[社説]米兵事件の伝達見直し 連携深め実効性高めよ

米兵による性的暴行事件の情報が県に伝えられていなかった問題で、政府が県内自治体への伝達の見直しを発表した。
容疑者が米軍関係者であることを捜査当局が認定した事件について、非公表であっても例外なく地元自治体に伝える。
林芳正官房長官は「関係省庁で連携の上、可能な範囲で自治体に情報伝達する」と述べ、捜査当局から外務省、防衛省を通して自治体に情報を伝える方針を示した。
県内では6月に入って、米兵による2件の性的暴行事件が発覚した。いずれも地元メディアで報道されるまで県や市町村に連絡がなく、県民に反発が広がっていた。
玉城デニー知事が言うように、通報体制の見直しは「一歩前進」といえる。
ただ、情報伝達は再発防止の一つの取り組みであって、それだけでは実効性のある対策とはいえない。
エマニュエル駐日大使自身「現在の予防策が十分ではないことは明らかだ」とし、研修と教育に重点的に取り組む必要があると述べている。
米軍は現在、隊員にどのような教育を実施しているのか。日本では2017年の刑法改正で性犯罪は告訴しなくても罪に問える非親告罪になったが、こうした日本の法制度が理解されているのか。
性暴力は重大な人権侵害である。米軍は、隊員教育の在り方をきちんと「見える化」して県民に示さなければならない。
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米兵事件が相次いだことを受け、2000年に日米両政府や地元自治体などによる「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム(CWT)」が発足した。
ところが17年4月を最後に開かれていない。
中断しているこの会議を定例化して、米軍絡みの事件を共有、検証するなど機能させるべきだ。
昨年12月の米兵の少女誘拐暴行事件で県警は米側に身柄の引き渡しを求めなかった。
1995年に起きた米兵による暴行事件をきっかけに、凶悪犯罪の場合、米側が応じれば起訴前に身柄の引き渡しができるようになった。
引き渡しを求めないのは「主権の放棄」にも等しい。
日本国内で日本人が被害者となった事件である。
合意事項を強化する方向に進めることこそ必要だ。
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相次ぐ米兵事件を受け、各市町村議会が抗議決議案を可決し、県議会も10日に決議する。「人権と命について考える緊急抗議集会」が那覇市で開かれ、登壇者が怒りや悲しみ、悔しさを口々に訴えた。こうしたさなかに米兵による新たな性犯罪が発生した。
林官房長官の会見で気になる発言があった。「情報が不適切に扱われた場合は伝達を取りやめざるを得ない」。県内自治体をけん制するようにも取れるが、情報を共有しているのは国や捜査当局も同じだ。
情報伝達の見直しと隊員教育、中断している会議を組み合わせた対策で再発防止の実効性を高める必要がある。

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