておきたい。